FRBパウエル議長に刑事捜査、トランプ政権との対立が激化
はじめに
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が刑事捜査の対象になったことが明らかになり、金融市場と政策当局者に衝撃が走っています。パウエル氏は2026年1月11日、本部ビル改修に関する議会証言をめぐり司法省から召喚状を受け取ったと公表しました。
パウエル氏はこの動きを「利下げを求める政権の脅しと圧力」の一環だと強く反発し、トランプ大統領との対立を隠さない姿勢を見せています。FRBの独立性が重大な局面を迎える中、金融市場への影響と今後のシナリオを解説します。
刑事捜査の経緯
本部改修費用をめぐる問題
司法省がFRBに送付した召喚状は、ワシントンにあるFRB本部ビルの改修工事に関連しています。この改修プロジェクトは約25億ドル(約3800億円)規模で、2022年に開始され2027年に完了予定でしたが、当初予算を約7億ドル(約1000億円)上回ると推定されています。
パウエル議長は2025年6月の上院銀行委員会での証言で、この改修費用について説明を行いました。司法省はこの証言に虚偽があった疑いがあるとして、大陪審への召喚状を送付し、刑事訴追の可能性を示唆しました。
パウエル議長の反論
パウエル氏は異例のビデオ声明を公開し、捜査の政治的背景を強く批判しました。「法の上に立つ者は誰もいない。しかし、この前例のない措置は、政権の脅しと継続的な圧力というより広い文脈で捉えられるべきだ」と述べています。
さらに「刑事訴追の脅しは、FRBが大統領の意向に従うのではなく、公共の利益に関する最善の評価に基づいて金利を設定した結果だ」と主張し、金融政策の独立性を守る姿勢を鮮明にしました。
トランプ大統領との対立
利下げ圧力の背景
トランプ大統領は繰り返し利下げを要求してきましたが、FRBはインフレ抑制を優先し、慎重な姿勢を維持してきました。この対立が今回の刑事捜査の背景にあるとパウエル氏は示唆しています。
トランプ大統領はNBCニュースに対し、司法省の措置について「何も知らない」と関与を否定しました。「彼はFRBの職務にあまり長けていないし、建物の建設にもあまり長けていない」とパウエル氏を批判しつつも、捜査は金利とは無関係だと述べています。
専門家からの批判
FRBの歴史に詳しいペンシルベニア大学のピーター・コンティ・ブラウン教授は、「トランプ政権における最低の瞬間であり、米中央銀行の歴史において最悪の瞬間だ」と厳しく批判しています。
上院銀行委員会のトム・ティリス議員(共和党)は、「この法的問題が完全に解決されるまで、トランプ大統領によるパウエル氏の後任指名や、FRB理事の指名には反対する」と表明しました。
浮上する「影の議長」候補
パウエル氏の任期と後継者問題
パウエル議長の任期は2026年5月に満了します。刑事訴追が現実化すれば、任期満了前にパウエル氏を退任させる「法的根拠」として利用される可能性があります。
トランプ大統領は後任候補として、ケビン・ハセットNEC委員長、ウォラーFRB理事、ケビン・ウォーシュ元FRB理事の3人を最終候補に挙げています。
ケビン・ウォーシュの注目度
中でも注目されているのがケビン・ウォーシュ氏です。元FRB理事(2006〜2011年)で、リーマンショック時の金融危機対応に携わった経験を持ちます。2017年の第一次トランプ政権では議長候補の最終面接まで進んだ経緯があり、トランプ氏からの信頼は厚いとされています。
ウォーシュ氏は物価安定を重視するタカ派的なスタンスで知られており、市場からはパウエル氏よりもインフレ抑制に積極的との評価があります。一方で、政権との距離が近いことから、FRBの独立性に対する懸念も指摘されています。
金融市場への影響
市場の反応
召喚状の報道を受け、金融市場は大きく反応しました。米ドルは主要通貨に対して下落し、金価格は過去最高値を更新しました。投資家は政治的に妥協した中央銀行のリスクを織り込み始めています。
フィナンシャル・タイムズ紙の調査によると、米欧のエコノミストの52%が、パウエル氏の任期満了後にFRBは物価安定よりも低金利維持を優先するようになると予想しています。
長期的なリスク
FRBの独立性が損なわれれば、中長期的に深刻な影響が懸念されます。政府が金融政策に介入すれば緩和的な政策に傾きやすくなり、インフレ加速や通貨価値の下落を招く恐れがあります。
トルコでは近年、大統領がインフレ下で中央銀行に利下げを強いた結果、通貨が暴落し経済混乱を招いた例があります。先進国でも同様のリスクが現実化する可能性を市場は警戒しています。
日本経済への波及
為替と金利への影響
FRBの独立性低下がドル安につながれば、円高圧力が強まる可能性があります。また、米国でインフレ加速が現実化すれば、米長期金利の上昇を通じて日本の長期金利にも上昇圧力がかかる可能性があります。
日銀の金融政策にも影響が及ぶ可能性があり、日本の市場関係者も事態の推移を注視しています。
注意点と今後の展望
捜査の行方は不透明
現時点では召喚状の送付段階であり、実際に起訴されるかどうかは不透明です。パウエル氏は法律家出身であり、法的な対応には十分な準備をしていると見られています。
議会でも一部の共和党議員がパウエル氏を支持する姿勢を見せており、政権内部でも意見が割れている可能性があります。
2026年5月が焦点
最大の焦点は2026年5月のパウエル氏の任期満了です。それまでにトランプ政権が後任を指名し、上院の承認を得る必要があります。捜査の動向、市場の反応、議会の対応が複雑に絡み合う展開が予想されます。
まとめ
FRBパウエル議長への刑事捜査は、中央銀行の独立性という民主主義国家の根幹に関わる問題を提起しています。本部改修費用という表面上の理由の背後には、金融政策をめぐるトランプ政権との深刻な対立があります。
パウエル氏は「FRBが証拠と経済状況に基づいた金利決定を続けられるかが問われている」と訴えています。今後の展開は、米国だけでなく世界の金融市場と経済に大きな影響を与える可能性があり、注視が必要です。
参考資料:
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