久光製薬がMBOで非公開化、4500億円規模の背景
はじめに
貼り薬「サロンパス」で知られる久光製薬が、MBO(経営陣が参加する買収)による株式非公開化を発表しました。創業家出身の中冨一栄社長の資産管理会社がTOB(株式公開買付け)を実施し、買収総額は約4500億円規模となります。
この記事では、久光製薬がなぜ非公開化を選択したのか、背景にあるOTC類似薬改革の影響、そして今後の事業戦略について詳しく解説します。
MBOの概要
買付条件
TOBは中冨一栄社長が社長を務める資産管理会社「タイヨー興産」(福岡県久留米市)が実施します。買付価格は1株あたり6082円で、久光製薬の企業価値は約4500億円と算出されています。
買付期間は1月7日から2月19日までです。久光製薬はタイヨー興産のTOBに賛同を表明しており、TOB成立後に上場廃止となります。
資金調達
タイヨー興産はTOBに要する資金を、創業家による出資のほか、三井住友銀行と三菱UFJ銀行からの借り入れでまかなう予定です。創業家と金融機関が一体となって非公開化を支える形となります。
久光製薬の歴史と事業
177年の歴史
久光製薬は1847年に佐賀県鳥栖市で創業しました。東京証券取引所には1962年に上場し、60年以上にわたり上場企業として事業を展開してきました。
サロンパスの展開
主力製品「サロンパス」は1934年に販売を開始しました。貼り薬市場で圧倒的なブランド力を持ち、現在は世界30カ国以上の国と地域で販売されています。日本国内だけでなく、海外市場でも高い認知度を獲得しています。
非公開化の背景
OTC類似薬改革の影響
非公開化の背景には、政府が進める「OTC類似薬」に関する制度改革があります。自民党と日本維新の会は2024年12月に、市販薬と成分や効果が似通う処方薬について、患者に追加の費用負担を求める仕組みで合意しました。
久光製薬が扱う貼付薬もこの対象に含まれる可能性があり、需要減少につながるリスクが指摘されています。2026年度から一部の実施が予定されており、製薬企業にとっては大きな環境変化となります。
OTC類似薬改革とは
OTC類似薬とは、医療用医薬品でありながら既存の市販薬(OTC薬)と成分・効能がほぼ同じ薬品のことです。現在は公的医療保険の対象で、患者は1〜3割の自己負担で処方を受けられます。
改革後は、湿布や解熱薬、胃腸薬など77成分・約1100品目について、薬剤費の4分の1に特別料金が設定される見込みです。患者負担が増加することで、医療機関での処方から市販薬へのシフトが進む可能性があります。
株主対応からの解放
上場企業として大規模な株主還元や情報開示への対応が求められる中、非公開化によってこうした負担から解放されます。短期的な株主の要求に振り回されることなく、長期的な視点で経営判断を行えるようになります。
今後の事業戦略
海外展開の強化
久光製薬は成長戦略として、サロンパスの海外展開強化を掲げています。特に高い収益の伸びが期待できる米国市場への戦略投資に集中する方針です。
非公開化により、長期的な視点での投資判断が可能になります。上場企業として求められる四半期ごとの業績開示や株主への配当圧力から解放されることで、大胆な海外投資に踏み切りやすくなります。
大規模投資計画
同社は2027年2月期からの5年間で、設備投資に500億円以上、研究開発や戦略投資に1500億円以上を投じる計画です。合計2000億円以上の投資計画は、非公開化によって実現しやすくなります。
製薬業界のMBO動向
大正製薬の先例
製薬業界では、大正製薬ホールディングスが2024年に約7100億円を投じてMBOを実施し、上場廃止となった前例があります。創業家による経営の自由度確保と、長期的な成長戦略の実行を目的としたものでした。
久光製薬のMBOも同様の文脈にあり、創業家主導で事業構造改革を進める動きといえます。
背景にある共通点
製薬業界のMBOに共通するのは、短期的な株主圧力と長期的な事業投資の両立が難しくなっていることです。新薬開発や海外展開には長期間の投資が必要であり、四半期ごとの業績を重視する株式市場との折り合いが課題となっています。
投資家への影響
TOBへの対応
久光製薬の株主は、TOB期間中に1株6082円で売却するか、それともTOBに応じないかを選択することになります。TOBが成立すれば上場廃止となるため、最終的にはすべての株式が買い取られます。
プレミアムの水準
買付価格6082円は、直近の株価に対してプレミアムが上乗せされた水準です。株主にとっては、市場価格より有利な条件で売却できる機会となります。
注意点と今後の展望
OTC類似薬改革の不透明感
OTC類似薬改革については、2026年度からの実施が予定されているものの、具体的な対象品目や負担割合についてはまだ不透明な部分があります。今後の政策動向によっては、製薬企業への影響が変わる可能性もあります。
非公開化後の経営
非公開化後は、創業家主導での経営が進みます。外部からの監視が弱まることで、ガバナンス面での課題が指摘される可能性もあります。一方で、長期的な視点での意思決定が可能になるメリットもあります。
まとめ
久光製薬のMBOは、OTC類似薬改革という制度環境の変化と、海外展開強化という成長戦略を背景としています。約4500億円規模の大型MBOは、製薬業界における非公開化の流れを象徴する事例といえます。
創業から177年の歴史を持つ老舗企業が、上場廃止という大きな決断を下しました。非公開化によって、サロンパスの海外展開を軸とした長期的な成長戦略がどのように進むのか、今後の動向が注目されます。
参考資料:
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