金投資が世界で膨張、2025年は需要8割増の異常事態
はじめに
国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が、2025年の金(ゴールド)の年間需給統計を発表しました。投資需要は前年比で約8割増加し、2025年の世界の金採掘量の6割に相当する規模にまで膨らみました。
ロンドン市場の金現物価格は2025年の年間平均で過去最高を記録し、2026年1月には国内店頭小売価格が1グラム2万8,000円台に到達しています。「安全資産」としての金に、かつてないほどの資金が流入しています。本記事では、金投資膨張の実態とその構造的な背景を解説します。
投資需要の急拡大
四半期ごとに加速した投資マネー
2025年の金投資需要は、年間を通じて加速度的に拡大しました。第1四半期の総投資需要は前年同期比170%増の552トンに達し、金ETFへの大量流入がけん引しました。第2四半期には投資需要が78%増加し、金額ベースの総需要は過去最高の1,320億米ドルを記録しています。
第3四半期も勢いは衰えず、民間の小口投資需要は前年同期比47%増の537.2トンでした。年初来の投資金額は1,610億米ドルに達し、2020年の過去最高記録を74%も上回る史上最大規模となっています。
ETFへの資金流入が顕著
金投資の拡大を特に象徴しているのが、金ETFへの資金流入です。2025年は個人投資家から機関投資家まで幅広い層がETFを通じて金に投資しており、現物を保有しなくても金のリターンを得られる手軽さが資金流入を加速させました。
中央銀行の金購入が止まらない
16年連続の買い越し
金需要を構造的に支えているのが、世界の中央銀行による大量購入です。2024年の中央銀行による金購入量は約1,086トンに達し、過去最高水準を記録しました。2025年も公的セクターは金を買い越しており、第1四半期だけで244トンの公的金準備が増加しています。
世界金融危機以降、中央銀行は16年連続で金を買い越すと予想されています。中国、ロシア、インド、トルコなど新興国が特に積極的で、外貨準備の米ドル依存を減らす「脱ドル化」の文脈で金の戦略的価値が再認識されています。
ドル離れの象徴としての金
中央銀行が金を買い増す背景には、米国の経済制裁リスクへの備えがあります。ロシアのウクライナ侵攻後、米国がロシアの外貨準備を凍結したことは、ドル建て資産のリスクを各国に強く意識させました。金は特定の国の信用に依存しない「無国籍通貨」としての側面があり、地政学リスクが高まるほど需要が増す構造です。
金価格を押し上げる複合要因
地政学リスクの常態化
2025年の金価格急騰の最大の要因は、複数の地政学リスクが同時並行で存在し続けたことです。ロシア・ウクライナ紛争の長期化、中東情勢の緊迫化、米中対立の深刻化が重なり、投資家の安全資産志向を強めました。
これらのリスクは「一過性ではなく恒常化している」のが特徴です。かつてのように紛争や危機が一時的なものとして収束するパターンではなく、構造的に不安定な状態が続くことで、金への需要が持続的に高まっています。
インフレと債務膨張
世界の債務残高は2025年第1四半期に324兆米ドルを突破して過去最高を更新しました。各国政府の財政拡大が続く中、法定通貨の実質的な価値低下を懸念する投資家がインフレヘッジとして金を選好しています。
米ドルの下落も金価格を支えました。ドル安はドル建ての金価格を押し上げると同時に、他通貨を持つ投資家にとって金の購入コストを下げる効果があり、世界的な購買意欲を刺激しています。
注意点・展望
金投資の膨張は、世界の不安定さを映す鏡でもあります。ただし、過去最高水準まで上昇した金価格には調整リスクも存在します。地政学リスクの緩和や金利の急上昇があれば、金価格の調整局面に入る可能性は否定できません。
一方、ゴールドマン・サックスは2026年末の金価格予想を1トロイオンス5,400ドルに引き上げており、強気の見通しを維持しています。中央銀行の購入が構造的に続く限り、金価格の下値は切り上がるという見方が市場では支配的です。
個人投資家にとっては、ポートフォリオ全体のリスク分散手段として金を位置づけることが重要です。金自体が利息や配当を生まない資産であることを理解したうえで、地政学リスクやインフレに対するヘッジとして適切な比率で保有することが合理的な選択です。
まとめ
2025年の金投資需要は前年比8割増と異例の膨張を見せました。中央銀行の継続的な購入、地政学リスクの常態化、インフレヘッジ需要が三位一体となって金価格を過去最高水準に押し上げています。
「安全資産」としての金の地位は、世界の不確実性が続く限り揺るがないでしょう。ただし、価格の高騰にはいずれ調整も伴います。金の投資判断は冷静なリスク評価に基づいて行うことが重要です。
参考資料:
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