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by nicoxz

阪神大震災31年、ゲームと追体験で防災教育を次世代へ

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はじめに

2026年1月17日、阪神・淡路大震災から31年を迎えました。災害関連死を含め6,434人が犠牲となったこの大震災は、日本の防災対策を大きく変える転機となりました。しかし、震災から30年以上が経過し、被災体験を持たない世代が人口の大半を占めるようになった今、新たな課題が浮上しています。

市民グループ「追悼行事を考える市民の会」の調査によれば、2026年の追悼行事数は37件と、前年から20件減少し、調査開始以来最少を記録しました。遺族の高齢化や新型コロナウイルスの影響もあり、従来型の伝承活動は岐路に立たされています。

こうした中、ゲームやVR技術を活用した「追体験型」の防災教育が注目を集めています。本記事では、震災の教訓を次世代に伝える新しいアプローチと、その可能性について詳しく解説します。

追悼行事減少が示す伝承の課題

過去最少となった追悼行事

2026年1月17日の追悼行事数は37件と、1999年の調査開始以来最少となりました。これは前年比で約35%の減少であり、震災の記憶の風化が加速していることを示しています。

神戸市中央区の東遊園地で開催された「1.17のつどい」では、約7,000本の竹や紙製の灯籠が灯され、「よりそう」の文字が浮かび上がりました。午前5時46分の発災時刻には、参加者が黙祷を捧げましたが、参加者の高齢化は年々顕著になっています。

世代交代による記憶の断絶

震災から31年が経過し、現在30歳以下の世代は震災を経験していません。日本の人口構成を考えると、すでに国民の半数以上が震災の記憶を持たない世代となっています。

この「記憶の断絶」は、単に追悼行事の参加者が減るだけでなく、防災意識の低下という実質的なリスクをもたらします。阪神大震災で得られた「家具の固定」「初期消火の重要性」「地域コミュニティの役割」といった教訓が、次の災害で活かされない可能性があるのです。

ボランティア減少と伝承の担い手不足

伝承活動を支えてきたボランティアも減少傾向にあります。震災直後から活動を続けてきた語り部の多くは70代以上となり、体力的な限界を感じる人も少なくありません。また、新型コロナウイルスの影響で、2020年以降は対面での伝承活動が制限され、若い世代への引き継ぎが十分に進んでいないという課題もあります。

ゲームで学ぶ新しい防災教育

防災ゲームの種類と特徴

従来の講義型防災教育に代わり、ゲーミフィケーションを取り入れた防災教育が広がっています。防災ゲームは大きく分けて、カードゲーム型とデジタルゲーム型があり、それぞれ異なる学習効果を持っています。

カードゲーム型の代表例として、日本損害保険協会が2005年に作成した「ぼうさいダック」があります。これは12種類の災害シナリオに対して、身体を動かして対応行動を学ぶゲームで、特に小学校低学年の教育に効果的です。

デジタルゲーム型では、NPO法人プラス・アーツの「GURAGURA TOWN」(防災すごろく)や「ナマズの学校」(地震カードゲーム)などがあります。これらは視覚的な要素が豊富で、災害時の具体的な行動をイメージしやすいという特徴があります。

企業・自治体による先進事例

2024年12月、株式会社セガ エックスディー(SEGA XD)は神奈川県総合防災センターと協力し、「THE SHELTER」というゲーム体験型防災訓練ソリューションを開始しました。このプログラムは、公的施設、企業の企画力、学術監修を組み合わせた新しいモデルで、参加者の満足度は10点満点中平均9.5点、93%が「再度参加したい」と回答する高い評価を得ています。

国土交通省も「このつぎなにがおきるかな?」という防災カードゲームを提供しており、洪水や津波から身を守る方法を子どもたちが遊びながら学べる仕組みを作っています。

ゲーミフィケーションの教育効果

ゲーミフィケーションを活用した防災教育の効果については、学術的な検証も進んでいます。ある研究では、問題解決型ゲームを実施した後、「発見」「楽しさ」「興味」のスコアが有意に向上し、参加者の42.2%が災害に関する意見形成に変化が見られたと報告されています。

従来の講義型教育では受動的になりがちな学習者も、ゲームでは能動的に考え、判断する必要があります。この「自分事として考える」プロセスが、防災意識の定着に重要な役割を果たしています。

VR・AR技術による「追体験」

人と防災未来センターの取り組み

神戸市にある「人と防災未来センター」では、震災の追体験ができる施設として重要な役割を担っています。西館の「震災追体験フロア」には「1.17シアター」があり、大型映像と音響で地震の激しさを再現しています。

さらに「被災直後のまち」をジオラマ模型でリアルに再現した歩行空間では、倒壊した建物や避難する人々の様子を目の当たりにすることができます。これにより、写真や映像だけでは伝わりにくい「空間としての被災地」を体感できます。

VR技術の活用

「ハザードVRポート」では、360度映像と振動装置を組み合わせたVR体験が可能です。地震だけでなく、津波や風水害のシーンも体験でき、複数の災害リスクに対する理解を深めることができます。

VR技術の最大の利点は、「危険な状況を安全に体験できる」ことです。実際の災害では経験できない状況判断を、リスクなく繰り返し練習できるため、いざという時の行動力向上につながります。

福井大学の教育プログラム開発

福井大学では、映像技術とゲーミフィケーションを組み合わせた小学生向け防災教育プログラムを開発しています。このような産学連携の取り組みが全国で広がっており、地域の特性に合わせた防災教育コンテンツの開発が進んでいます。

語り部による証言活動の継続

予約制の語り部セッション

人と防災未来センターでは、予約制で語り部による30分間の証言セッションを実施しています。実際に震災を経験した方の生の声は、どんなデジタルコンテンツにも代えがたい価値があります。

語り部の方々は単に自分の体験を語るだけでなく、「あの時こうしていれば」「こういう備えがあれば助かった」という具体的な教訓を伝えています。これらの証言は、防災行動の動機づけとして極めて強い影響力を持ちます。

証言集のデジタル化

高齢化が進む語り部の証言を記録し、デジタルアーカイブとして保存する動きも活発化しています。全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)のウェブサイトでは、阪神淡路大震災体験談を公開しており、当時の大学生の視点から震災を振り返ることができます。

東京都耐震ポータルサイトでも「被災体験者の声」として、複数の証言を掲載しています。これらのデジタルコンテンツは、時間や場所を選ばずにアクセスできるため、幅広い世代への伝承ツールとして機能しています。

教育教材としての活用

1996年には災害防災教育副読本「明日に生きる」が小中学校向けに作成され、1997年には防災教育絵本「明日も遊ぼうね」も制作されました。これらの教材は、子どもたちが震災を「自分のこと」として捉えられるよう、物語形式で構成されています。

次の巨大災害への備え

南海トラフ地震への危機感

政府の地震調査委員会によれば、今後30年以内にマグニチュード8〜9クラスの南海トラフ地震が発生する確率は70〜80%とされています。この巨大地震では、最悪の場合、死者32万人以上、経済損失220兆円超という甚大な被害が想定されています。

阪神大震災の教訓を次の災害で活かすためには、単に「記憶を継承する」だけでなく、具体的な防災行動につなげる必要があります。ゲームやVRによる追体験は、この「知識から行動へ」の橋渡しとして重要な役割を果たします。

地域コミュニティの再構築

阪神大震災では、近隣住民による救助活動が多くの命を救いました。しかし、現代社会では地域コミュニティの希薄化が進んでいます。防災ゲームの中には、地域住民が協力してクリアする仕組みのものもあり、防災教育と同時にコミュニティ形成の効果も期待されています。

多様な災害への対応力

阪神大震災は直下型地震でしたが、東日本大震災では津波、近年では豪雨災害も頻発しています。多様な災害リスクに対応するため、VRコンテンツでは地震だけでなく、津波、洪水、土砂災害など複数の災害シナリオを体験できるよう設計されています。

注意点と今後の展望

ゲーム化の限界と倫理的配慮

防災教育のゲーム化には大きな可能性がある一方で、限界もあります。ゲームはあくまでシミュレーションであり、実際の災害の恐怖や混乱を完全に再現することはできません。また、被災者の感情に配慮し、災害を過度にエンターテインメント化しないよう注意が必要です。

デジタルデバイドへの対応

VRやスマートフォンアプリを使った防災教育は効果的ですが、高齢者や経済的に恵まれない層がアクセスできない可能性があります。デジタル技術と従来型の語り部活動、紙ベースの教材を組み合わせた多層的なアプローチが求められます。

継続的な更新と検証

防災科学は日々進化しており、建物の耐震基準や避難方法も変化しています。防災ゲームやVRコンテンツも、最新の知見を反映して定期的に更新する必要があります。また、教育効果の検証を継続的に行い、より効果的な手法を開発していくことが重要です。

学校教育への組み込み

現在、防災教育は学校カリキュラムの一部として位置づけられていますが、実施時間や内容には地域差があります。文部科学省は防災教育の標準化を進めていますが、地域の災害リスクに応じたカスタマイズも必要です。防災ゲームは、こうした個別ニーズに柔軟に対応できるツールとして期待されています。

まとめ

阪神大震災から31年、追悼行事の減少という課題に直面する中、防災教育は新たな段階に入りつつあります。ゲーミフィケーションやVR技術を活用した「追体験型」の教育手法は、震災を知らない世代に教訓を伝える有力な手段となっています。

しかし、デジタル技術だけに頼るのではなく、語り部による証言活動や地域コミュニティでの対面交流も並行して継続することが重要です。多様な手法を組み合わせることで、より多くの人々に、より深く防災意識を浸透させることができるでしょう。

南海トラフ地震をはじめ、日本は今後も大規模災害のリスクに直面し続けます。阪神大震災の教訓を「過去の出来事」ではなく「未来への備え」として活かすため、私たち一人ひとりが防災を「自分事」として捉え、具体的な行動を起こす必要があります。

防災ゲームやVR体験施設を訪れる、地域の防災訓練に参加する、家族で避難計画を話し合うなど、小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。災害は予測できませんが、備えることはできます。阪神大震災が教えてくれた教訓を次世代に、そして次の災害対応に活かしていきましょう。

参考資料:

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