トランプ氏の「正しい問い」と「誤った答え」の危うさ
はじめに
トランプ米大統領の政策には、ある共通したパターンがあります。問題の認識自体は多くの人が共感できるものでありながら、その解決策が的外れ、あるいは過激すぎるという構図です。中南米の麻薬カルテル問題、イランの体制問題、そして米中貿易不均衡——いずれも国際社会が長年取り組んできた課題です。
しかし、2026年1月に入ってからのトランプ政権の動きは、この「正しい問い、誤った答え」のパターンをかつてないほど鮮明にしています。フィナンシャル・タイムズのグローバル・ビジネス・コラムニスト、ラナ・フォルーハー氏をはじめ、多くの専門家がこの構造的問題に警鐘を鳴らしています。本記事では、トランプ政権の主要政策を検証し、なぜ「正しい問題提起」が「危険な政策」へと変質するのかを分析します。
ベネズエラ介入——麻薬対策か石油利権か
マドゥロ拘束作戦の衝撃
2026年1月3日、トランプ大統領は「オペレーション・アブソリュート・リゾルブ」と名付けられた軍事作戦を実行し、ベネズエラのマドゥロ大統領を拘束しました。米軍はカラカスのフエルテ・ティウナ軍事基地を急襲し、マドゥロ氏と妻のシリア・フローレス氏を拘束、ニューヨークへ移送しました。
この作戦でベネズエラ側の治安要員24人が死亡したとされています。マドゥロ氏は1月5日にマンハッタン連邦裁判所で麻薬テロリズムの罪について無罪を主張しています。
石油利権への野心
トランプ大統領は麻薬カルテルの撲滅を大義名分に掲げましたが、同時にベネズエラの石油資源への関心を隠していません。ベネズエラは世界最大の確認埋蔵量(3,030億バレル、世界の17%)を誇る産油国です。
トランプ氏は米国の大手石油企業を送り込み「数十億ドルを投じてインフラを修復する」と宣言しました。さらに、3,000万〜5,000万バレルの石油を取得すると表明し、その取引額は最大28億ドルに達する可能性があります。「国を運営する」とまで発言したことは、国際社会に大きな衝撃を与えました。
問題の本質
麻薬カルテルが中南米の深刻な問題であることは間違いありません。しかし、一国の元首を軍事力で拘束し、石油利権を確保することが麻薬問題の解決策になるかは疑問です。ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ウルグアイ、スペインの6カ国は、この軍事行動を「平和と地域安全保障にとって危険な前例」と非難しています。
イランへの威嚇——正当な懸念と危険な手法
抗議デモと軍事介入の脅し
イランでは2025年12月末から経済悪化を契機にした抗議デモが拡大し、聖職者体制への挑戦へと発展しています。トランプ大統領は「過去のように人々を殺し始めたら、米国から非常に厳しい打撃を受けることになる」と警告しました。
ホワイトハウスはイランに対する軍事オプションの検討を進め、中東最大の米軍拠点であるカタールのアル・ウデイド空軍基地から一部要員の退避が指示されたとの報道もあります。これはイラン攻撃とその報復への備えではないかとの観測を呼んでいます。
体制変革の是非
世界の多くがイランの体制転換を望んでいるという見方には一定の根拠があります。しかし、軍事的威嚇でそれが実現するかは別問題です。イランの経済は長年の米国制裁に耐えてきた実績があり、通貨が暴落しているものの、中国向けを中心に原油輸出を続けています。
ベネズエラ作戦の「成功」がイランへの軍事行動のハードルを下げているとの懸念も広がっています。リンゼー・グラム上院議員が「キューバとイランの指導者は心配すべきだ」と発言したことは、この連鎖の危険性を示しています。
関税政策——正当な問題意識と自滅的な処方箋
貿易不均衡への取り組み
米中貿易の不均衡を是正し、特定の製造業サプライチェーンを国内回帰させるという方針自体は、多くの経済専門家が支持する方向性です。ラナ・フォルーハー氏も、40年間の新自由主義的な経済正統派からの揺り戻しという文脈でこの動きを理解しています。
過剰な保護主義の代償
しかし、フォルーハー氏が指摘するように、トランプ氏の保護主義は「過剰な殺傷力」を持っています。関税は米国内の物価高を悪化させ、国民の生活コストを押し上げています。トランプ就任以降、米国は製造業で約5万人の雇用を失っており、約束された製造業復活の効果は限定的です。
フォルーハー氏は「国内産業を支援するには国内外の両方で施策が必要だが、関税という一面だけしか見えない」と批判しています。関税だけでは雇用創出、産業保護、安全保障強化のすべてを同時に達成することはできないのです。
注意点・展望
トランプ政権のアプローチには「ドンロー・ドクトリン」と呼ばれる新たな外交原則が見え隠れします。1823年のモンロー・ドクトリンを拡張し、西半球における米国の介入権を事実上主張するものです。
今後の注目点は3つあります。第一に、米最高裁が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくトランプ氏の広範な関税権限を認めるかどうか。第二に、イランへの軍事行動が実行に移されるかどうか。第三に、ベネズエラの統治体制がどう推移するかです。
上院はすでにベネズエラに関する政権の将来的な行動を制限する決議を可決しています。議会と司法がどこまで歯止めをかけられるかが、今後の鍵を握るでしょう。
まとめ
トランプ大統領の政策を「すべて間違い」と断じるのは簡単ですが、問題の本質はそこではありません。麻薬カルテル、権威主義体制、貿易不均衡——これらは実在する問題です。しかし、軍事力による他国への介入、一方的な威嚇外交、過剰な保護主義関税という「答え」は、問題を解決するどころか新たなリスクを生み出しています。
国際協調の枠組みの中で、同盟国と連携しながら問題に取り組むという選択肢が、今あらためて問われています。
参考資料:
- Venezuela and Beyond: Trump’s ‘America First’ Rhetoric Masks a Neo-Imperialist Streak | CFR
- Making sense of the US military operation in Venezuela | Brookings
- Trump says U.S. is “in charge” of Venezuela | CBS News
- Trump’s Potential Next Targets After Venezuela | TIME
- What are Trump’s military options for an attack on Iran? | Al Jazeera
- How Trump’s Foreign Policy Gambits Are Reshaping the World | TIME
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