久光製薬がMBOで非上場化、約3900億円で海外開拓に活路
はじめに
「サロンパス」で知られる久光製薬が、MBO(マネジメント・バイアウト)により株式を非公開化すると発表しました。2026年1月6日、創業家出身の中冨一栄社長の資産管理会社がTOB(株式公開買い付け)を実施し、買い付け総額は約3900億円となる見込みです。
上場廃止により四半期決算の開示や株主対応から解放され、中長期的な視点に立った経営ができる体制を整えることが目的です。海外市場のさらなる開拓に向け、老舗製薬会社が大きな転換点を迎えています。
本記事では、久光製薬のMBOの詳細、その背景にある経営課題、そして今後の成長戦略について解説します。
MBOの詳細
買い付け総額約3900億円
久光製薬のMBOでは、TOB価格が1株6082円に設定されました。これは発表前日(1月5日)の終値に対し約35%のプレミアムとなります。買い付け期間は2026年1月7日から2月19日までです。
同社の企業価値は約4500億円と算出されており、大規模なMBOとなります。
創業家主導の非公開化
今回のMBOは、創業家出身の中冨一栄社長の資産管理会社が主導しています。創業家が会社の支配権を維持しながら、上場廃止によるメリットを享受する形です。
久光製薬は1847年創業の老舗企業で、創業家による経営が続いてきました。非公開化後も、この経営体制は継続されます。
株価はTOB価格を上回る
MBO発表翌日の1月7日、久光製薬株は大量の買い注文を集め、値幅制限いっぱいとなる前日比19%高の6200円で取引を終えました。TOB価格の6082円を上回る水準です。
市場はTOB価格が低すぎる、あるいは価格引き上げの可能性があると見ているのかもしれません。
MBOの背景
国内市場の競争激化
久光製薬がMBOに踏み切った背景には、国内市場での競争激化があります。「サロンパス」に代表される市販の貼り薬は、安価な類似品との競争が激しくなっています。
2025年3月〜8月期は、営業利益・純利益ともに前年同期比で減益となりました。主力製品の成長が頭打ちになる中、新たな成長の道を模索する必要がありました。
OTC類似薬政策の逆風
さらに、政策面での逆風も懸念されています。自民党と日本維新の会が2025年12月に合意した「OTC類似薬」に関する政策は、久光製薬にも影響を及ぼす可能性があります。
市販薬と成分や効果が似通う処方薬について、患者に追加の費用負担を求める仕組みが導入されれば、久光の貼付薬の処方が減少するおそれがあります。
中長期視点の経営へ
上場企業は四半期ごとの業績開示や株主対応が求められ、短期的な業績に目を向けざるを得ない面があります。非公開化により、こうしたプレッシャーから解放され、中長期的な視点で経営戦略を立てることができます。
特に海外市場の開拓には時間と投資が必要であり、短期的には業績が低下する可能性もあります。非上場であれば、そうした「我慢の投資」がしやすくなります。
海外市場開拓の戦略
「サロンパス」のグローバル展開
久光製薬は「サロンパス」ブランドを軸に、海外市場の開拓を進める方針です。すでにアジアを中心に海外展開を行っていますが、さらなる成長に向けて投資を加速させます。
外用鎮痛消炎剤の市場は世界的に成長が見込まれており、高齢化が進む先進国や、中間層が拡大する新興国での需要増加が期待されています。
研究開発への投資
非公開化により、研究開発への長期投資も行いやすくなります。新製品の開発や、既存製品の改良に向けた研究に、腰を据えて取り組む体制を構築します。
M&Aの可能性
海外市場での成長を加速させるため、現地企業の買収(M&A)も視野に入れている可能性があります。非上場であれば、買収に関する情報開示の負担も軽減されます。
製薬業界のMBOトレンド
大正製薬に続く動き
製薬業界では、2024年に大正製薬ホールディングスがMBOで上場廃止しています。久光製薬のMBOは、この流れに続くものです。
両社に共通するのは、OTC(市販薬)を主力とする事業構成と、創業家による経営です。市場環境の変化に対応するため、非公開化を選択する製薬会社が増えています。
2025年は過去最多のMBO
MBOや再編に伴う上場廃止は、2025年に過去最多を更新しました。東証の市場再編や、アクティビスト(物言う株主)からの資本効率向上を求める圧力が強まる中、非公開化を選ぶ企業が増えています。
製薬業界に限らず、経営の自由度を高めるために上場廃止を選択する動きは、今後も続く可能性があります。
まとめ
久光製薬が約3900億円のMBOにより株式を非公開化することを発表しました。「サロンパス」で知られる老舗製薬会社が、中長期的な視点での経営体制を構築し、海外市場の開拓に活路を見出そうとしています。
国内市場での競争激化やOTC類似薬政策の逆風を受け、非上場化により経営の自由度を高める狙いです。大正製薬に続き、製薬業界でのMBOトレンドが続いています。
創業家主導の非公開化により、久光製薬がどのような成長戦略を描くのか。老舗企業の新たな挑戦に注目が集まります。
参考資料:
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