トランプ氏がダボス会議を席巻、多国間主義の危機浮き彫りに
はじめに
2026年1月19日から23日にかけて、スイス・ダボスで第56回世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)が開催されました。「対話の力」をテーマに掲げた今年の会議は、過去最大規模となる約3,000人のリーダーが集結しました。
しかし、会議の主役は明らかにドナルド・トランプ米大統領でした。過去最大規模の米国代表団を率いて登場したトランプ氏は、グリーンランドの領有権主張やNATO批判など、多国間主義を真っ向から否定する演説を展開。会場は不気味なほど静まり返り、まばらな拍手だけが響きました。
G7や国連など国際機関の機能不全が鮮明になる中、グローバリゼーションを推進してきたダボス会議そのものが「怪物の時代」を映し出す舞台となっています。
過去最大の米代表団を率いたトランプ演説
1時間超の独演会
2026年1月21日、トランプ大統領はダボス会議で1時間以上にわたる演説を行いました。就任からちょうど1年となるこの日、トランプ氏はベッセント財務長官、ルビオ国務長官をはじめとする過去最大規模の米国代表団を伴って登場しました。
演説では、バイデン政権下の「悪夢」からの脱却を強調し、米国が「地球の経済エンジン」として完全復活を遂げたと自画自賛。インフレ抑制と経済成長の両立を「最高の功績」として並べ立てました。
しかし、満員の聴衆で埋め尽くされた会場は、演説の大半の時間、不気味なほど静まり返っていました。トランプ氏が期待したであろう熱狂的な喝采は、ついに起こりませんでした。
グリーンランド領有権の主張
演説の中でトランプ大統領は、デンマーク自治領グリーンランドの取得を巡り、即時の交渉を求めると表明しました。武力行使の可能性は排除したものの、「NATOはグリーンランドに対する完全な権利を米国に認める義務がある」と述べ、応じなければ「結果を伴う」と警告しました。
さらにトランプ氏は、グリーンランド問題でデンマークを支持する欧州諸国に対し、10%の輸入関税を課すと発表。EUや英国と結んだ貿易合意を踏みにじる動きとして、欧州側の反発を招きました。
冷ややかな聴衆の反応
演説をひと目見ようと、参加者たちは1時間以上も列をつくりました。しかし、実際の反応は予想以上に冷ややかでした。
ある参加者はメディアに対し、トランプ氏が「いくつか良いこともしている」と認めつつも、「同盟国をこんなふうに扱う人間に、人は拍手など送りたくないものだ」と語りました。ダボス会議の夕食会では、ラトニック米商務長官の欧州批判演説に対し、ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁が途中退席するという波乱もありました。
多国間主義の機能不全
66の国際機関からの脱退
トランプ政権は2期目において、多国間主義からの明確な離脱姿勢を示しています。ホワイトハウスは国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)をはじめ、66の国際機関から米国を脱退させることを発表しました。
2025年9月の国連総会演説では、トランプ大統領は「国連は機能していない」「不法移民をサポートしている」「気候変動は史上最大の詐欺」などと国連を痛烈に批判。大部分を国連や他国の政策の失敗に焦点を当て、米国は多国間主義から背を向けると世界に発信しました。
グテーレス国連事務総長は遺憾の意を示し、加盟国の義務としての分担金支払いを求めましたが、トランプ政権は国際機関への拠出見直しを指示。2026年度予算案では、国連の分担金と任意拠出金合わせて33.3億ドルの停止を盛り込みました。
国際機関への深刻な影響
米国の財政支援削減は、国際機関に深刻な影響を与えています。国連は2025年の全体支出を2023年比で7割程度に抑える必要が生じました。
国際移住機関(IOM)は本部職員の約2割にあたる250人以上を削減。国連の人道問題調整事務所(OCHA)も全体の2割にあたる約500人の職員削減を発表しました。世界各地の人道支援活動に深刻な支障が出ることが懸念されています。
G7の結束も困難に
多国間主義を嫌うトランプ政権の姿勢は、G7(主要7カ国)の結束にも影を落としています。トランプ大統領は以前からG7が機能していないと批判し、むしろロシアの再加入によるリシャッフルを望む発言を繰り返してきました。
今回のダボス会議にはG7首脳のうち6名が出席しましたが、会議直前にマクロン仏大統領が提案したG7緊急首脳会議は調整が難航し、実現しませんでした。
欧州の対応と分断
EUの反発
ダボス会議でトランプ大統領が演説を行う前日、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は強い危機意識を示す演説を行いました。
「米国は仲間だし同盟国だ。一方で、戦略的にアプローチする必要がある」と述べ、「グリーンランドは交渉不可である」と明言。トランプ氏の関税脅威を「脅迫」と非難し、対抗措置は「揺るぎなく、団結し、比例的に行う」と宣言しました。
複雑な各国の立場
一方で、欧州内部にも複雑な事情があります。一部の欧州財務大臣はトランプ氏の脅しを「TACO(Trump Always Chickens Out)瞬間」と揶揄し、期限が近づくと後退する可能性があると見ています。
IMFのチーフエコノミストは、10%の追加関税の経済的影響はGDPを0.1〜0.2%減らす程度と分析。しかし、エスカレーションによる世界経済への影響は0.3ポイントの成長押し下げにつながると警告しています。
ウクライナ問題の行方
ダボス会議のもう一つの焦点は、ウクライナ和平をめぐる外交協議でした。ゼレンスキー・ウクライナ大統領も出席し、各国首脳との会談が行われました。
しかし、トランプ大統領がウクライナ支援に消極的な姿勢を示す中、和平に向けた具体的な進展は見られませんでした。欧州諸国は米国抜きでのウクライナ支援継続を模索する状況に追い込まれています。
「対話の力」というテーマの皮肉
分断を象徴する会議に
今年のダボス会議のテーマは「対話の力(Spirit of Dialogue)」でした。地政学的変動、経済構造の大きな変革、テクノロジーの急速な進歩を背景に、分野横断的思考と迅速な協調行動の重要性が掲げられていました。
しかし皮肉なことに、会議は対話の困難さを浮き彫りにする場となりました。トランプ大統領の一方的な演説と冷ややかな聴衆の反応は、国際協調の限界を象徴していました。
グローバルエリートの苦悩
ダボス会議は長年、グローバリゼーションと多国間主義を推進するエリート層の交流の場として機能してきました。しかし今、その基盤そのものが揺らいでいます。
多国間主義に背を向けるトランプ政権、機能不全に陥った国連、結束が困難になったG7。世界経済フォーラムが掲げてきた理念は、現実の国際政治から乖離しつつあります。
まとめ
2026年のダボス会議は、国際秩序の変容を象徴する出来事となりました。過去最大規模の米代表団を率いたトランプ大統領は、グリーンランド領有権の主張やNATO批判など、多国間主義を否定する姿勢を鮮明にしました。
「対話の力」というテーマとは裏腹に、会場は一方的な演説と冷ややかな反応に包まれました。66の国際機関からの脱退を進め、国連への拠出を削減するトランプ政権の姿勢は、戦後の国際秩序に根本的な転換を迫っています。
建国以来の孤立主義への回帰とも言われる米国の動きに対し、欧州をはじめとする各国がどう対応していくのか。グローバリゼーションの恩恵を享受してきた世界は、新たな秩序の模索を迫られています。
参考資料:
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