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by nicoxz

医療介護の持続危機と国民会議が担う改革の行方

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はじめに

日本の社会保障費は膨張を続けています。2025年度の社会保障給付費は予算ベースで約140.7兆円に達し、国民負担率は46.2%と13年連続で40%台の高水準を維持しています。団塊の世代がすべて75歳以上となる「2025年問題」を経て、医療費や介護費の増大はもはや避けられない構造的課題となりました。

こうしたなか、高市早苗首相は超党派の「国民会議」を設置し、社会保障と税の一体改革に取り組む方針を表明しました。しかし、国民に負担増を求めるのであれば、給付の妥当性を厳しく精査し、制度を根本から見直す覚悟が不可欠です。本記事では、医療介護費の現状と課題、改革の具体策、そして国民会議の役割について解説します。

膨張する医療介護費と国民負担の実態

社会保障費の増加と国民負担率の推移

日本の国民負担率は1970年度の24.3%から2025年度には46.2%へと、半世紀でほぼ2倍に拡大しました。とりわけ社会保障負担率は同期間に5.4%から18.0%へと3倍超に膨らんでいます。社会保障給付費はGDP比で22.4%に達し、財政を大きく圧迫しています。

医療費については、国民医療費が過去最高の48兆円を超える水準にあります。第一生命経済研究所の試算によると、病床数の適正化だけでも約2兆円の削減が可能とされていますが、現状では地域ごとの医療費格差の是正すら十分に進んでいません。

介護保険料の上昇と現役世代の負担

介護分野でも負担増は深刻です。2024年度から2026年度までの第1号被保険者(65歳以上)の全国平均保険料は月額6,225円と過去最高を更新しました。介護費の増大と現役世代の減少が重なり、介護保険料は今後も上昇していくと見込まれています。

2026年度の協会けんぽの保険料率を見ると、医療分は9.90%と0.10ポイント引き下げられた一方、介護分は1.62%と0.03ポイント引き上げられました。さらに「子ども・子育て支援分」として0.23%が新設され、全体として現役世代の手取り収入を圧迫する構造は変わっていません。

診療報酬改定がもたらす二重の影響

2026年度の診療報酬改定では、本体改定率がプラス3.09%と大幅な引き上げが決まりました。医療スタッフの賃上げや物価高騰への対応が主な目的ですが、平均1%の引き上げごとに医療費は約4,800億円増加し、そのうち約半分は社会保険料で賄われます。つまり、医療従事者の処遇改善という正当な目的であっても、結果として国民の保険料負担は確実に増えるという構造的なジレンマがあるのです。

給付効率化に向けた具体的な改革策

OTC類似薬の保険給付見直し

医療費抑制の具体策として注目されているのが、OTC類似薬(市販薬と同等の成分を持つ処方薬)の保険給付見直しです。自民党と日本維新の会は2025年12月、湿布や解熱薬、胃腸薬など77成分・約1,100品目について、薬剤費の4分の1に特別料金を設定する方針で合意しました。

OTC類似薬にかかる医療費の総額は年間約1兆円規模とされ、見直しによる削減効果は約900億円と試算されています。完全な保険適用除外ではなく、患者に追加の自己負担を求める形式が採用されたのは、受診抑制や健康格差の拡大への懸念に配慮した結果です。ただし、慢性的に湿布薬などを必要とする高齢者にとっては実質的な負担増となるため、きめ細かな運用が求められます。

介護保険の利用者負担拡大の検討

介護保険についても、2割負担の対象者拡大が議論されています。厚生労働省は2025年12月の社会保障審議会介護保険部会で、現行の2割負担ライン(年金収入+その他所得280万円以上、上位20%)を引き下げ、上位25~30%にまで拡大する4つのパターンを提示しました。

急激な負担増を緩和するため、月額最大7,000円までの経過措置や、預貯金が一定額以下の場合に1割負担を維持する配慮措置も提案されています。しかし、この見直しは政治的に先送りされ、第10期介護保険事業計画が始まる2027年度の前までに結論を得るとされました。結論の先送りは制度改革の遅れそのものであり、財政健全化の観点からは懸念材料です。

医療DXによるコスト削減の可能性

給付の効率化において、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)への期待も高まっています。政府は「医療DX令和ビジョン2030」のもと、マイナ保険証の本格運用、全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテの標準化を推進しています。

2026年度には共通算定モジュールが本格提供され、標準型レセコンや電子カルテの導入により、医療機関のシステムコスト削減が期待されています。Web予約やオンライン診療の普及は患者の利便性向上だけでなく、医療機関の事務負担軽減にも寄与します。ただし、デジタル化の恩恵を受けにくい高齢者や小規模医療機関への支援も同時に進めなければ、医療アクセスの格差を生みかねません。

国民会議の課題と今後の展望

高市首相は2026年2月の施政方針演説で、「社会保障と税の一体改革について国民会議で結論を得る」と表明しました。消費税の軽減措置や給付付き税額控除の導入など、幅広いテーマを扱う方針です。

しかし、この国民会議には発足前から課題が山積しています。自民党が参加政党を選別しているとの批判が上がり、参政党の神谷宗幣代表は「アリバイづくりだ」と反発しました。共産党の田村智子委員長も「主義主張が同じ人だけを集めてやるべきではない」と指摘しています。一方で、チームみらいの安野貴博党首は参加に前向きな姿勢を示すなど、各党の温度差は大きい状況です。

超党派の議論の場が本当に機能するためには、給付の効率化という本丸に正面から切り込む覚悟が必要です。消費税の議論に終始し、社会保障給付そのものの適正化が後回しになるようでは、制度の持続可能性は改善しません。病床数の適正化、重複投薬の解消、介護予防の強化など、歳出面からの改革をどこまで具体化できるかが、国民会議の真価を問う試金石となるでしょう。

まとめ

日本の医療介護制度は、高齢化と人口減少という二重の圧力のもとで持続可能性の危機に直面しています。国民負担率は46%を超え、社会保険料は賃上げの効果を相殺するほどに膨らんでいます。OTC類似薬の見直しや介護保険の負担割合拡大、医療DXの推進など、個別の改革策は動き始めていますが、いずれも部分的な対処にとどまります。

高市政権が掲げる国民会議が、単なる政治的なパフォーマンスではなく、給付の効率化という痛みを伴う改革に真正面から取り組めるかどうか。その成否が、日本の社会保障制度の将来を左右することになるでしょう。

参考資料

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