金価格乱高下の背景にレバレッジETFの影響
はじめに
2026年2月、金(ゴールド)市場が激しい乱高下に見舞われています。2月2日には大阪取引所の金先物取引で急落によるサーキットブレーカーが発動され、翌3日には急騰で再びサーキットブレーカーが発動されるという異例の事態となりました。
この価格変動の背景には、上場投資信託(ETF)など「ペーパーゴールド」と呼ばれる証券化商品の取引拡大があります。本記事では、金市場で何が起きているのか、そしてレバレッジETFがどのように価格変動を増幅させているのかを解説します。
金価格の急変動:何が起きたのか
史上最高値からの急落
金価格は2026年1月30日にロンドン現物価格で史上最高値となる1トロイオンス約5,590ドルを記録しました。しかし同日、トランプ大統領がケビン・ウォーシュ氏を次期FRB議長に指名したことを受け、相場は急転しました。
ウォーシュ氏はFRB理事時代にはタカ派として知られ、バランスシートの縮小を主張してきた経緯があります。市場は「イエスマン」的な人選を予想していたため、ウォーシュ氏の指名は金融政策が想定よりも引き締め気味に維持される可能性を示唆するものと受け止められました。
この発表を受け、金価格は10%を超える急落を記録。下落率は46年ぶりの大きさとなりました。
サーキットブレーカーの連日発動
2月2日、大阪取引所は金先物の売買を一時中断するサーキットブレーカーを発動しました。前営業日比の下げが制限値幅の10%に達したためです。国内金先物では、前日比で±10%の値幅制限が設定されており、これを超える急変動時には取引が一時停止されます。
翌3日には一転して急騰し、再びサーキットブレーカーが発動されました。今度は上げが制限値幅に達したことによるものです。「今の異常な市場の地合いを象徴するかのような出来事」と専門家は評しています。
急落後の反発
金価格は2月3日に5%以上上昇し、1オンスあたり4,900ドルを超えました。2日連続の大幅下落後に、安値での買いを狙う「バーゲンハンティング」が活発化したためです。価格水準は4,600ドルから4,800ドルの間で推移しており、4,000ドル台でも歴史的には高値圏にあることに変わりありません。
ペーパーゴールドとは何か
現物を持たない金投資
「ペーパーゴールド」とは、金の現物そのものを保有するのではなく、金価格に連動する金融商品のことを指します。代表的なものが金ETF(上場投資信託)で、株式と同じように証券取引所で売買できます。
日本の投資家が購入できる米国上場の金ETFには、GLD、GLDM、IAU、BARなど現物価格に連動するものがあります。これらは金地金を裏付け資産として保有し、その価格変動を反映する仕組みです。
取引の手軽さと流動性
金ETFの最大の特徴は、現物の金を購入・保管するよりも手軽に取引できる点です。少額から投資でき、証券口座があれば株式と同様にリアルタイムで売買できます。
この手軽さが金市場への参入障壁を下げ、個人投資家から機関投資家まで幅広い層が金投資に参加するようになりました。その結果、金市場全体の取引量は大幅に増加しています。
レバレッジETFが価格変動を増幅
レバレッジ型ETFの仕組み
レバレッジ型ETFは、原資産の価格変動の2倍や3倍の値動きを目指す商品です。金のレバレッジETFであれば、金価格が1%上昇すると2%上昇し、1%下落すると2%下落するように設計されています。
短期的な価格変動から利益を得ようとするトレーダーにとって魅力的な商品ですが、その反面、相場の乱高下を増幅させる要因にもなります。
増幅効果のメカニズム
レバレッジETFは、目標とするレバレッジ比率を維持するために、毎日ポジションを調整(リバランス)する必要があります。例えば、金価格が大きく下落した日には、レバレッジETFは翌日のレバレッジ比率を維持するためにさらに金先物を売却しなければなりません。
この売却が価格下落をさらに加速させ、それがまた売却を呼ぶという連鎖が生じる可能性があります。今回の急落局面でも、このメカニズムが価格変動を増幅させた可能性が指摘されています。
長期投資には不向き
レバレッジ型ETFは、2営業日以上の期間では、原資産の上昇率・下落率に一定の倍率を乗じたものと通常一致しません。これは「減価」と呼ばれる現象で、長期保有すると期待したリターンが得られない場合があります。
このため、レバレッジ型ETFは短期のトレーディング向け商品であり、中長期の投資には適さないとされています。
金価格急落の背景要因
FRB新議長人事の影響
金価格急落の直接的な引き金は、ウォーシュ氏のFRB議長指名でした。ウォーシュ氏は近年、AI技術による生産性向上がディスインフレをもたらすとして利下げを支持する発言をしていましたが、同時にFRBのバランスシート縮小も主張しています。
市場は当初、トランプ大統領がより緩和的な姿勢の人物を選ぶと予想していました。ウォーシュ氏の指名は、金融政策が想定ほど緩和的にならない可能性を示唆するものと受け止められ、金利上昇・ドル高の観測から金売りが加速しました。
利下げ期待の後退
金は利息を生まない資産であるため、金利が上昇すると相対的な魅力が低下します。FRBの利下げペースが鈍化するとの観測は、金価格にとってマイナス要因です。
また、ドルが強くなると、ドル建てで取引される金は海外の投資家にとって割高になり、需要が減少する傾向があります。
証拠金引き上げも追い打ち
2月2日、米デリバティブ取引所運営会社CMEグループは、金先物の証拠金要件を6%から8%に引き上げることを発表しました。これにより、金先物のポジションを維持するために必要な資金が増加し、一部の投資家はポジションを縮小せざるを得なくなりました。
この措置も価格下落に拍車をかけた要因の一つです。
2026年の金市場見通し
荒れ相場の継続予想
2026年の金相場は「荒れ相場」になるとの見方が多くあります。ウォール街の主要投資銀行は金価格がさらに上昇すると予測する一方、今回のような急変動が繰り返される可能性も指摘されています。
短期的には利下げ期待の後退やドル高が下押し圧力となる一方、中央銀行による金購入の継続や地政学的リスクへのヘッジ需要など、下値を支える要因も存在します。
投資家への注意点
金投資を検討する際には、以下の点に注意が必要です。
まず、レバレッジ型ETFは短期トレーディング向けであり、長期投資には現物連動型ETFや金地金の方が適しています。また、金ETFは元本保証ではなく、今回のような急変動時には大きな損失が発生する可能性があります。
さらに、サーキットブレーカー発動時には取引が一時停止されるため、意図したタイミングで売買できないリスクもあります。
まとめ
金市場の乱高下は、ETFなどペーパーゴールドの取引拡大によって増幅されている面があります。特にレバレッジETFは日々のリバランスを通じて価格変動を増幅させる効果を持ちます。
2026年の金市場は、FRBの金融政策動向や地政学的リスクなど、様々な要因に左右される不透明な状況が続きそうです。投資家は自身のリスク許容度を考慮し、レバレッジ商品の特性を十分に理解した上で投資判断を行うことが重要です。
参考資料:
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