三井不動産がマンション営業に土日祝休み導入、業界初の試み
はじめに
三井不動産傘下の三井不動産レジデンシャルが、マンション営業担当社員の土日祝定休を導入すると発表しました。同社によると、営業社員の土日祝定休は不動産業界で初めての取り組みです。
不動産営業といえば、土日にモデルルームで顧客対応を行うイメージが強い職種です。住宅購入を検討する多くの人が休日に物件を見学するため、営業担当者は必然的に土日出勤が求められてきました。
この記事では、業界の常識を覆す今回の施策の詳細、導入の背景にある業界課題、そして今後の不動産営業のあり方について解説します。
土日祝定休制度の具体的な内容
導入の概要
三井不動産レジデンシャルは2026年5月から、一部物件の営業担当社員に土日祝定休制度を導入します。最初の対象となるのは、2027年3月に完成予定のマンション「パークホームズ東高円寺」(東京・杉並区)を担当する営業社員約5名です。
今後、対象物件を順次拡大し、2026年度中には最大30名程度の営業社員が土日祝定休となる見込みです。同社の営業担当者は派遣社員を含めて約300名いるため、まずは1割程度からのスタートとなります。
新しい営業スタイル
土日祝に営業社員が不在でも顧客対応ができるよう、新たな営業スタイルが導入されます。
土日祝のモデルルームは自由見学制となり、来場者は営業担当者の対応なしで物件を見学できます。また、VR(仮想現実)技術を使ったオンライン内見も可能で、場所を選ばず住戸を確認できる環境が整備されます。
購入に関する商談は平日にオンラインで実施します。顧客は土日祝に情報収集を行い、平日にオンラインで具体的な相談を進めるという流れです。
拡大計画
同社は東京・日本橋や池袋、埼玉の住宅販売センターでも自由見学制を導入し、土日祝休みの対象社員を段階的に増やしていく計画です。成果を検証しながら、全社的な展開を視野に入れています。
導入の背景にある業界課題
不動産業界の働き方の実態
不動産業界、特に個人向け営業職は、土日出勤が当たり前とされてきました。マンション購入を検討する顧客の多くは平日に仕事があり、物件見学や商談は必然的に土日に集中します。
そのため、多くの不動産会社では水曜日を定休日とし、土日は必ず出勤という勤務体系が一般的です。この背景には、水曜日の「水」が「水を流す」を連想させ契約破棄につながるという縁起担ぎも関係しているといわれています。
深刻化する人手不足
不動産業界では深刻な人手不足が続いています。2024年5月時点の転職求人倍率は5.58倍と高水準で、完全な売り手市場となっています。
業界の社長年代構成比を見ると、不動産業は61.7歳と最も高い水準にあり、若手人材の育成と確保が喫緊の課題です。「離職率が高い」「ノルマが厳しい」といったネガティブなイメージが若年層の参入を妨げています。
働き方改革の遅れ
不動産業界では働き方改革が他業界と比べて遅れているとの指摘があります。休日や労働時間が不規則になりやすく、歩合制給与による収入の不安定さも課題です。
労働環境の改善なくして人材確保は困難という認識が広がり、大手を中心に業務効率化や休暇制度の見直しが進み始めています。三井不動産レジデンシャルの今回の施策は、その最先端の取り組みといえます。
デジタル技術が可能にした新しい営業モデル
オンライン商談の実績
三井不動産レジデンシャルは2021年秋から一部物件で「日曜日定休」のトライアルを実施してきました。その中で、オンライン商談に対する顧客満足度を検証したところ、約85%が対面商談と遜色ないと回答しました。
コロナ禍を経てオンライン会議が一般化した結果、住宅購入という高額な意思決定でもオンラインで完結できる顧客が増えています。実際に、オンライン商談のみで購入決定に至るケースも出てきています。
VR内見技術の進化
VR技術を活用した内見システムは急速に普及しています。3Dカメラで撮影した物件データをクラウド上で共有し、顧客はスマートフォンやパソコンからいつでも物件を確認できます。
従来の写真や間取り図だけでは伝えきれなかった空間の広がりや雰囲気を、VR内見ではリアルに体験できます。遠方在住者や多忙な人でも、時間や場所を選ばず物件選びが可能になりました。
業界全体でVR内覧の利用は増加傾向にあり、前年比3倍超の伸びを示す事例もあります。VRをバーチャルルームツアーとして掲載することで、自社サイトの反響率が向上するという効果も報告されています。
デジタル活用のメリット
デジタル技術の活用は、営業効率の向上にも寄与します。VR内見を事前に行うことで、顧客が本当に興味のある物件だけを実際に案内できるようになり、成約率の向上につながっています。
オンライン商談とVR内見を組み合わせることで、物件概要の説明だけでなく、購入の意思決定まで踏み込んだ話ができるようになりました。モデルルーム来場時もスムーズに商談が進むという好循環が生まれています。
業界への波及効果と今後の展望
他社への影響
業界初となる今回の取り組みは、他の不動産会社にも影響を与える可能性があります。人材獲得競争が激化する中、働きやすい環境を整備することは採用面での差別化につながります。
特に大手デベロッパーやマンション販売会社では、同様の施策を検討する動きが出てくることが予想されます。人手不足という共通課題を抱える業界だけに、成功事例として注目を集めるでしょう。
顧客側のメリット
土日祝の自由見学制は、顧客にとってもメリットがあります。営業担当者を介さずに自分のペースで物件を見学でき、じっくりと検討する時間が確保できます。
また、オンライン商談により平日でも相談可能となるため、有休を取ってモデルルームに足を運ぶ必要がなくなります。忙しいビジネスパーソンにとっては、住宅購入のハードルが下がる効果も期待できます。
課題と懸念点
一方で、対面でのきめ細かな対応を求める顧客への対応が課題となる可能性もあります。高額な住宅購入において、営業担当者との信頼関係構築を重視する人も少なくありません。
オンライン商談に不慣れな高齢者層への配慮や、VR内見だけでは判断しにくい日当たりや周辺環境の確認など、デジタルでは補いきれない部分をどうカバーするかも検討課題です。
まとめ
三井不動産レジデンシャルによるマンション営業社員の土日祝定休導入は、不動産業界の働き方を変える可能性を秘めた取り組みです。
深刻な人手不足と働き方改革の要請を背景に、オンライン商談やVR内見といったデジタル技術を活用することで、社員の働きやすさと顧客利便性の両立を目指しています。
まずは一部物件からのスタートですが、成果が確認されれば対象拡大が進むでしょう。不動産業界全体の働き方改革を加速させるきっかけとなるか、今後の動向が注目されます。
参考資料:
関連記事
東京23区の家賃が所得4割超え、マンション高騰で家計を圧迫
東京23区のファミリー向けマンション家賃が可処分所得の4割を超え、過去最高水準に。分譲マンション価格の高騰が賃貸市場に波及し、働く世代の住宅選びに深刻な影響を与えている現状と対策を解説。
東京23区の新築戸建てが8000万円超え、過去最高値を更新
東京23区の新築小規模戸建て価格が8,078万円と史上初めて8,000万円台に突入しました。マンションも1億5000万円超えで過去最高水準に。高騰が止まらない背景と今後の見通しを解説します。
三六協定の締結率5割どまり、残業規制緩和の是非を問う
三六協定を締結している事業所は5割にとどまり、残業規制緩和の議論が活発化しています。働き方改革の効果と今後の労働政策の方向性について、最新データをもとに解説します。
三六協定の締結率は5割止まり|残業規制見直し議論の行方
働き方改革で強化された残業規制の見直しが議論されています。しかし三六協定の締結率は約5割にとどまり、規制緩和の必要性には疑問の声も。現状と今後の展望を解説します。
労働時間減少と低生産性が示す日本の働き方改革の矛盾
日本の労働時間は1990年比で年間200時間減少も、生産性はOECD38カ国中29位の低水準。高市政権の規制緩和方針の背景と課題を解説します。
最新ニュース
南鳥島でレアアース試掘開始・中国依存脱却への挑戦
探査船「ちきゅう」が南鳥島沖でレアアース泥の試掘を開始。水深6000メートルからの世界初の採掘試験と、日本の経済安全保障における意義を解説します。
1年4カ月で国政選挙3回、頻繁な選挙が招く政策停滞
高市首相が通常国会冒頭での衆院解散を検討。国政選挙が短期間に3回目となり、社会保障改革など長期的視点の政策が後回しになる懸念が高まっています。
第174回芥川賞・直木賞が決定、3氏が受賞の栄誉
第174回芥川賞に鳥山まこと氏「時の家」と畠山丑雄氏「叫び」、直木賞に嶋津輝氏「カフェーの帰り道」が決定。前回の両賞該当なしから一転、充実の受賞作が揃いました。受賞作の魅力と作家の経歴を詳しく解説します。
日本人創業のアルパカがユニコーンに、米国初の快挙
証券取引APIを提供するフィンテック企業アルパカが企業価値10億ドルを突破。日本人だけで創業した新興企業として米国初のユニコーン達成の背景を解説します。
三六協定の締結率5割どまり、残業規制緩和の是非を問う
三六協定を締結している事業所は5割にとどまり、残業規制緩和の議論が活発化しています。働き方改革の効果と今後の労働政策の方向性について、最新データをもとに解説します。