ソフトバンクとインテルが挑む次世代メモリー革命の全貌
はじめに
2026年2月3日、ソフトバンクの子会社SAIMEMORYとインテルが次世代メモリー技術の共同開発に関する協業を正式発表しました。この協業は、AI時代における最大の課題の一つである「メモリーの消費電力問題」に正面から取り組む野心的なプロジェクトです。
現在、生成AIの急速な発展により、データセンターでの電力消費が爆発的に増加しています。過去10年間でデータセンターのラック当たりの平均消費電力は3倍に、プロセッサの動作時消費電力は5倍に増加したとされています。この問題を解決するカギとなるのが、両社が開発を進める「ZAM(Z-Angle Memory)」という革新的なメモリー技術です。
本記事では、この協業の詳細と技術的な背景、そして日本の半導体産業にとっての意義を詳しく解説します。
SAIMEMORYとは何か
ソフトバンクが設立した次世代メモリー開発会社
SAIMEMORYは、2024年12月にソフトバンクが次世代メモリー技術の実用化を目指して設立した子会社です。社名の「SAI」は「才能」や「天才」という漢字にちなんで名付けられました。代表取締役社長兼CEOには山口秀哉氏が就任しています。
設立時の資本金は約30億円で、ソフトバンクグループの通信事業で培った技術力と、AIインフラへの投資戦略を組み合わせた新たな挑戦として注目を集めています。
なぜソフトバンクがメモリー事業に参入するのか
ソフトバンクがメモリー事業に参入する背景には、AI事業への本格的な取り組みがあります。同社は近年、AI関連のインフラ投資を積極的に進めており、データセンターの電力効率は事業の競争力に直結する重要な要素となっています。
従来、メモリー市場は韓国のサムスン電子やSKハイニックス、米国のマイクロンといった専業メーカーが支配してきました。しかし、AI向けメモリーの需要が急増する中、既存の供給体制では対応しきれない状況が生まれています。ソフトバンクは、この市場機会を捉え、独自の技術開発で差別化を図ろうとしています。
ZAM(Z-Angle Memory)技術の革新性
現行HBMの2〜3倍の容量と半分の消費電力
ZAM(Z-Angle Memory)は、SAIMEMORYとインテルが共同開発を進める次世代メモリー技術です。その最大の特徴は、現行のHBM(High Bandwidth Memory)と比較して、2〜3倍の記憶容量を実現しながら、消費電力を約半分に削減できる点にあります。
現在のAI用GPUやアクセラレーターには、HBMと呼ばれる高帯域幅メモリーが搭載されています。HBMは複数のメモリーチップを垂直方向に積み重ねる3D構造を採用し、従来のDDR5メモリーの約15倍という驚異的な帯域幅を実現しています。しかし、製造コストが高く、発熱の管理も難しいという課題を抱えています。
ZAMは、これらの課題を解決する新しいアーキテクチャとして設計されています。
インテルの積層技術が基盤に
ZAM開発の技術的基盤となるのは、インテルが長年にわたって開発してきた3D積層技術です。インテルは「Foveros」と呼ばれる3Dパッケージング技術を保有しており、CPUやGPUなどの論理回路を垂直方向に積み重ねることを可能にしています。
さらに、インテルは米国エネルギー省の支援を受けて進めてきた「Advanced Memory Technology(AMT)」プログラムで、次世代メモリーの基盤技術を確立しました。このプログラムで実証された「Next Generation DRAM Bonding(NGDB)」の技術的知見が、ZAM開発に活用されます。
インテルの政府技術部門CTOは「既存のメモリーアーキテクチャではAIの要求事項を満たすことができない」と述べ、NGDBが「今後10年の成長を加速する全く新しいアプローチ」であると強調しています。
開発スケジュールと投資規模
2027年度に試作品、2029年度に実用化を目指す
SAIMEMORYは、2027年度(2028年3月31日まで)にZAMの試作品を開発し、2029年度中の実用化を目指しています。この野心的なスケジュールは、AI市場の急速な拡大に対応するためのものです。
開発資金として、ソフトバンクが約30億円(約1,900万ドル)を出資するほか、富士通と理化学研究所も合わせて約10億円規模を投じる予定です。さらに、経済産業省もNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を通じて数十億円の支援を行う見通しで、官民一体となった開発体制が構築されています。
日本の半導体産業復権への期待
この協業は、日本の半導体産業にとっても重要な意味を持ちます。かつて世界市場の半分以上を占めていた日本の半導体産業は、1990年代以降、韓国や台湾のメーカーに押されて縮小してきました。
しかし、ZAMプロジェクトでは、日本のキオクシア(旧東芝メモリ)がメモリーダイの供給パートナーとして参画する可能性が示唆されています。インテルは技術基盤を提供し、日本企業が製造を担うという国際分業体制により、日本の半導体産業の復権につながる可能性があります。
AI時代のメモリー問題とZAMの意義
データセンターの電力消費が限界に
生成AIの普及により、世界中のデータセンターで電力消費が急増しています。特に、大規模言語モデル(LLM)の学習や推論には膨大な計算処理が必要であり、その過程でメモリーとプロセッサ間のデータ転送に大量の電力が消費されます。
現在のデータセンターでは、冷却システムだけで総電力の30〜40%を消費するケースもあり、環境負荷と運用コストの両面で深刻な問題となっています。ZAMの省電力技術が実用化されれば、この問題を大幅に緩和できる可能性があります。
HBMの供給不足と価格高騰
AI向けメモリーの需要急増に対し、現行のHBM供給は追いついていません。韓国のSKハイニックスは2026年分のHBMがすでに完売したと発表しており、サムスン電子もサーバー向けDRAM契約価格を最大60%引き上げています。
ZAMは、HBMよりも低コストで製造できる可能性があるとされています。インテルのジョシュア・フライマン氏は「広帯域メモリー(HBM)よりもずっと安いメモリーを開発できる」と述べており、コスト競争力の面でも期待が高まっています。
注意点・展望
実用化までのハードル
ZAM技術には大きな期待が寄せられていますが、実用化までにはいくつかのハードルがあります。3D積層技術は製造が非常に困難であり、歩留まり(良品率)の確保が課題となります。複数のダイを積層する過程でわずかな欠陥が発生すると、全体が不良品となるリスクがあります。
また、2029年の実用化時点で、競合他社がどのような技術を投入しているかも不透明です。サムスン電子やSKハイニックスも次世代HBM(HBM4など)の開発を進めており、技術競争は激化しています。
日本半導体産業への波及効果
一方で、このプロジェクトが成功すれば、日本の半導体産業に大きな波及効果をもたらす可能性があります。製造技術やサプライチェーンの構築、人材育成など、様々な面で産業基盤の強化につながることが期待されます。
政府の支援も追い風となっており、経済安全保障の観点からも、先端半導体技術の国内確保は重要な政策課題となっています。
まとめ
ソフトバンク子会社SAIMEMORYとインテルの協業は、AI時代のメモリー問題を解決する可能性を秘めた野心的なプロジェクトです。次世代メモリー技術「ZAM」は、現行HBMの2〜3倍の容量と半分の消費電力を目指しており、2029年の実用化に向けて開発が進められます。
日本企業と米国企業、そして政府が一体となったこの取り組みは、単なる技術開発にとどまらず、日本の半導体産業復権の試金石としても注目されています。今後の開発進捗と、AI市場の動向に注目が集まります。
参考資料:
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