日米連携レートチェック、市場に衝撃 協調介入への高い壁
はじめに
日米の金融当局が円安抑止に向けて連携に乗り出しました。起点となったのは、米連邦準備制度理事会(FRB)傘下のニューヨーク連銀による異例の「レートチェック」観測です。
1月26日も円買いはとまらず、対ドルで1ドル=153円台半ばまで上昇しました。財務省の三村淳財務官は「今後とも必要に応じて米当局と緊密に連携しながら適切に対応していきたい」と述べ、日米連携の姿勢を明確にしています。
しかし、円買い・ドル売りの協調介入にはハードルが高いとの声も根強くあります。本記事では、レートチェックの衝撃、協調介入の可能性と課題、そして今後の為替見通しについて詳しく解説します。
レートチェックの衝撃
日米同時のレートチェック観測
2026年1月23日、日本の通貨当局による「レートチェック」との報道を受け、米ドル円は159円台から一時157円台へ急落しました。日銀・植田和男総裁の記者会見終了後、わずか10分間で2円もの円高が進行したのです。
さらに衝撃だったのは、ニューヨーク時間に入ってからの動きです。米東部時間1月23日午前11時30分頃(日本時間24日午前1時30分)、ニューヨーク連銀がレートチェックを実施しているとの情報が市場で広がると、ドル売り・円買いの動きが加速し、1ドル=155円台後半まで円高が進みました。
意表をつかれた市場参加者
市場参加者にとって、米国側からのレートチェック観測は意表をつくものでした。2022年と2024年の為替介入は日本当局の単独行動でしたが、今回は米国当局も協調しているとの憶測が浮上したからです。
ドル円は1日としては約6カ月ぶりの大幅下落を記録。投機筋は円売りポジションの解消を急ぎ、為替市場は大きく揺れ動きました。
三村財務官の発言
三村淳財務官は1月26日、記者団の取材に「今後とも必要に応じて米当局と緊密に連携しながら適切に対応していきたい」と述べました。この発言は、日米連携の姿勢を市場にアピールするものと受け止められています。
また、三村財務官は2025年入り後の円安について「日米金利差に逆行して進んでいる」と指摘。これを「ファンダメンタルズで説明できない投機的な動き」と見なし、介入の正当性を主張する姿勢を示しています。
協調介入への高い壁
1998年以来の協調介入となるか
日米協調でのドル売り・円買い介入が実現したのは1998年6月のことです。当時は大手金融機関の経営破綻が相次ぎ、日本の経済危機への懸念が広がる中、「最後の切り札」として発動されました。
約28年ぶりとなる協調介入が実現するかどうかは、両国の利害が一致するかどうかにかかっています。
日米の利害は一致するか
日本にとって、過度な円安は輸入物価の上昇を通じてインフレ圧力を高め、家計を圧迫します。一方、米国にとってのメリットは、金融市場の安定維持という観点が主です。
ベッセント財務長官は日本の為替介入に一定の理解を示しつつも、円安是正には日本銀行の金融政策正常化の継続がより重要だとみている可能性があります。つまり、米国は介入よりも日銀の利上げによる円高を期待している節があります。
トランプ政権の為替スタンス
トランプ大統領は長年にわたって対日貿易赤字を問題視し、日本の円安誘導にその原因があると批判してきました。第2次トランプ政権の財務長官となったベッセント氏は、ウォール街出身の元ヘッジファンド・マネジャーで、経済成長重視の政策運営はアベノミクスの影響も受けているとされます。
円安相場に厳しい姿勢をみせれば円は急騰しかねないと市場関係者は注視していましたが、一方で、米国が自らドル安政策を推進するかどうかは別問題です。ドル安は米国のインフレ圧力を高める要因にもなり得るためです。
介入の実効性と課題
過去の介入効果
過去の為替介入時の値動きを分析すると、介入初日の値幅(高値-安値)は平均で5円30銭、終値では高値から平均で3円64銭の円高・ドル安となっています。
1月23日も終値が高値対比で3円53銭の円高となり、おおむね過去の介入時の動きに近い結果でした。ただし、これが実際の介入だったのか、それともレートチェックのみだったのかは現時点では不明です。
介入効果の持続性
介入効果が持続するかどうかは、日米の経済指標や金融政策などファンダメンタルズの変化に依存します。仮に協調介入が実現しても、日米金利差という根本的な要因が変わらなければ、効果は一時的なものにとどまる可能性があります。
IMFの最新見通しによると、アメリカ経済の粘り強さから2026年もFRBが大幅な利下げを急ぐ必要がないことを示唆しており、日米金利差が大きく縮まるシナリオは描きにくい状況です。
159円ラインの攻防
市場関係者の分析では、159円台では実弾介入への警戒が必要とされています。当面は介入警戒から米ドル円相場が上値を試す動きは沈静化する公算が大きいとみられていますが、追加の介入がなければ157〜158円台への戻りも想定されます。
注意点・展望
日銀の金融政策が鍵
長期的な円相場の方向性を決めるのは、日銀の金融政策です。植田総裁の会見が「追加利上げに慎重」と受け止められたことが、1月23日の円安進行のきっかけとなりました。
今後の日銀金融政策決定会合で追加利上げが示唆されれば、介入に頼らずとも円高基調が強まる可能性があります。ベッセント財務長官も、この点を重視しているとみられます。
市場参加者へのメッセージ
日米連携でのレートチェック観測は、投機筋に対する強いメッセージとなりました。協調介入が実現するかどうかは別として、「日米両当局が為替市場を注視している」という認識が市場に浸透したことは、過度な円安に対する抑止力として機能する可能性があります。
まとめ
日米連携でのレートチェック観測は、為替市場に大きな衝撃を与えました。1998年以来となる協調介入が実現するかどうかは不透明ですが、日米両当局が為替市場の安定に向けて連携する姿勢を示したことは重要です。
協調介入には高いハードルがありますが、投機的な円売りに対する抑止力としては一定の効果があるとみられます。今後は日銀の金融政策の方向性も含め、為替市場の動向を注視する必要があります。
参考資料:
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