「ドンロー主義」で近づく日韓、米国依存からの脱却模索
はじめに
トランプ米大統領が掲げる「ドンロー主義」への懸念から、日本と韓国の連携が加速しています。2026年1月13日、高市早苗首相と李在明大統領が奈良市で会談し、戦略的連携を確認しました。米国のアジア関与低下リスクに備え、同盟国同士の結束を固める動きです。
本記事では、ドンロー主義の内容と、日韓両国の対応について解説します。
ドンロー主義とは
西半球重視の外交ドクトリン
「ドンロー主義」は、トランプ大統領の名前(ドナルド)と19世紀の「モンロー主義」を組み合わせた造語です。南北アメリカ大陸を中心とする「西半球」における米国の覇権確立と、域外勢力(中国・ロシア)の排除を掲げています。
2025年12月に公表された国家安全保障戦略(NSS)でモンロー主義を基礎に据える方針が明確化され、2026年1月のベネズエラ軍事介入により、実質的な外交ドクトリンとして確立しました。
東半球からの戦略的撤退
ドンロー主義の懸念点は、西半球に注力する代わりに、アジアや欧州への関与が低下するリスクです。NSSでは日本など同盟国に「自分の地域で主要な責任を引き受ける」よう求めており、防衛費の負担増加も要求しています。
トランプ政権がNATOの形骸化や在韓・在日米軍の縮小を交渉カードとして利用する可能性も指摘されています。
日本政府の懸念
アジア関与低下への危機感
日本政府はドンロー主義への警戒を強めています。南北米大陸中心の「西半球」で勢力圏確立を目指す姿勢は、日本を含む「東半球」での米国の存在感低下につながりかねないためです。
日本外務省幹部は「インド太平洋の平和と安定は米国の存在なくしてあり得ない」と危機感を示しています。米国が「裏庭」への介入に国力を注げば、アジアへの関心低下につながる可能性があります。
G2論への懸念
トランプ大統領は2025年10月に米中両国を「G2」と表現しており、ドンロー主義の先に両国が勢力圏を分け合う「G2」論が再燃する恐れもあります。米中で世界を二分する構図になれば、日本は難しい立場に置かれます。
高市首相は、トランプ大統領が4月に訪中を予定していることを踏まえ、3月にも訪米して対中戦略を擦り合わせたい考えです。
日韓連携の強化
奈良での首脳会談
2026年1月13日、高市首相と李在明大統領は奈良市で首脳会談を行い、日韓両国の戦略的連携を確認しました。米国のアジア関与低下が懸念される中、同盟国である米国のつなぎ留めと、アジアの同志国との協力を巡り、日韓が共闘する姿勢を示しました。
会談後には両首脳によるBTS楽曲でのドラムセッションというサプライズもあり、友好ムードが演出されました。
米韓日三国協力の維持
李大統領は、日本訪問に先立ちトランプ大統領との米韓首脳会談に臨み、「トランプ大統領が韓米日三国の協力を非常に重視しているので、私は大統領に会う前に日本を訪問し、心配されるような問題を整理してきた」と述べました。
日韓の協調を通じて地域の安定に寄与する姿勢を示したことは、ワシントンと東京の双方で李政権への信頼獲得につながりました。
対中国でも連携
日韓関係の改善は、対中国政策でも一致を見せています。李大統領が訪日に先立ち中国を訪問した際、習近平国家主席は対日政策での共闘を求めましたが、李大統領は中国側の立場に立たず「中立」を貫きました。
歴史問題で日本を攻撃する中国の姿勢とは一線を画し、日韓の連携を優先する姿勢を明確にしています。
安全保障環境の変化
防衛費負担増加の要求
トランプ政権は同盟国に対し、防衛費の大幅な負担増加を求めています。インド太平洋地域では、中国を想定した「第1列島線」(日本列島、沖縄、台湾、フィリピン)の防衛に、日本と韓国がより大きな責任を果たすよう求められています。
日本にとっては、防衛費増加による財政悪化が円安や長期金利上昇を招き、経済への逆風となるリスクもあります。
自主防衛力の強化
米国への依存度を下げるため、日本は防衛力の強化を進めています。2023年以降の防衛費増額に加え、反撃能力の保有、サイバー防衛の強化など、「自分の地域で主要な責任を引き受ける」体制の構築を急いでいます。
韓国も同様に、米韓同盟を維持しつつ自主防衛力の強化を図っています。
同志国連携の拡大
インド太平洋構想
日韓両国は、米国だけに依存するのではなく、志を同じくする国々との連携を拡大しています。オーストラリア、インド、ASEANなどとの協力を通じて、「自由で開かれたインド太平洋」の維持を目指しています。
日米豪印の「クアッド」や、日米韓の三国協力の枠組みは、米国のアジア関与を引き留めるための重要な装置となっています。
経済安全保障での協力
安全保障だけでなく、経済安全保障でも日韓の協力が進んでいます。半導体のサプライチェーン強靭化、重要鉱物の確保、先端技術の共同開発など、経済分野でも連携を深めています。
中国への過度な依存を減らし、同志国間での相互補完関係を構築する動きが加速しています。
今後の課題
歴史問題の管理
日韓関係には、元徴用工問題や慰安婦問題など歴史的課題が残されています。尹錫悦前政権下で改善した関係を、李在明政権でも維持できるかが問われます。
現時点では李大統領は対日協調路線を維持していますが、国内政治の状況次第では変化する可能性もあります。
米国の関与維持
日韓両国にとって最大の課題は、米国のアジア関与をいかに維持するかです。ドンロー主義のもとで西半球重視が進めば、東アジアの安全保障環境は大きく変化します。
日韓が協調して米国との同盟関係を強化し、アジアへの関与を引き留める外交努力が続けられます。
まとめ
トランプ大統領の「ドンロー主義」により米国のアジア関与低下が懸念される中、日本と韓国の連携が強化されています。奈良での日韓首脳会談では戦略的連携が確認され、米国のつなぎ留めと同志国協力で共闘する姿勢が示されました。
自主防衛力の強化と同志国連携の拡大により、変化する国際環境に対応していく動きが加速しています。日韓関係の行方は、インド太平洋地域の安定にとって重要な要素となります。
参考資料:
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