イトーヨーカ堂が北京撤退、日系小売の中国苦戦が鮮明に
はじめに
イトーヨーカ堂が中国・北京の店舗運営から撤退しました。全額出資子会社「華糖ヨーカ堂」の株式を現地企業に9割売却し、北京での事業はブランドのライセンス供与のみとなります。
1997年の北京進出から約29年。ピーク時には11店舗を展開していた北京事業は、中国の個人消費の停滞やネットスーパーの台頭で売上高が低迷し、撤退を余儀なくされました。2025年9月に親会社となった米投資ファンド・ベインキャピタルのもとで、不採算事業の整理が加速しています。
北京事業の歴史と縮小の経緯
1997年の進出と成長期
華糖ヨーカ堂は1997年10月に設立され、北京市内にGMS(総合スーパー)形態の店舗を次々と出店しました。日本式の接客やきめ細やかなサービスが現地消費者に支持され、ピーク時には11店舗まで拡大しています。
2012年の反日デモの際にも、日頃の地域貢献が評価されてほとんど被害を受けなかったエピソードは有名です。地元消費者との信頼関係を築いてきた実績は、他の日系小売にはない強みでした。
急速な店舗縮小
しかし、2010年代後半から中国の消費環境は急速に変化しました。EC(電子商取引)の普及、ネットスーパーの台頭、そして2020年代に入ってからの個人消費の停滞が重なり、北京の店舗は次々と閉鎖に追い込まれました。11店舗あった北京の店舗はわずか1店舗にまで縮小していました。
今回の株式売却により、北京の店舗運営は現地企業「北京新辰超市発展」に移管され、イトーヨーカ堂はブランドのライセンス供与のみにとどまることになります。
ベインキャピタル傘下での事業整理
セブン&アイからの分離
イトーヨーカ堂は2025年9月、親会社セブン&アイ・ホールディングスから分離されました。イトーヨーカ堂を含む非中核事業を束ねる「ヨーク・ホールディングス」の株式が、米ベインキャピタルに売却されています。売却額は8,147億円で、ベインの保有比率は60%です。
ベインキャピタルの傘下に入ったことで、不採算事業の整理が本格化しています。北京事業の撤退は、収益改善に向けた構造改革の一環と位置づけられます。
国内でも大規模リストラ
国内でも大幅な事業縮小が進んでいます。2026年2月末までに全国125店舗のうち33店舗の閉鎖が決定され、祖業であるアパレル事業からも撤退しました。食品スーパーへの転換を軸に、収益性の高い事業構造への再編が急ピッチで進められています。
日系小売の中国撤退が加速
相次ぐ日系企業の中国撤退
イトーヨーカ堂の北京撤退は、日系小売企業の中国事業縮小の象徴的な出来事です。帝国データバンクの調査によると、中国に進出している日本企業はピークから約1,000社・1割減少し、2024年時点で約1.3万社となっています。
小売・飲食分野での撤退は特に顕著です。モスフードサービスは2024年6月に中国本土の全6店舗を閉店し完全撤退。ABCクッキングスタジオも2024年7月末に中国全12店舗を閉鎖しました。いずれも個人消費の低迷が主因です。
中国消費市場の構造変化
中国の消費市場は、従来の実店舗型ビジネスモデルにとって厳しい環境になっています。アリババやJD.comなどのEC大手が食品宅配まで手がけるようになり、実店舗の存在価値が問われています。特に都市部では、スマートフォン一つで日用品から生鮮食品まで数十分で届くサービスが定着しており、GMS型の総合スーパーは集客力を失いつつあります。
撤退の難しさ
中国からの撤退には固有の困難があります。従業員との交渉が大きな課題となり、日系企業から現地企業への譲渡では待遇変化への不安から補償金を要求されるケースが多いとされています。景気低迷により譲渡先を見つけること自体が容易ではなく、清算を選ぶ場合も債務超過であれば手続きが進められないなどの問題があります。
今後の展望
「チャイナ・プラスワン」の加速
日系企業全体としては、完全な「脱中国」よりも、リスクを管理しながら中国との関わり方を再定義する「リバランス」が主流になっています。生産・調達拠点を東南アジアなどに分散させる「チャイナ・プラスワン」戦略を検討・実施中の日本企業は25%に上ります。
二極化する日系企業の中国戦略
実際には、中・低付加価値分野からの撤退と先端技術分野への投資加速という「K字型の二極分化」が起きています。トヨタは上海にEV版レクサスの研究開発子会社を設立し、パナソニックは半導体材料の新工場建設を開始するなど、高付加価値分野では逆に投資を拡大する動きもあります。
小売業にとって中国市場は依然として巨大ですが、現地のデジタル化のスピードに対応できないGMS型のビジネスモデルでは太刀打ちできない現実が鮮明になっています。
まとめ
イトーヨーカ堂の北京撤退は、29年にわたる中国事業の一つの区切りです。中国の個人消費停滞、EC・ネットスーパーの台頭、そしてベインキャピタル傘下での事業再編という複合的な要因が背景にあります。
日系小売企業の中国撤退は今後も続く可能性が高く、残る成都事業の動向も注目されます。中国市場で生き残るには、デジタル化への対応と現地ニーズに合わせたビジネスモデルの再構築が不可欠です。
参考資料:
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