ファミマAI防犯カメラで欠品把握、売り逃し防ぐ

by nicoxz

はじめに

ファミリーマートは、店内の防犯カメラに人工知能(AI)を搭載し、欠品状況を自動的に把握するシステムを導入します。年内にも500店舗での展開を予定しており、小売業が長年抱えてきた「機会損失」の削減に本格的に取り組む姿勢を示しています。

コンビニエンスストア業界では、食品ロス削減のために発注を抑える傾向が強まっていますが、その結果として商品の品薄や欠品が増え、販売機会を逃すという新たな課題が浮上していました。ファミリーマートの今回の取り組みは、廃棄コストと機会損失のバランスを最適化し、持続可能な店舗運営を実現する試みとして注目されます。

本記事では、ファミリーマートのAI防犯カメラシステムの仕組み、小売業における機会損失の実態、そして今後の展望について詳しく解説します。

AI防犯カメラシステムの仕組みと特徴

既存設備を活用した効率的なデジタル化

ファミリーマートが導入するシステムの最大の特徴は、既存の防犯カメラにAI機能を追加する形で実現される点です。これにより、新たに専用カメラを設置するコストを抑えながら、店舗のデジタル化を進めることができます。

AI機能付きの防犯カメラは1時間ごとに売り場を自動撮影し、画像認識技術によって商品が並んでいない棚の空きスペースを検出します。このデータは時間帯ごとに蓄積され、どの商品がいつ品薄になりやすいかを分析する仕組みです。

時間帯別の欠品パターンを可視化

従来、店舗スタッフは目視で商品の補充タイミングを判断していましたが、忙しい時間帯には見落としが発生しやすく、また深夜や早朝などスタッフの少ない時間帯の欠品状況は把握が困難でした。

AIカメラシステムは、24時間365日休むことなく売り場を監視し、時間帯別の欠品パターンをデータとして蓄積します。例えば、「平日の昼12時から13時にかけて弁当類が品薄になる」「週末の夕方にはスナック菓子の欠品が多い」といった具体的な傾向を把握できるようになります。

発注精度の向上と売り逃し防止

蓄積されたデータは、発注システムと連携して活用されます。品薄が頻発する時間帯が特定されれば、その時間帯に向けて発注量を増やすことで、売り逃しを防ぐことができます。

現在のコンビニ業界では、AI発注システムの導入が進んでいます。セブン-イレブンは2023年3月から全国の加盟店でAI発注支援を展開し、発注時間を約4割削減しながら欠品率も改善しました。ローソンも2024年5月に「AI.CO」というセミオート発注システムを全国展開しています。

ファミリーマートの今回のシステムは、こうしたAI発注システムにリアルタイムの欠品データを提供することで、発注精度をさらに高める役割を果たします。

小売業における機会損失の実態

食品ロス削減と機会損失のジレンマ

コンビニ業界は長年、食品ロス(フードロス)の削減に取り組んできました。2021年度のローソンのデータによれば、東京都内約400店舗で1店舗1日あたり5.2kgの売れ残り食品が発生しており、これは大きなコスト負担となっています。

食品ロスを削減するためには、発注量を抑えて過剰在庫を避ける必要があります。しかし、発注を抑えすぎると商品の品薄や欠品が発生し、顧客が必要な商品を買えないという「機会損失」が生じます。

機会損失は単に1回の販売機会を失うだけでなく、顧客の店舗に対する信頼を損ない、「この店は欲しい商品がない」という印象を与えて、次回以降の来店を減らす可能性もあります。

機会損失の規模と影響

小売業における機会損失は、その性質上、正確に測定することが困難です。実際に販売できなかった商品の数量や金額は記録に残らないため、「見えない損失」として扱われてきました。

業界推計では、小売業全体の機会損失は売上の数パーセントから10%程度に達すると言われています。コンビニの場合、1店舗あたりの日商が50万円だとすれば、5%の機会損失で1日あたり2万5千円、年間で約900万円の売上機会を逃している計算になります。

ファミリーマートのAI防犯カメラシステムは、この「見えない損失」を可視化し、データに基づいた対策を可能にする点で画期的です。

小売業におけるAI画像認識技術の活用事例

トライアル:リテールAIカメラシステム

スーパーマーケットチェーンのトライアルは、AIカメラを使った商品管理を先駆的に導入しています。リテールAIカメラシステムにより、商品棚の状態監視と顧客の購買行動分析を自動化し、品切れの早期発見や棚割り最適化を実現しています。

来店者数のカウントや人の流れの分析も行い、欠品を起こしにくい商品棚作りに役立てています。

Trax:画像認識プラットフォーム

グローバルに展開するTraxの「Argus認識プラットフォーム」は、画像認識とセグメンテーション技術を活用し、以前は人間が数十分から数時間をかけていた在庫管理作業を、わずか1〜2分で完了できるようにしました。

精度も高く、世界中の小売店で導入が進んでいます。

サイバーリンクス:棚SCAN-AI

NTTドコモのAI技術を活用した「棚SCAN-AI」は、スマートフォンのカメラで陳列写真を撮影するだけで陳列状況をデータ化できるシステムです。年間2〜3万の新商品の画像データベースとディープラーニング技術を組み合わせ、店舗・商品ごとの欠品状態の確認や、本部からの陳列指示の実行確認などに活用されています。

これらの事例は、AI画像認識技術が小売業の在庫管理を革新し、業務効率化と売上向上の両立を可能にすることを示しています。

ファミリーマートのデジタル戦略との連携

デジタルサイネージとの統合

ファミリーマートは2024年3月時点で約10,200店舗にデジタルサイネージ「FamilyMartVision」を導入し、2025年第2四半期には10,500店舗に拡大しています。これは国内最大規模のリテールメディアネットワークです。

AI防犯カメラシステムで収集した欠品データは、デジタルサイネージと連携することで、在庫がある代替商品のプロモーションを表示するなど、柔軟な販売戦略に活用できる可能性があります。

FamiPayアプリとデータプラットフォーム

ファミリーマートは2025年6月時点でFamiPayアプリが2,500万ダウンロードを突破しており、顧客の購買データを蓄積しています。欠品データと購買データを組み合わせることで、どの顧客層がどの商品を求めているかをより詳細に分析し、個別店舗の品揃えを最適化できます。

メディアコマースリーダーへの進化

ファミリーマートは2026年の戦略として、リアル店舗の強みとデータ、デジタル、コンテンツを組み合わせた「メディアコマースリーダー」への進化を掲げています。AI防犯カメラシステムは、この戦略を支える重要なデータインフラの一つとなるでしょう。

今後の課題と展望

プライバシー保護とデータ管理

AI防犯カメラシステムの導入にあたっては、顧客のプライバシー保護が重要な課題となります。商品棚を撮影する際に、顧客の顔や個人を特定できる情報が映り込む可能性があるため、適切なデータ処理と管理体制が求められます。

個人情報保護法に準拠したシステム設計と、顧客への十分な説明が必要です。

加盟店オーナーの理解と協力

ファミリーマートの店舗の多くはフランチャイズ形式で運営されており、新システムの導入には加盟店オーナーの理解と協力が不可欠です。システム導入のコストやメリットを明確に示し、実際の売上向上につながることを実証する必要があります。

初期の500店舗での成果を示すことで、全国展開への道筋をつけることが重要でしょう。

他社への波及効果

ファミリーマートの取り組みが成功すれば、セブン-イレブンやローソンなど競合他社も同様のシステムを導入する可能性が高まります。コンビニ業界全体でAI技術を活用した在庫管理の高度化が進めば、業界の収益性向上と持続可能性の両立が実現するでしょう。

また、コンビニ以外のスーパーマーケットやドラッグストアなどの小売業態にも技術が波及し、小売業全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速することが期待されます。

まとめ

ファミリーマートのAI防犯カメラシステムは、既存のインフラを活用して欠品状況を可視化し、機会損失を削減する革新的な取り組みです。食品ロス削減と売上最大化のバランスを取るという、小売業の長年の課題に対する実践的な解決策として注目されます。

年内500店舗での導入は、システムの有効性を検証する重要なステップとなります。成功すれば、コンビニ業界全体の在庫管理手法を変革し、小売DXの新たなモデルケースとなるでしょう。

今後は、プライバシー保護への配慮、加盟店オーナーとの協力体制構築、そして実際の売上向上効果の実証が鍵となります。ファミリーマートのデジタル戦略全体との連携により、どのような成果が生まれるか注視していく必要があります。

参考資料:

関連記事

最新ニュース