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by nicoxz

イトーヨーカ堂がベイン傘下でロピアに対抗する戦略

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はじめに

日本の小売業界で大きな構造変化が進んでいます。かつて総合スーパー(GMS)の代表格として君臨したイトーヨーカ堂が、2025年9月に米投資ファンドのベインキャピタル傘下に入りました。セブン&アイ・ホールディングスから切り離された形での再出発となります。

その背景には、「ロピア」や「オーケー」といった低価格スーパーの急成長があります。特にロピアは2026年2月期に売上高6555億円を見込むなど、破竹の勢いで店舗を拡大しています。イトーヨーカ堂を含む新会社「ヨーク・ホールディングス」は、こうした低価格チェーンにどう対抗していくのでしょうか。本記事では、スーパー業界の競争環境と、イトーヨーカ堂の再建戦略を詳しく解説します。

ベインキャピタル傘下での再出発

8000億円規模の大型買収

セブン&アイ・ホールディングスは2025年3月、イトーヨーカ堂やヨークベニマル、デニーズジャパン、ロフト、赤ちゃん本舗などを束ねる「ヨーク・ホールディングス」について、ベインキャピタルへ8147億円で売却する契約を締結しました。同年9月1日に株式売却が完了し、新体制がスタートしています。

新たな株主構成はベインキャピタルが60%、セブン&アイが約35%、創業家が約5%となっています。セブン&アイや創業家が再出資したため、ベインの実質的な投資額は約4900億円とされています。

なぜセブン&アイは売却したのか

イトーヨーカ堂の業績は長年低迷が続いていました。1998年度には1兆5000億円以上あった売上高は、2022年度には約1兆円と3分の2に減少。2024年2月期には純損失259億円を計上し、4期連続の赤字となっていました。

セブン&アイとしては、主力のコンビニ事業(セブン-イレブン)に経営資源を集中させるため、採算の厳しいスーパー事業を切り離す判断をしました。一方、投資ファンドであるベインキャピタルにとっては、再建を成功させて企業価値を高め、将来的なIPO(新規上場)で投資リターンを得るという事業計画があります。

数千億円規模の投資計画

ベインキャピタル傘下で、ヨーク・ホールディングスは3〜5年で数千億円規模の投資を計画しています。具体的には、2028年度までにスーパーの改装に1000億円を投じる方針を打ち出しています。イトーヨーカ堂の大型店約100店が対象で、特に鮮魚など生鮮食品の売り場を刷新します。これは改装投資として過去最大規模となります。

また、ライバル企業の買収・合併(M&A)も視野に入れており、「ドミナント戦略」(特定エリアへの集中出店)の拡大に向けて、理念に共鳴するスーパー事業者がいれば買収も検討するとしています。

台頭する低価格スーパーの脅威

ロピアの急成長

イトーヨーカ堂にとって最大の脅威となっているのが、食品スーパー「ロピア」です。川崎市に本拠を置くOICグループが運営するロピアは、2026年2月期の売上高が前期比26%増の6555億円を見込んでいます。10年前と比較すると売上高は7倍超、店舗数は約5倍の145店舗にまで拡大しました。

ロピアの強さは精肉の品質と価格にあります。2025年8月発表の「Shufoo!ベストオブスーパー2025」では総合1位を初受賞し、「お肉部門」の部門賞も獲得しています。食肉加工会社など10社以上をM&Aでグループに加え、商品の開発力を高めてきました。

注目すべきは出店戦略です。ロピアの2025年から2026年の出店リストを見ると、イトーヨーカドーの撤退跡地への出店が目立ちます。福住店、弘前店、尾張旭店、新三郷店など、かつてイトーヨーカドーがあった場所にロピアが入る構図が各地で生まれています。

オーケーのEDLP戦略

もう一つの強力なライバルが「オーケー」です。オーケーは「EDLP(エブリデイ・ロープライス)」を徹底した低価格戦略で知られています。1986年に基本方針にEDLPを追加し、2001年には特売チラシを廃止。「いつでも安い」を実現しています。

オーケーが低価格を実現できる理由は複数あります。まず、売れ筋の1番手商品ではなく2番手商品を大量に仕入れることで仕入れコストを抑えています。牛乳なら「明治」ではなく「森永」、醤油なら「キッコーマン」ではなく「ヤマサ」といった具合です。また、チラシを打たないことで広告宣伝費を大幅に削減しています。

こうした取り組みの結果、オーケーは32期連続の増収を達成。売上高は10年で約2倍の4000億円規模にまで成長し、営業利益率は6%超と業界トップクラスの収益性を誇っています。

イトーヨーカ堂の再建戦略

GMSから食品スーパーへの転換

イトーヨーカ堂が進める再建戦略の核心は、総合スーパー(GMS)から食品スーパーへの業態転換です。かつてのGMSは「食品のついでに衣料品や生活雑貨を買ってもらう」というビジネスモデルでしたが、ユニクロやしまむらといった専門店の台頭で、このモデルは成り立たなくなっています。

ヨーク・ホールディングスの石橋誠一郎社長は「消費頻度が高く、日常利用される食品スーパー領域での差別化が重要」と述べ、フード&ドラッグ事業に経営資源を集中させる方針を示しています。2027年度以降、イトーヨーカ堂は食品・日用品を軸とした業態に本格的にシフトします。

33店舗閉鎖の完了

再建に先立ち、イトーヨーカ堂は大規模な店舗閉鎖を実施しました。2023年10月に発表された計画では、2025年度までに33店を閉店し、126店から93店舗体制に縮小する予定でした。この計画は当初より1年前倒しで完了し、2025年2月24日に最後の不採算店が閉店しました。

閉店により、北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城、新潟、長野の各エリアから撤退し、首都圏に店舗を集中させる形となりました。最盛期の2016年には182店舗を展開していましたが、約半分の規模に縮小しています。

ヨークベニマルのノウハウ移植

再建の切り札として期待されているのが、グループ会社「ヨークベニマル」の存在です。福島県を中心に東北・北関東で248店舗を展開するヨークベニマルは、堅実な経営で知られています。2025年2月期の営業収益は5037億円と増収を維持しています。

ベインキャピタルの幹部は、イトーヨーカ堂の再建にあたってヨークベニマルのノウハウを移植する方針を示しています。ヨークベニマルは特定エリアへの集中出店(ドミナント戦略)や、地域密着型の品揃えで成功してきました。このノウハウをイトーヨーカ堂に適用し、首都圏での競争力を高める狙いがあります。

また、ヨークベニマル自体も首都圏への進出を検討していることが明らかになっています。2025年3月には福島県郡山市に新業態店「ヨークパーク」を開店し、従来の食品スーパーの枠を超えた店舗展開も始めています。

今後の展望と課題

低価格競争への対応

イトーヨーカ堂が再建を成功させるためには、ロピアやオーケーとの価格競争にどう対応するかが最大の課題です。単純な値下げ競争では、EDLPを徹底しているオーケーや、独自の調達網を持つロピアに太刀打ちできない可能性があります。

一方で、イトーヨーカ堂には長年培ってきたブランド力と、首都圏の好立地に店舗を持つという強みがあります。生鮮食品の品質向上や、プライベートブランド商品の強化など、価格以外の価値で差別化を図ることが求められます。

人材確保の問題

スーパー業界全体で人材不足が深刻化しています。ロピアですら成長のボトルネックは人材不足だとされており、売り場責任者で年収1000万円に達する成果報酬制度を整えても、採用が追いついていない状況です。

イトーヨーカ堂も例外ではなく、店舗改装や新業態への転換を進める上で、優秀な人材の確保と育成が不可欠です。大量閉店に伴う従業員の再配置も進めながら、新たな組織文化を構築していく必要があります。

IPOに向けた道筋

ベインキャピタルは最短で3年後のIPO(新規上場)を目指しています。投資ファンドとしては、企業価値を高めて株式上場することで投資リターンを得るのが基本戦略です。

そのためには、2026年度からスタートする新中期経営計画で具体的な成果を示すことが求められます。店舗改装による売上増加、M&Aによる規模拡大、そして何より収益性の改善が鍵となります。長年赤字体質だったイトーヨーカ堂が黒字化できるかどうかが、再建成功の判断基準となるでしょう。

まとめ

イトーヨーカ堂は2025年9月にベインキャピタル傘下となり、新たな再建フェーズに入りました。数千億円規模の投資、食品スーパーへの業態転換、ヨークベニマルのノウハウ活用など、様々な施策が計画されています。

しかし、ロピアやオーケーといった低価格スーパーの勢いは衰える気配がありません。スーパー業界の競争環境は一段と厳しさを増しており、イトーヨーカ堂が往年の輝きを取り戻せるかどうかは予断を許しません。

消費者にとっては、競争激化によるサービス向上や価格低下が期待できる一方、地域によっては店舗撤退による買い物の不便さも生じています。今後のスーパー業界の動向から目が離せません。

参考資料:

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