日伊首脳が「不公正な経済慣行に対抗」で連携を宣言
はじめに
2026年1月16日、高市早苗首相はイタリアのメローニ首相と東京で首脳会談を行います。会談を前に、両首相は日本経済新聞に共同寄稿を発表し、「不公正な経済慣行に対抗」する姿勢を明確にしました。
2026年は日伊外交関係樹立160周年の節目の年です。1866年に修好通商条約を締結して以来、両国は経済、文化、安全保障の分野で協力関係を築いてきました。特に近年は、中国の台頭と不透明な経済政策を背景に、G7の同志国としての連携がより重要性を増しています。本記事では、日伊首脳会談の意義と両国協力の展望について解説します。
日伊外交関係160年の歩み
1866年の修好通商条約
日本とイタリアの外交関係は、1866年8月25日に締結された日伊修好通商条約から始まります。当時、イタリアは1861年に統一を果たしたばかりの新興国家でした。
両国の国交樹立には、経済的な理由が大きく関わっていました。19世紀前半、欧州では蚕の伝染病(微粒子病)が蔓延し、養蚕業が主要産業の一つだったイタリアは大きな打撃を受けました。イタリアの業者は日本の蚕卵市場に目を向け、1863年頃から蚕種仕入人が来日するようになります。
国交開始後、日本の輸出品の主力の一つが蚕種となり、総輸出量の4分の3がイタリアに売却されていました。日本にとってもイタリアは重要な貿易相手国となり、江戸時代末期から明治時代初期にかけて、イタリアは日本の輸出先の2割に達する年もありました。
共通の歴史的経験
両国民の相互理解は、貿易上の理由に加え、歴史的な共通体験にも基づいていました。イタリア統一運動(リソルジメント)は、日本人の目には、ほぼ同時期に起こった江戸幕府の終焉と明治維新(1868年)につながる歴史的出来事と似通って見えたのです。
1873年には岩倉使節団がイタリアのフィレンツェ、ローマ、ヴェネツィアを歴訪し、両国の交流は深まっていきました。
メローニ首相の来日と首脳会談
会談の概要
イタリアのジョルジャ・メローニ首相は2026年1月15日〜17日の日程で実務訪問賓客として来日しています。メローニ首相の来日は2024年2月以来、約2年ぶりとなります。
16日に予定されている首脳会談では、経済や安全保障などの分野について議論し、2国間の関係強化に向けた共同声明をまとめる見通しです。高市首相は「自由と民主主義の価値観を共有する国同士として信頼関係を深めたい」と意気込みを語っています。
両首相の共通点
高市首相とメローニ首相には多くの共通点があります。男性中心の政治の世界で女性保守派としてイメージを確立したこと、世襲ではなくたたき上げの政治家であること、家族を重視する伝統的価値観を持つことなどが挙げられます。
2025年11月の南アフリカ・ヨハネスブルクでのG20サミットでは、両首相は笑顔で抱き合い、初対面を果たしました。その後の電話会談では、G7の結束強化や「自由で開かれた安定的な国際秩序に向け同志国で連携を深める必要性」を確認しています。
「不公正な経済慣行に対抗」の意味
中国を念頭に置いた連携
両首相の共同寄稿で言及された「不公正な経済慣行」は、主に中国を念頭に置いたものと考えられます。G7諸国は近年、中国の不透明な補助金政策、過剰生産、輸出管理強化などに対する懸念を共有しています。
2025年のG7首脳声明では、「有害な過剰生産につながっている中国の特定産業の重点化や非市場的な政策に対して懸念を表明する」と明記され、中国を名指しで批判しました。
イタリアの「一帯一路」離脱
メローニ政権下のイタリアは、対中政策で大きな転換を遂げています。2019年に当時のコンテ政権が中国の「一帯一路」構想に参加しましたが、G7加盟国としては異例の決断でした。
しかし、期待された経済効果は得られませんでした。タヤーニ副首相兼外相は「貿易や投資の点で満足できる成果はない」と指摘し、イタリア産業総連盟も「参画していない国の方が利益を得ている」と評価しました。
2023年12月、メローニ政権は「一帯一路」からの離脱を中国に通知しました。メローニ首相は習近平国家主席との会談で、著しい貿易不均衡を念頭に「できるだけ均衡のとれた貿易関係を構築すべき」と主張しています。
経済的威圧への対抗
G7は、特定国に対する経済依存を脱却し、サプライチェーンのリスク分散を図る方針を共有しています。2025年5月のG7財務相・中央銀行総裁会議では、「非市場的な政策および慣行」が世界の経済安全保障を損なうことへの共通理解と、「公平な競争条件の重要性」が確認されました。
特に重要鉱物分野では、レアアースの中国依存度を下げるため、調達先の分散化に向けた工程表の策定が進められています。日本とイタリアは、G7の一員としてこうした取り組みに積極的に参画しています。
先端分野での産業連携
半導体・AI分野
高市首相は経済安全保障を政策の柱に据えており、半導体、AI、サイバーセキュリティなどを重点分野として位置付けています。所信表明演説では、「AI・半導体産業基盤フレーム」による10兆円以上の公的支援を通じて、50兆円を超える官民投資を促す構想を示しました。
日本とイタリアは、G7の枠組みの中で半導体サプライチェーンの強靭化に取り組んでおり、両国の連携はさらに深まる見通しです。
次期戦闘機開発「GCAP」
安全保障分野での目玉は、日本、イタリア、英国の3カ国で進める次期戦闘機開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」です。この計画は、2035年の配備を目指して第6世代戦闘機を共同開発するもので、日本にとっては初めての本格的な国際共同開発となります。
メローニ首相の来日では、GCAPの進捗状況や今後の協力体制についても議論される見込みです。
宇宙・サイバー分野
高市首相は宇宙やサイバーセキュリティ分野も重視しています。両国はG7の枠組みでサイバーセキュリティ協力を進めており、今後、二国間でも連携が強化される可能性があります。
今後の展望
G7における日伊協調
2026年のG7サミットは、G7議長国として様々な課題に取り組むことが求められます。日本とイタリアは、経済安全保障、気候変動、デジタル分野など多くの課題で協調する立場にあります。
特に、中国の不公正な経済慣行への対応、重要鉱物のサプライチェーン強靭化、AIガバナンスなどの分野で、両国の協力が期待されます。
人的交流の拡大
外交関係樹立160周年を迎え、経済・安全保障面での協力に加え、文化・人的交流の拡大も期待されます。日本とイタリアはともに豊かな文化遺産を持ち、食やファッションなどの分野でも相互に影響を与え合ってきました。
両国の関係は、政府間だけでなく、企業、研究機関、市民レベルでも深まりつつあります。
まとめ
高市首相とメローニ首相の共同寄稿は、日伊両国が「不公正な経済慣行に対抗」するため連携を深める意志を明確にしたものです。1866年の外交関係樹立から160年、両国は経済安全保障と先端産業分野での協力を新たな段階に引き上げようとしています。
中国の台頭と国際秩序の変化の中で、G7の同志国としての日伊連携はこれまで以上に重要性を増しています。次期戦闘機開発、半導体サプライチェーン、重要鉱物の安定調達など、具体的な協力案件が進展する中で、両国関係は「さらなる高みに」向かっていくことが期待されます。
参考資料:
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