為替介入「なし」の裏側、レートチェックが円急騰を招いた背景
はじめに
財務省は2026年1月30日、2025年12月29日から2026年1月28日までの期間に政府・日銀による為替介入はなかったと発表しました。しかし、この期間中の1月23日以降、対ドルの円相場は数回にわたって急騰しています。
介入がなかったにもかかわらず円が急上昇した背景には、「レートチェック」と呼ばれる当局の動きがあったとみられています。この記事では、レートチェックの仕組みと、1月の円急騰の背景を解説します。
1月23日の円急騰の経緯
日銀総裁会見後の急変動
1月23日、日銀の植田和男総裁が記者会見で利上げに慎重な姿勢を示したとの受け止めが広がり、円相場は一時1ドル=159円台まで円安が進行しました。ところがその直後、わずか10分ほどの間に157円台前半まで約2円の急激な円高が進みました。
市場では即座に「レートチェック」の観測が浮上しました。当局が主要銀行に為替レートの提示を求めたのではないかという見方です。
ニューヨーク市場でも異変
円高の動きは日本時間だけにとどまりませんでした。米東部時間の同日午前11時30分ごろ(日本時間24日午前1時30分ごろ)、ニューヨーク連銀がレートチェックを実施しているとの情報が市場を駆け巡り、ドル円は一時155円台後半まで急落しました。
結果として、1月23日の高値159円台から1月27日には152円台まで、約7円もの円高が進む展開となっています。
レートチェックとは何か
介入の「前段階」としてのシグナル
レートチェックとは、通貨当局が主要な金融機関に対して為替レートの提示を求める行為です。実際の外貨の売買(実弾介入)は行われませんが、当局が為替水準に関心を持っていることを市場に伝えるシグナルとして機能します。
レートチェックが確認されると、市場参加者は「次は実弾介入が来るかもしれない」と警戒し、自発的にポジションを調整します。今回の円急騰も、こうした市場心理の変化が主因と考えられています。
財務省の沈黙が示すもの
片山財務相はレートチェックの有無について回答を避け、三村財務官も「答えるつもりはない」と述べています。当局がレートチェックの実施を公式に認めることはまずありません。曖昧さを保つことで、市場への抑止効果を維持する狙いがあります。
日米連携の新たな形
米国側も動いた異例の展開
今回の局面が過去のレートチェックと大きく異なるのは、日本側だけでなく米国側でも動きがあった点です。ニューヨーク連銀がレートチェックを実施したとの情報は、日米が連携して「160円に迫る過度な円安は容認しない」というメッセージを市場に送った形と解釈されています。
ベッセント米財務長官は為替について「日本の裁量に委ねる」との姿勢を示しており、本格的な協調介入に踏み込む可能性は低いとみられています。しかし、米側がレートチェックという形で間接的に協力した事実は、市場に大きなインパクトを与えました。
160円が防衛ラインか
今回の一連の動きから、日米当局が意識する円安の防衛ラインは1ドル=160円付近とみる市場関係者が多くなっています。2024年にも160円台を超えた局面で実弾介入が行われた前例があり、160円は心理的にも実務的にも重要な水準です。
注意点・展望
日銀の利上げ観測にも注目
円安けん制の手段は為替介入やレートチェックだけではありません。日銀が追加利上げに踏み切れば、日米金利差の縮小を通じて円高方向への圧力がかかります。市場ではすでに2026年4月の利上げの可能性を7割近く織り込んでおり、日銀の金融政策の動向も為替の重要な変動要因です。
実弾介入の可能性は残る
今回は介入なしという結果でしたが、再び159〜160円台に円安が進行した場合、レートチェックを経て実弾介入に踏み切る可能性は十分にあります。財務省は介入の有無を事前に明言しない方針を一貫して取っており、市場参加者は常に警戒を怠れない状況が続きます。
まとめ
財務省が「介入なし」と公表した一方で、1月23日以降の円急騰はレートチェックによるものとの見方が有力です。日米両国の当局が連携して円安をけん制した可能性があり、160円付近が事実上の防衛ラインとして意識されています。
今後の為替動向は、日銀の追加利上げの時期や米国の金融政策の方向性に大きく左右されます。為替市場に関心のある方は、財務省の月次介入実績の発表や日銀会合の結果に注目することをお勧めします。
参考資料:
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