ルンバの敗因は価格競争ではない iRobot破綻が示す9年前の過ち
iRobot、破産法申請――「ルンバ」の時代に終止符
ロボット掃除機「ルンバ」で知られる米iRobot社が、2025年12月に連邦破産法(チャプター11)を申請しました。買収するのは、長年製造を請け負ってきた中国のPicea Robotics(杉川機器人)。「ロボット掃除機といえばルンバ」と呼ばれた企業がなぜ破綻に追い込まれたのか。その背景には、中国勢や価格競争よりも深い構造的問題がありました。
表面的な敗因:競合と価格戦争
RoborockやEcovacsなど中国メーカーが高性能・低価格モデルを次々と投入し、世界市場で急成長。iRobotは価格を下げる一方で、差別化の軸を見失いました。しかしこれは“結果”であり、“原因”ではありません。実際、ルンバは長く高いブランド力を保ち、市場シェアも一定程度維持していました。
真の敗因:戦略転換の遅れ
Amazon買収破談が転機
2022年、AmazonはiRobotを17億ドルで買収する計画を発表しましたが、独禁当局の反対で2024年に破談。買収が成立していれば、資金力と販売網を得て再建の道が開けた可能性がありました。元CEOコリン・アングル氏は「最大の転機を逃した」と振り返っています。
9年前の過ちとは
iRobotの真の転落は2016年前後に始まっていました。当時、同社はハードウェア事業一辺倒で、AI・クラウド連携やサービスモデルへの移行を怠りました。成功体験への過信と組織文化の硬直化が、技術革新のスピードを鈍らせたのです。
成功モデルを守ることが、変化への最大の障壁になった――これがiRobotの9年前の過ちです。
組織文化の硬直と意思決定の遅れ
長年の成功が生んだ「創業者の呪縛」。トップダウン型の経営体制は強力でしたが、現場の俊敏さや市場感覚を損ないました。競争環境が激化する中、社内では新しい方向性を打ち出す機運が育ちにくく、変革の機会を逃しました。
また、同社はハードウェア中心の収益構造から脱却できず、サブスクリプションやスマートホーム連携など、サービス化の波に乗り遅れました。
教訓:イノベーション企業の持続性とは
iRobotの破産は、単なる価格競争敗北ではなく「戦略思考の欠如による時間の喪失」といえます。革新企業であっても、変化への適応を怠れば衰退する――これは多くのテック企業に共通する教訓です。
ポイント整理
- Amazon買収破談が致命的な機会損失に
- 2016年前後の戦略転換遅れが根本要因
- 組織文化の保守化が革新を阻害
まとめ
ルンバの敗因は“中国勢”でも“価格競争”でもありません。最大の過ちは9年前に始まった、変革への遅れと組織の惰性でした。技術力とブランドがあっても、時代の波を読む戦略がなければ生き残れない――iRobotの破綻は、その現実を象徴しています。
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