金銀銅がそろって最高値更新、中東不安とドル安が背景
はじめに
2026年1月29日、世界の商品市場で金(ゴールド)、銀(シルバー)、銅の先物価格がそろって最高値を更新するという異例の事態が起きました。金は一時1トロイオンスあたり5,626ドルに迫り、銀は120ドル超、銅もトン当たり13,000ドルを突破しています。
原油価格もWTI先物が1バレル65ドル台と約4カ月ぶりの高値をつけました。背景にあるのは、イランに対する米国の軍事行動への警戒感と、約4年ぶりの水準まで下落したドル安です。
本記事では、貴金属と産業用金属が同時に急騰した要因と、今後の市場見通しについて解説します。
金価格が5,600ドル突破、月間では1980年代以来の上昇率
地政学リスクと中央銀行の買いが金を押し上げ
金先物価格は1月29日、一時5,594ドルを超える史上最高値を記録しました。1年前の約2,830ドルから倍近い水準に達しており、上昇ペースは異例です。
最大の要因は中東の地政学リスクです。イランでは2025年末から大規模な反政府抗議活動が拡大し、トランプ大統領が「ロックアンドローデッド(臨戦態勢)」と軍事介入を示唆する発言を繰り返しています。安全資産としての金への資金流入が加速しました。
もう一つの構造的な要因は、各国中央銀行による金の購入です。ゴールドマン・サックスの推計によると、中央銀行の金購入量は月平均約60トンと、2022年以前の平均17トンから大幅に増加しています。中国やインドを中心に、ドル依存を減らす「脱ドル化」の動きが金需要を底支えしています。
急騰後の利益確定売りにも注意
ただし、29日の取引では5,594ドルの最高値をつけた後、利益確定の売りにより5%以上急落し、一時5,109ドルまで下げる場面もありました。翌30日には5,000ドルを割り込む展開となっており、短期的なボラティリティの高さには注意が必要です。
ゴールドマン・サックスは2026年12月の金価格予測を1オンス5,400ドルに引き上げていますが、現在の急騰ペースが持続するかどうかは不透明です。
銀と銅も同時に最高値を更新
銀が120ドル突破
銀先物価格は1月29日、1トロイオンスあたり120.45ドルの史上最高値を記録しました。銀は金と同様に安全資産としての側面を持つ一方、太陽光パネルや電子部品の材料としての産業需要も大きく、両面からの買いが入っています。
金と銀の価格比率(金銀レシオ)は約47倍と、歴史的な平均である60〜70倍を大きく下回っており、銀が相対的に割安とみる投資家の買いも加わっています。
銅がトン当たり13,000ドルの過去最高
銅先物は29日に約10%急騰し、1ポンドあたり6.5ドル(トン当たり13,000ドル超)の過去最高値を記録しました。1年前の約4.25ドルから約50%の上昇です。
銅の最高値更新は、地政学リスクだけでなく構造的な需給逼迫が背景にあります。データセンターやAIインフラ、世界的な電化の進展により、銅の需要は2025年の2,800万トンから2040年には4,200万トンに拡大する見通しです。S&Pグローバルの試算では、供給拡大がなければ1,000万トンの不足が生じるとされています。
ただし、ゴールドマン・サックスは2025年後半から始まった銅の急騰について、「持続不可能」との見方を示しており、年内に価格が調整局面を迎える可能性も指摘しています。
原油価格も4カ月ぶり高値に上昇
イランの核問題が供給懸念を喚起
WTI原油先物は1月30日に1バレルあたり65.5ドル前後まで上昇し、2025年9月以来約4カ月ぶりの高値をつけました。3営業日連続の上昇です。
米国がイランに対し核合意に応じなければ軍事行動を取る可能性を警告したことで、中東からの石油供給が途絶するリスクが意識されています。イランは日量約350万バレルの原油を生産しており、さらにペルシャ湾のホルムズ海峡が封鎖されれば世界の原油供給の約20%が影響を受けます。
ドル安も商品価格の追い風に
米ドルが約4年ぶりの安値に下落したことも、ドル建てで取引される商品価格全般の押し上げ要因となっています。ドル安により、ドル以外の通貨を持つ投資家にとって商品が相対的に割安になるためです。
2025年は原油価格が年間で約20%下落し、2020年以来最大の下げ幅を記録していました。供給過剰懸念や関税問題が下押し要因でしたが、2026年に入り地政学リスクの高まりで市場のムードは一変しています。
注意点・展望
商品市場全体の急騰には、いくつかの注意点があります。まず、地政学プレミアムは状況の変化で急速に剥落する可能性があります。実際に金は最高値から翌日に10%近く下落しました。
次に、銅については「持続不可能な水準」との指摘もあり、短期的な投機マネーの流入が価格を押し上げている面があります。長期的な需給逼迫は確かですが、景気減速局面では需要が減退するリスクもあります。
原油に関しては、国際エネルギー機関(IEA)が2026年も供給が需要を上回るとの見通しを示しており、イラン情勢が落ち着けば価格が再び下落に転じる可能性があります。
今後は、米国とイランの関係がどのような方向に進むかが最大の焦点です。軍事衝突に至れば商品価格のさらなる急騰が予想されますが、外交的解決に向かえば急速な調整が起こりうるでしょう。
まとめ
金・銀・銅がそろって最高値を更新し、原油も4カ月ぶりの高値をつけた2026年1月末の商品市場は、地政学リスクとドル安という二つの要因に支えられています。特に、イランをめぐる緊張の行方が今後の価格動向を左右する最大の要素です。
投資家にとっては、急騰後のボラティリティの高さに注意が必要です。商品市場への投資を検討する場合は、地政学リスクの変化に柔軟に対応できるポジション管理が求められます。コモディティ価格の動向は為替やインフレにも影響するため、幅広い資産クラスへの波及にも目を配ることが重要です。
参考資料:
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