ヨーカ堂・ベニマル1000億円改装の狙いと勝算
はじめに
日本のスーパーマーケット業界で、大規模な構造変化が進行しています。2025年9月、セブン&アイ・ホールディングスは祖業であるイトーヨーカ堂を含む非中核事業を米投資ファンドのベインキャピタルに売却しました。その新体制のもと、ヨーク・ホールディングス(HD)が2028年度までに1000億円規模の店舗改装投資を行うことが明らかになりました。
この動きの背景には、「ロピア」に代表される低価格スーパーの急成長があります。従来の総合スーパー(GMS)ビジネスモデルが行き詰まる中、ヨーカ堂やベニマルはどのような戦略で巻き返しを図るのでしょうか。本記事では、改装投資の詳細、競合環境、そして今後の展望を独自調査に基づき解説します。
1000億円改装投資の全容
投資規模と対象店舗
ヨーク・ホールディングスが発表した改装投資計画は、過去最大規模となる1000億円を2028年度までに投じるものです。対象となるのはイトーヨーカ堂の大型店を中心に約100店舗で、2026年度から本格的に着手する予定です。
具体的な改装対象として挙げられているのは、ヨーカ堂の大森店(東京都大田区)やアリオ市原店(千葉県市原市)などの旗艦店です。これらの店舗では、特に鮮魚をはじめとする生鮮食品売り場の刷新が重点項目となっています。
フード&ドラッグへの事業集中
ヨークHDの石橋誠一郎社長は「消費頻度が高く、日常利用される食品スーパー領域での差別化が重要」と明言しています。この方針に基づき、イトーヨーカ堂は2027年度以降、フード&ドラッグ事業に経営資源を集中させる計画です。
これは従来の総合スーパー(衣料品・住居関連・食品を幅広く扱う業態)からの転換を意味します。衣料品や家電などの売り場を縮小し、食品と日用品に特化することで、専門性と競争力を高める狙いがあります。
ベインキャピタルによる支援体制
2025年9月にセブン&アイからヨークHDを買収したベインキャピタルは、今後3〜5年で数千億円規模の投資を行う用意があると表明しています。ベインキャピタル・ジャパンの西直史氏は「必要であれば数千億円規模の投資を行うことも考えている」と述べており、改装投資に加えてM&A(合併・買収)による事業拡大も視野に入れています。
ベインの保有比率は60%で、残り40%はセブン&アイや創業家が再出資しています。投資ファンドの傘下に入ったことで、短期的な利益よりも中長期的な企業価値向上を目指す経営が可能になったといえます。
競合ロピアの脅威と急成長
ロピアとは何者か
ヨークHDが大規模投資に踏み切る背景には、低価格スーパー「ロピア」の急成長があります。ロピアは神奈川県藤沢市で精肉店「タカラヤ」として創業し、現在は「ロープライスユートピア」を社名の由来とする低価格路線で急拡大しています。
2025年2月期のグループ売上高は5213億円に達し、10年前と比較して7倍超の成長を遂げました。店舗数も全国22都道府県と台湾で138店舗(2025年9月時点)に拡大し、2031年度までに300店舗体制を目指しています。
急成長の秘密
ロピアの競争力の源泉は、製造小売型(SPA)の仕組みにあります。生鮮から惣菜・加工食品までを自社で手がけることで、コストを抑えながら品質を維持しています。
さらに、グループ傘下の商社「ユーラス」がワインやパスタ、オリーブオイルなどを世界中から直接コンテナで輸入する「中抜き」戦略により、輸入食品を競合他社より圧倒的に安く提供しています。現場主導の「チーフ制度」による柔軟な運営も、顧客ニーズへの素早い対応を可能にしています。
イトーヨーカ堂店舗への進出
ロピアの脅威を象徴するのが、閉店したイトーヨーカ堂店舗への進出です。2024年から2025年にかけて、ロピアは北海道札幌市の福住店(旧イトーヨーカドー福住店)、青森県弘前市の弘前店(旧イトーヨーカドー弘前店)など、ヨーカ堂の撤退跡地に相次いで出店しています。
かつての競合が去った立地に新たな競合が入り込む構図は、既存店舗にとって大きな脅威となります。
ヨークベニマルの強みと戦略
東北・北関東での盤石な地位
ヨークHD傘下で重要な役割を担うのがヨークベニマルです。2025年2月末時点で248店舗を展開し、福島県81店舗、宮城県63店舗、茨城県47店舗、栃木県35店舗、山形県22店舗とドミナント戦略を徹底しています。
2025年2月期の営業収益は5037億円(前期比2.5%増)で、グループ内でも安定した収益源となっています。地域密着型の店舗運営と「いち・に・さんの市」などの定番セールで顧客との強い結びつきを維持しています。
新規出店と既存店改装の両立
ヨークHDは2026年2月期に33店舗の新規出店を計画しており、このうちヨークベニマルは南東北と北関東に5店舗を出店予定です。2025年3月には、イトーヨーカドー郡山店跡地に「ヨークパーク」を開業するなど、グループ内での店舗再編も進んでいます。
既存店の改装と新規出店を同時に進めることで、地域内でのシェア維持・拡大を図る方針です。
注意点・今後の展望
ロピアが抱える課題
一方で、急成長を続けるロピアにも課題が見え始めています。2025年5月には、オープンからわずか1年あまりで沖縄1号店(国際通り店)が閉店しました。また、2025年6月には公正取引委員会が優越的地位の濫用を禁じた独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査を実施しています。
急拡大に伴う管理体制の整備が、今後のロピアの成長を左右する可能性があります。
スーパー業界再編の加速
ヨークHDの大規模投資は、日本のスーパー業界が新たな競争フェーズに入ったことを示しています。低価格競争だけでなく、生鮮食品の品質、店舗の利便性、デジタル化など、多面的な差別化が求められる時代です。
ベインキャピタルは最短3年後の新規上場を視野に入れており、その間に企業価値をどこまで高められるかが問われます。M&Aによる同業他社の取得も検討されており、業界再編がさらに進む可能性があります。
まとめ
ヨーク・ホールディングスによる1000億円の店舗改装投資は、ロピアをはじめとする低価格スーパーとの競争に対応するための大きな一手です。米ベインキャピタルの資金力を背景に、イトーヨーカ堂のフード&ドラッグ業態への転換、ヨークベニマルの地域密着戦略の強化が進められます。
消費者にとっては、競争激化による価格低下やサービス向上が期待できる一方、業界全体では淘汰と再編が加速する可能性があります。今後のスーパー業界の動向から目が離せません。
参考資料:
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