ヨークHDが改装投資1000億円、ロピア対抗へ勝負
はじめに
ヨーク・ホールディングス(HD)が、傘下のイトーヨーカ堂やヨークベニマルの店舗改装に2028年度までに1000億円を投じる計画を発表しました。これは同社の改装投資としては過去最大規模となります。
2025年9月に米投資ファンドのベインキャピタル傘下に入ったヨークHDは、急成長を続ける低価格スーパー「ロピア」や「オーケー」との競争激化に直面しています。本記事では、大規模投資の背景と狙い、そしてスーパー業界の競争環境について解説します。
ベインキャピタル傘下での新たな出発
セブン&アイからの分離と売却
イトーヨーカ堂は長年、セブン&アイ・ホールディングスの祖業として位置づけられてきました。しかし、店舗の老朽化や立地の偏りなどにより構造的な収益改善が困難となり、2025年3月にベインキャピタルへの売却が決定しました。
売却額は8147億円で、2025年9月1日に株式譲渡が完了しています。新体制では、ベインキャピタルが60%、セブン&アイHDが35.07%、創業家(伊藤家・大高家)が4.93%を出資する構成となりました。
ヨークHDにはイトーヨーカ堂のほか、食品スーパーのヨークベニマル、ファミリーレストランのデニーズ、生活雑貨のロフト、ベビー用品の赤ちゃん本舗など29社が含まれ、グループ全体の売上高は約1兆6000億円に達します。
「フード&ドラッグ」への業態転換
ヨークHDは2025年9月、今後の事業戦略として「イトーヨーカ堂はフード&ドラッグ事業に専念する」方針を打ち出しました。従来の総合スーパー(GMS)から脱却し、食品と医薬品を核とした業態への転換を進めます。
同時に、店舗全体を「コミュニティーショッピングセンター(CSC)」として再定義し、テナント誘致などを通じて館全体の活性化を図る計画です。2026年までに33店舗を閉鎖し、大都市圏に特化した展開へと集約を進めています。
1000億円改装投資の具体策
生鮮食品売り場の刷新が柱
今回の1000億円投資は、イトーヨーカ堂の大型店を中心とした約100店舗が対象となります。投資の中心は生鮮食品売り場の刷新です。
鮮魚、精肉、青果などの生鮮売り場を大幅に改装し、品揃えの強化と売り場の魅力向上を図ります。生鮮食品はスーパーの集客力を左右する最重要カテゴリであり、低価格スーパーとの差別化を図る上でも鍵となる分野です。
2024年度には前年度比3倍超となる200億円を食品売り場の改装に投じており、今回の1000億円投資はその方針をさらに加速させるものとなります。
M&Aによる規模拡大も視野
ベインキャピタルの西直史パートナーは「今後は、イトーヨーカドー既存店の改装を強化するとともに、M&Aで同業他社を獲得し、ドミナント(地域集中出店)を延長することも検討する。必要であれば数千億円規模の投資を行うことも考えている」と述べています。
改装投資にとどまらず、買収を通じた規模拡大も選択肢に含まれており、ベインキャピタルの資金力を背景とした攻めの経営姿勢が示されています。
新規出店も積極化
ヨークHDの石橋誠一郎社長は、2025年度にグループ全体で33店舗を新規出店する計画を明らかにしています。首都圏にヨーカ堂2店舗、ヨークベニマルが南東北と北関東に5店舗を出店予定です。
特にヨークベニマルについては「製造・配送拠点の圏内エリアは積極的に出店していきたい。埼玉県・千葉県・群馬県などドミナントを延長する出店について議論を始めた」としており、2026年度発表予定の中期経営計画で具体化される見通しです。
競合「ロピア」の脅威
10年で売上高7倍の急成長
ヨークHDが大規模投資に踏み切る背景には、低価格スーパーの急成長があります。その筆頭が「ロピア」です。
ロピアを展開するOIC(オイシー)グループの2024年2月期の売上高は4126億円に達し、直近10年間で約7倍に拡大しました。店舗数も約90店と5年前から倍増しており、現在は全国22の都道府県と台湾で計138店舗を展開しています。
同社は「2031年度までに300店舗体制」を目標に掲げ、グループ会社100社、売上高2兆円という壮大な計画を推進しています。
ロピアの強さの秘密
ロピアの強みは、徹底した低価格戦略にあります。粗利率の目安は20%と業界平均(26%)を大きく下回りますが、大量販売で経費を吸収し利益を確保するビジネスモデルを構築しています。
1店舗当たりの年間売上高は約40億円と、一般的なスーパーの2倍以上を誇ります。ターゲット顧客を30〜40代の夫婦と子ども2人の4人家族に明確に絞り込み、大容量・低価格の商品を提供することで支持を集めています。
支払いが「現金のみ」の店舗が多いなど、徹底したコスト削減が低価格を実現する源泉となっています。
2026年も出店攻勢が続く
ロピアは2026年も積極的な出店を計画しています。1月には北海道5号店となる「ロピア中の島店」(札幌市)がオープン予定で、道内初の新設店舗となります。
春には「パセーラ広島店」(広島市中区)で中四国地方に初進出するほか、三国ヶ丘店(2月予定)、長岡店(春予定)、長浜店(3月予定)など、全国各地への展開を加速させています。
スーパー業界の競争激化
オーケー、業務スーパーも台頭
低価格スーパーの躍進はロピアだけではありません。オーケーや業務スーパー、ヤオコーなど、ディスカウント志向のスーパーが軒並み業績を伸ばしています。
物価高が続く中、消費者の価格意識は高まる一方です。品質を維持しながらいかに低価格を実現するかが、スーパー各社の最重要課題となっています。
大手各社の対応
こうした競争環境の中、大手スーパー各社も対応を迫られています。イオングループは「まいばすけっと」など小型店舗の展開を強化し、都市部の顧客獲得を狙っています。
ヨークHDの大規模投資も、こうした業界全体の競争激化への対応策として位置づけられます。ベインキャピタルという強力なスポンサーを得たことで、従来は難しかった大胆な投資が可能になったと言えます。
2028年IPOに向けた課題と展望
企業価値5000億円との評価
ヨークHDについては、企業価値5000億円程度との評価があり、2028年までの株式公開(IPO)を目指す方針が示されています。
IPO実現に向けては、収益性の改善が不可欠です。1000億円の改装投資が売上・利益の向上に結びつくかどうかが、今後数年間の最重要課題となります。
雇用維持と段階的改革
ヨークHDにはイトーヨーカ堂単体で約2万人、グループ全体では4万人規模の従業員が在籍しています。ベインキャピタルは「雇用維持」を基本方針としており、急激なリストラは避け、段階的な改革を進める方針です。
大規模投資と雇用維持を両立させながら、いかに収益改善を実現するかが経営陣に問われています。
まとめ
ヨーク・ホールディングスによる1000億円規模の改装投資は、ベインキャピタル傘下で再出発を図る同社の本気度を示すものです。生鮮食品売り場の刷新を軸に、急成長するロピアなど低価格スーパーへの対抗を図ります。
スーパー業界は物価高を背景に競争が一段と激化しており、各社の生き残りをかけた戦いが続いています。ヨークHDが2028年のIPOに向けて改革を成功させられるか、今後の動向が注目されます。
参考資料:
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