閉館ホテル一棟貸切の体験型イベント「ホテル企画天国」の全貌
はじめに
「全部屋、企画で満室です。」このキャッチコピーで話題を集めたイベントが、大阪市内で開催されました。閉館したホテル1棟を丸ごと貸し切り、各客室にユニークな企画を詰め込んだ「ホテル 企画天国」です。
会場は大阪・北浜に位置するTHE BOLY OSAKA。2019年に開業し、中之島エリアのライフスタイルホテルとして親しまれてきましたが、建て替えのため2026年1月18日に閉館しました。その空き期間を活用し、5日間限定で「企画の実験場」に生まれ変わったのです。
主催は「面白くて変なことを考えている」をテーマに掲げるイベント制作会社・株式会社人間(大阪市)。閉館ホテルという非日常の空間を舞台にした、これまでにない体験型イベントの全容を紹介します。
各部屋に詰まったユニークな企画
クリエイターが「プランナー」としてチェックイン
「ホテル企画天国」の最大の特徴は、関西を中心に活動するクリエイターたちが「プランナー」として各客室にチェックインする形式です。紙芝居屋、エッセイスト、ゲームデザイナー、劇作家、ダンサー、謎解きクリエイターなど、ジャンルを問わない多彩なクリエイターが参加しました。
各プランナーには客室1部屋が与えられ、自由に企画を展開します。ホテルの全客室・全館がそれぞれ異なるコンテンツで埋め尽くされ、来場者は館内を巡りながら、次々と新しい体験に出会える仕組みです。
体験型シアターから授賞式まで
展開された企画は、通常のイベントでは考えられないものばかりです。ある部屋では、6年間一度もチェックアウトしない男が潜む客室が舞台となりました。来場者は彼を説得し、部屋から「脱出させる」ことに挑戦します。観客の選択が結末を左右する新感覚の体験型シアターです。
別の部屋では、参加者が自身のコンプレックスを「賞」として表彰される授賞式が開かれました。レッドカーペット体験、記念撮影、授賞インタビューまで本格的に行われ、普段はネガティブに捉えがちな「欠点」を個性として祝うという逆転の発想が光ります。
さらに「ホテルック」と名付けられた企画では、客室を舞台に砲丸投げなどの新感覚スポーツが体験できます。ホテルの部屋という限られた空間で身体を使った体験ができるという意外性が、来場者の好奇心を刺激しました。
閉館ホテル活用という新潮流
空白期間の価値を見出す
日本各地では、老朽化や経営不振、建て替え計画などでホテルが閉館するケースが増えています。閉館から解体・建て替えまでの間には、数ヶ月から数年の「空白期間」が生まれます。この期間、建物は通常、静かに取り壊しを待つだけです。
「ホテル企画天国」は、この空白期間に着目しました。閉館ホテルには客室、ロビー、廊下、階段といった多様な空間が残されており、それぞれが独立した「会場」として機能します。通常のイベントスペースでは得られない、部屋ごとに異なる体験を提供できるのがホテルならではの強みです。
体験型イベントの高まる需要
近年、日本では「モノ消費」から「コト消費」への転換が加速しています。特にZ世代を中心に、SNSで共有できるユニークな体験への需要が高まっています。閉館ホテルを使った体験型イベントは、「今しかできない」「ここでしかできない」という限定性が相まって、強い集客力を発揮します。
実際に、ホテルの閑散期を活用した体験型の謎解きイベントでは2,000人近い参加者を集めた事例もあり、ホテル空間とクリエイティブな企画の組み合わせは大きな可能性を秘めています。
株式会社人間の挑戦
主催の株式会社人間は、大阪市西区京町堀に拠点を置くイベント制作会社です。「面白いかわからないアイデアを実験する」というコンセプトのもと、従来の枠にとらわれないイベントを手がけてきました。設立5周年記念では「16年目で間違いに気づいた展」を開催するなど、ユニークな視点で話題を呼んでいます。
今回の「ホテル企画天国」では、企画のクオリティよりも「実験」としての自由さを重視しました。完成度の高い作品を見せるのではなく、「面白いかどうかわからないアイデア」をまず形にしてみるという姿勢が、クリエイターと来場者の双方に新鮮な体験をもたらしています。
注意点・展望
「ホテル企画天国」のような閉館施設活用イベントは、いくつかの制約があります。建物の安全性確保や、近隣への配慮、保険の手配など、通常のイベント以上に事前の調整が必要です。また、設備が停止している場合もあり、空調や水回りの利用には制限がかかることがあります。
一方で、THE BOLY OSAKAは閉館後も「北浜蚤の市」などのイベント会場として活用される予定があり、2029年の再開業までの間、地域のクリエイティブな拠点として機能し続ける可能性があります。
今後、同様の閉館施設を活用したイベントが各地に広がることが期待されます。老朽化した建物の解体前に、最後の「花道」としてクリエイティブな場に転換する試みは、地域活性化や不動産の有効活用の観点からも注目に値します。
まとめ
「ホテル企画天国」は、閉館ホテルという非日常の空間を最大限に活用した、実験的かつ刺激的なイベントでした。各客室にクリエイターの自由な発想が詰まった構成は、来場者に「次の扉を開ける」ワクワク感を提供しています。
閉館施設の空白期間にクリエイティブな価値を見出すこの取り組みは、イベントの新たな可能性を示しています。体験型コンテンツへの需要が高まる中、ホテルという空間の持つポテンシャルを再認識させてくれる事例です。
参考資料:
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