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by nicoxz

日本国債利回り急上昇、財政懸念で30年ぶり高水準に

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はじめに

2026年1月20日、日本の債券市場で異例の事態が起きています。30年物国債の利回りが一時3.875%、40年物国債が4.215%といずれも過去最高を記録しました。10年物国債利回りも2.3%を超え、約27年ぶりの高水準に達しています。

この急激な金利上昇の背景には、2月8日に予定される衆議院選挙を前に、与野党が競うように消費税減税を公約に掲げていることへの市場の強い警戒感があります。一日で0.2%を超える利回りの上昇は極めて異例であり、市場関係者からは2022年に英国で発生した「トラス・ショック」との類似性を指摘する声も上がっています。

本記事では、今回の国債利回り急上昇の原因と背景、トラス・ショックとの比較、そして今後の見通しについて解説します。

国債利回り急上昇の現状と要因

過去最高を更新した超長期債利回り

1月20日の国内債券市場では、償還までの期間が長い超長期債を中心に大幅な売りが出ました。新発30年物国債の利回りは前日比0.265%上昇して3.875%に、40年物国債は0.275%上昇して4.215%に達し、いずれも過去最高を更新しています。

10年物国債利回りも前日比で約10ベーシスポイント上昇し、2.38%となりました。これは1999年以来、約27年ぶりの高水準です。20年物国債も約22ベーシスポイント上昇して3.47%となるなど、幅広い年限で金利が急騰しています。

財政拡大懸念が市場を揺るがす

今回の急激な金利上昇の最大の要因は、2月の衆院選を前にした与野党の財政政策への懸念です。高市早苗首相は食料品の消費税率をゼロにする方針を選挙公約に掲げる見込みで、野党各党も同様に消費税減税を主張しています。

立憲民主党は「来年4月より原則1年間食料品の消費税ゼロ」、国民民主党は「実質賃金が持続的にプラスになるまで消費税は一律5%」、日本維新の会は「食品の消費税を2年間ゼロ」をそれぞれ掲げています。公明党も食料品の消費税ゼロとインボイス廃止を訴えています。

財源なき減税への警戒

投資家が特に警戒しているのは、こうした減税の財源が明確でない点です。野村総合研究所の分析によると、食料品の消費税を2年間ゼロにする場合、各年約5兆円の財源が必要となりますが、その確保は極めて困難とされています。

結果として国債発行の増加が避けられないとの見方が広がり、財政悪化への懸念が国債売りにつながっています。日本の2026年度当初予算は過去最高の122.3兆円に達し、そのうち政府債務関連費用だけで31.3兆円、つまり歳出の約4分の1を占める状況です。

トラス・ショックとの類似性

2022年英国で何が起きたか

市場関係者が今回の状況を「トラス・ショックの様相」と表現する背景には、2022年9月に英国で発生した金融市場の混乱があります。

当時、リズ・トラス英首相は「成長計画2022」と呼ばれる大規模な減税政策を発表しました。所得税率の引き下げや法人税増税計画の中止などが盛り込まれましたが、財源の裏付けがなく、予算責任局(OBR)による検証も経ていませんでした。

発表直後から英国市場は大混乱に陥り、10年国債利回りは一時4.5%台まで急上昇、30年国債利回りは5%台に乗せて2002年以来の高水準となりました。ポンドは対ドルで過去最低の1.035ドルまで下落し、株価も急落する「トリプル安」となりました。

年金基金の危機と中銀の介入

トラス・ショックでは、債務連動型運用(LDI)戦略を採用していた英国の年金基金が深刻な流動性危機に陥りました。金利が急上昇したことで担保価値が下がり、追加証拠金の要求に対応できない年金基金が相次いで国債を売却し、それがさらなる金利上昇を招く悪循環が発生しました。

イングランド銀行は国債の緊急買い入れを発表し、トラス首相は財務相を更迭、減税政策の大半を撤回することで、約2週間で事態は収束に向かいました。しかしこの混乱は、財源なき財政拡大が市場からの急激な信認喪失を招く教訓として記憶されています。

日本との相違点と類似点

日本と英国では状況が異なる点もあります。日本国債の保有者は国内投資家が大半を占め、英国ほど海外投資家の影響を受けにくいとされてきました。また、日本銀行は依然として大量の国債を保有しており、必要に応じて市場安定化策を講じる余地があります。

一方で類似点も指摘されています。選挙を前にした財政拡大公約、財源の不明確さ、そして市場の急速な反応という点では、トラス・ショック発生時の英国と共通しています。特に日本の場合、債務残高がGDP比で約260%と主要国で最も高い水準にあり、財政への信認が揺らいだ場合の影響は甚大となる可能性があります。

超長期債市場の構造的問題

買い手不在の状況

今回の金利上昇には、構造的な需給要因も影響しています。従来、超長期債の主要な買い手であった生命保険会社は、2025年に施行された「経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR)」に向けた購入を既に終えており、積極的に超長期債を買う理由に乏しい状況です。

大手生保が2025年度末の40年債利回りを年3.1%前後と想定するなど、金利が高止まりするとの見方も広がっています。買い手が限られる中で売りが出ると、価格は大きく下落(利回りは上昇)しやすくなっています。

財務省の対応

こうした状況を受け、財務省は2026年度の国債発行計画において、30年債と40年債を中心に超長期ゾーンの発行額を減額するとの観測が広がっています。発行年限を短期化することで、超長期債の需給悪化を緩和する狙いがあるとみられます。

日銀の金融政策との関係

利上げ継続姿勢が金利上昇を後押し

日本銀行は2025年12月に政策金利を0.75%に引き上げ、1995年以来30年ぶりの高い水準としました。2026年1月22-23日に開催される金融政策決定会合でも、追加利上げに前向きな姿勢が維持されるとみられています。

12月会合の「主な意見」では、9人の政策委員のほぼ全員が追加利上げに前向きな発言をしており、反対意見はなかったとされています。植田総裁は中立金利について「推計値の下限にはまだ少し距離がある」と述べており、今後も段階的な利上げが続く可能性を示唆しています。

政府との軋轢

一方で、高市政権は利上げによる経済への悪影響を懸念しており、日銀との間には一定の緊張関係があります。政府が財政拡大を進める一方で日銀が金融引き締めを継続するという構図は、市場にとって不確実性を高める要因となっています。

今後の見通しと注意点

選挙結果が焦点に

今後の国債市場を占う上で最大の焦点は、2月8日の衆院選の結果です。与野党がどのような財政政策を実行に移すか、また減税を行う場合の財源をどう確保するかによって、市場の反応は大きく変わる可能性があります。

三菱UFJ銀行のアナリストは、「高市首相は金融市場の反応を考慮しているようであり、選挙の不確実性が薄れれば財政懸念も緩和する可能性がある」と指摘しています。一方で、財源なき減税が実行された場合、さらなる金利上昇を招くリスクがあります。

グローバルな影響

日本の国債市場の動揺は、日本国内にとどまらない影響を持つ可能性があります。日本の投資家は世界最大の米国債保有国であり、国内で高い利回りが得られるようになれば、海外資産を売却して国内に資金を戻す動きが加速する可能性があります。これは米国を含む他国の金利にも上昇圧力をかける要因となり得ます。

個人への影響

国債利回りの上昇は、住宅ローン金利の上昇を通じて家計にも影響を及ぼします。変動金利型住宅ローンの金利は短期金利に連動しますが、固定金利型は長期金利の影響を受けるため、既に上昇傾向にあります。今後住宅購入を検討している方は、金利動向に注意が必要です。

まとめ

日本の超長期国債利回りが過去最高を記録した背景には、衆院選を前にした与野党の財政拡大競争への市場の強い警戒感があります。財源の裏付けがない減税公約は、2022年の英国「トラス・ショック」を想起させ、投資家の国債売りにつながっています。

今後の焦点は、選挙後の財政政策の具体化と、日銀の金融政策の行方です。世界最大の政府債務残高を抱える日本にとって、財政への信認を維持しながら経済成長を実現するという課題は、一層の難しさを増しています。市場の動向を注視しつつ、冷静な判断が求められる局面といえます。

参考資料:

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