金先物サーキットブレーカー発動の背景と今後
はじめに
2026年2月2日、大阪取引所で金(ゴールド)先物の売買が一時中断される「サーキットブレーカー」が発動しました。前営業日比の下げ幅が制限値幅の10%に達したことが原因です。わずか数日前には1グラム3万円台・1オンス5,500ドル超という史上最高値を記録していた金価格が、一転して急落する展開となりました。
この背景には、トランプ大統領による次期FRB議長の指名や、それに伴うドル高の進行、さらにはオプション市場の構造的な要因が複雑に絡み合っています。本記事では、金価格急落の経緯と原因、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
金先物市場で何が起きたのか
史上最高値から一転、歴史的な急落へ
2026年1月29日、ニューヨーク金先物は一時1オンス5,586ドルまで上昇し、史上最高値を更新しました。国内市場でも金先物が急騰し、大阪取引所でサーキットブレーカーが発動されるほどの勢いでした。中心限月は前日比1,753円(6.6%)高い1グラム28,498円を記録しています。
しかし翌1月30日、状況は一変します。NY金先物4月限は前日比609.70ドル安(11.39%安)の4,745.10ドルで取引を終え、1980年1月22日以来となる歴史的な下落率を記録しました。銀先物に至っては31.4%の暴落となり、1980年3月以来最悪の下落日となっています。
サーキットブレーカーとは何か
サーキットブレーカーとは、相場が急激に変動した際に売買を一時的に中断する制度です。大阪取引所では、先物価格が前営業日の清算値から一定の値幅(金先物の場合は10%)以上変動した場合に発動されます。
この制度の目的は、パニック的な売買が連鎖して相場がさらに急変動することを防ぐことにあります。CMEグループ(シカゴ・マーカンタイル取引所)でも「ダイナミック・サーキットブレーカー(DCB)」と呼ばれる同様の仕組みが導入されています。
2月2日の国内市場では、前週末のニューヨーク市場での急落を受け、休日明けの取引開始直後から大幅な下落となりました。売りが殺到し、制限値幅に到達したため、サーキットブレーカーが発動されたのです。
急落の原因を読み解く
トランプ大統領のFRB議長人事が引き金
今回の金価格急落の最大の要因は、トランプ大統領が次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長にケビン・ウォーシュ元FRB理事を指名したことです。
ウォーシュ氏は2006年から2011年までFRB理事を務め、2008年の金融危機ではバーナンキ議長の側近として活躍した人物です。現在はスタンフォード大学フーバー研究所の特別研究員を務めています。市場では「タカ派(金融引き締めに積極的)」と見なされており、大幅な利下げには慎重な姿勢を取ると予想されています。
この人事発表を受けて、市場では以下のような反応が連鎖的に起きました。
ドル高と金利上昇の連鎖
ウォーシュ氏の指名は、FRBの独立性に対する懸念を和らげる効果がありました。市場がより政治的な影響を受けやすい候補を織り込んでいたため、ウォーシュ氏の起用はむしろドルへの信頼を回復させる方向に作用しました。
その結果、ドルが大幅に上昇しました。金は基本的にドル建てで取引されるため、ドル高は海外投資家にとって金の購入コストを引き上げ、需要を減退させます。また、金利上昇の観測が強まったことも金にとって逆風です。金は利息を生まない資産であるため、金利が上がれば「金を持つより国債を持った方が有利」という判断が広がります。
ガンマスクイーズによる下落加速
ゴールドマン・サックスのレポートによると、金価格の急落は「ガンマスクイーズ」と呼ばれるメカニズムによって加速されました。
それ以前の金価格の急騰局面では、記録的な規模の強気オプション買いが入っており、これが価格上昇を機械的に増幅していました。しかし価格が反転すると、オプションのディーラーがリスクヘッジのために先物を売却する必要に迫られ、売りが売りを呼ぶ展開となったのです。
このような市場の構造的な要因が、通常の調整をはるかに超える急落をもたらしました。
貴金属市場全体への波及
銀・プラチナにも連鎖的な急落
金の急落は、銀やプラチナなど他の貴金属にも波及しました。銀先物は1月30日に31.4%の暴落を記録し、1980年3月以来最悪の下落日となりました。国内市場でも純銀信託(1542)がストップ安となっています。
プラチナ先物も1月30日に前日比10%下落し、大阪取引所でサーキットブレーカーが発動されました。貴金属市場全体が連鎖的な売り圧力にさらされた格好です。
投資家への影響
急落により、投資家の間にはショックと困惑が広がりました。金の店頭販売価格は2月2日時点で1グラム26,712円まで下落しています。わずか数日前に1グラム3万円台を記録していたことを考えると、短期間で約10%以上の価値が失われたことになります。
特に、最高値圏で購入した投資家にとっては大きな含み損を抱える結果となりました。
注意点・展望
短期的な調整か、トレンド転換か
UBSは2026年の金価格見通しとして、年前半に1オンス6,200ドル、年末に5,900ドルという予測を維持しています。今回の急落を経ても、中長期的な上昇トレンドは崩れていないとの見方です。
一方で、ウォーシュ氏がFRB議長に就任した場合、金融政策がよりタカ派的になる可能性があり、「ドル高・金安」の調整局面がしばらく続くことも想定されます。
金投資で注意すべきポイント
今回の急落は、金が「安全資産」とされながらも、短期的には非常に大きな価格変動リスクを持つことを改めて示しました。特にレバレッジをかけた先物取引では、サーキットブレーカーが発動するほどの急変動が起きうるため、リスク管理が不可欠です。
また、世界の中央銀行が金の買い増しを続けている傾向や、地政学リスクの存在を考えると、金への需要が完全に消えることは考えにくいです。長期的な分散投資の一環として金を保有する場合は、短期的な価格変動に過度に反応しない姿勢が重要です。
まとめ
2026年2月2日の国内金先物サーキットブレーカー発動は、1月29日の史上最高値更新からわずか数日で起きた歴史的な急落の一幕です。トランプ大統領によるウォーシュ氏のFRB議長指名がドル高・金利上昇期待を引き起こし、オプション市場のガンマスクイーズが下落を加速させました。
金投資を検討している方は、今回の急変動を「安全資産にもリスクがある」という教訓として受け止めるべきです。短期的な値動きに一喜一憂せず、自身の投資目的やリスク許容度に合わせたポジション管理を心がけましょう。
参考資料:
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