経産省が休眠電力小売事業者の登録抹消へ、犯罪悪用を防止

by nicoxz

はじめに

経済産業省は、休眠状態の電力小売事業者の登録を取り消せるようにする方針を固めました。2016年の電力小売全面自由化後に急増した新電力などは700〜800社程度ありますが、そのうち約3分の1は活動実態がないとされています。

現行の電気事業法では、明確な違法行為がなければ登録を取り消すことができません。しかし、休眠事業者の法人格が犯罪に悪用されるリスクや、監督業務の事務負担が課題となっています。本記事では、法改正の背景と、電力小売市場の現状について解説します。

法改正の背景

活動実態のない事業者が3分の1

一般家庭などに電力を販売する小売電気事業者は、電気事業法に基づいて経済産業大臣への登録が必要です。2016年4月の電力小売全面自由化開始時には280事業者が登録されていましたが、その後も新規参入が相次ぎ、現在は700〜800社程度が登録しています。

しかし、このうち約3分の1は実際の事業活動を行っていない「休眠状態」にあります。事業を開始したものの撤退した事業者や、登録だけして実質的な営業活動を行っていない事業者が含まれます。

現行制度の限界

現行の電気事業法では、小売電気事業者が法律違反を犯し、公共の利益が侵害されていると判断された場合にのみ、登録の取り消しが可能です。つまり、明確な違法行為がなければ、たとえ活動実態がなくても登録を抹消することができません。

この制度の隙間を突いて、休眠事業者の法人格が犯罪に悪用されるリスクが指摘されています。また、数百社にも及ぶ休眠事業者を監督する行政側の事務負担も軽視できません。

犯罪悪用のリスク

実際に起きた不正事例

新電力を悪用した犯罪は実際に発生しています。正規の新電力会社を装い、格安の料金プランをうたって顧客を集め、3年間で13億円もの電気料金を不正に取得したグループが警視庁に摘発された事例があります。

このような事件では、顧客から集めた電気料金を実際の電力調達に使わず、そのまま詐取するという手口が使われました。

ペーパーカンパニー化のリスク

休眠状態の電力小売事業者は、いわゆる「ペーパーカンパニー」と同様の問題を抱えています。ペーパーカンパニーとは、書類上は存在するものの実際の事業活動をほとんど行っていない企業のことです。

ペーパーカンパニー自体の設立は違法ではありませんが、犯罪者にとっては魅力的なツールとなり得ます。具体的なリスクとしては、資金洗浄(犯罪で得た資金を合法的に見せかける)、詐欺行為の隠れ蓑、身元隠しによる法執行機関からの逃避などが挙げられます。

電力小売事業者という「お墨付き」があれば、顧客の信頼を得やすくなるため、詐欺などの犯罪に悪用される危険性は高まります。

電力小売自由化の経緯

2016年の全面自由化

日本の電力小売市場は、段階的に自由化されてきました。最初の自由化は2000年3月に始まり、当初は大規模工場やオフィスビルなど「特別高圧」区分の需要家が対象でした。

その後、2004年・2005年に中小規模工場や中小ビルへと対象が拡大し、2016年4月1日からは「低圧」区分の一般家庭や商店も含めた全面自由化が実現しました。これにより、すべての消費者が電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになりました。

新電力の役割

電力自由化において、新電力(小売電気事業者)は「小売事業」に参入します。電気を作る「発電事業」と、電気を届ける「送配電事業」は引き続き既存の電力会社が担当するため、新電力は発電・送配電設備への投資を必要とせず、その分コストを抑えた料金設定が可能となります。

電力自由化の目的は、市場競争を活発化させて電気料金を抑制し、消費者の選択肢を増やすことでした。再生可能エネルギーを重視する事業者との契約も可能になり、エネルギー転換の促進も期待されています。

新電力業界の現状

倒産・撤退の増加

電力小売市場は厳しい競争環境にあり、多くの新電力が倒産や撤退を余儀なくされています。帝国データバンクの調査によると、2021年4月までに登録のあった新電力706社のうち、2022年11月時点で21%にあたる146社が倒産、廃業、または電力事業からの撤退を行いました。

2023年時点で登録されている小売電気事業者731社のうち、96社は「事業廃止・解散・取り消し」の状態にあります。

撤退の背景

新電力の撤退が相次いだ背景には、電力調達コストの高騰があります。2020年末から2021年初頭にかけての電力卸売市場の価格高騰、その後のロシアによるウクライナ侵攻に伴う燃料価格の上昇などが、新電力の経営を圧迫しました。

競争激化による薄利多売の構造も、経営体力の弱い新電力にとっては厳しい環境でした。

今後の注意点と展望

法改正の方向性

経産省が検討している法改正では、活動実態のない休眠事業者の登録を抹消できるようにする方針です。これにより、登録事業者の「健全化」を図り、犯罪悪用のリスクを低減することが期待されます。

具体的にどのような基準で「休眠」と判断するのか、どのような手続きで登録抹消を行うのかといった詳細は、今後の法改正プロセスで明らかになる見込みです。

消費者への影響

今回の法改正は、主に事業者側の規制強化であり、消費者が現在契約している電力会社との契約に直接的な影響はありません。

ただし、もし契約先の新電力が「休眠事業者」と認定されて登録抹消となった場合は、他の電力会社への切り替えが必要になります。新電力を選ぶ際には、その事業者が実際に安定した事業運営を行っているかどうかを確認することが重要です。

電力市場の健全化に向けて

電力小売市場の健全な発展のためには、参入障壁を低く保ちつつも、事業実態のない事業者を排除する仕組みが必要です。今回の法改正は、この両立を図る試みと言えます。

消費者にとっては、信頼できる電力会社を選ぶための情報提供の充実も求められます。経産省は小売電気事業者の一覧を公開していますが、各事業者の経営状況や顧客数などの情報も含めた、より詳細な情報開示が望まれます。

まとめ

経済産業省は、休眠状態の電力小売事業者の登録を抹消できるよう、電気事業法の改正を検討しています。電力小売自由化後に急増した新電力の約3分の1が活動実態を持たない状況にあり、犯罪悪用のリスクと行政の監督負担が課題となっていました。

現行制度では明確な違法行為がなければ登録を取り消せませんが、法改正により、実態のない休眠事業者を市場から排除することが可能になります。これは電力市場の健全化に向けた重要な一歩です。

消費者としては、新電力を選ぶ際に事業者の信頼性を確認することが一層重要になります。電力自由化のメリットを享受しながら、リスクを回避するためにも、契約先の選定には慎重を期すべきでしょう。

参考資料:

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