G7がレアアース脱中国を加速、最低価格制度で供給網再構築へ

by nicoxz

はじめに

2026年1月12日、主要7カ国(G7)と資源国の財務相がワシントンで閣僚級協議を開き、レアアース(希土類)など重要鉱物の中国依存からの脱却を加速させることで一致しました。

この会合は、中国が世界のレアアース精錬の約9割を支配し、供給リスクが顕在化する中で開催されました。最低価格制度の導入や中国を経由しない新たな市場の構築など、これまでにない踏み込んだ対策が議論されています。

本記事では、G7の重要鉱物戦略と日本への影響について解説します。

G7ワシントン会合の概要

参加国と会合の位置づけ

今回の会合は米国財務省が主催し、スコット・ベッセント財務長官が議長を務めました。G7各国(米国、日本、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)の財務相に加え、オーストラリア、メキシコ、韓国、インドの当局者も参加しました。

日本からは片山さつき財務相が出席し、日本の経験と取り組みを共有しました。参加国とEUを合わせると、世界の重要鉱物需要の約6割を占めることになります。

中国依存の現状

国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、中国は銅、リチウム、コバルト、グラファイト、レアアースの精錬において47%から87%のシェアを占めています。特にレアアースについては、採掘生産の7割、精錬の9割が中国に集中しています。

レアアースはスマートフォン、パソコン、電気自動車(EV)用モーター、風力発電タービンなど、先端技術製品に不可欠な素材です。この供給が一国に集中している状況は、G7各国にとって深刻な安全保障上のリスクとなっています。

最低価格制度の仕組み

なぜ最低価格が必要か

会合で中心的に議論されたのが、レアアースに対する「最低価格制度」の導入です。この制度が検討される背景には、中国産レアアースの圧倒的な価格競争力があります。

価格が下がりすぎる局面では、中国以外での鉱山開発や精製設備への投資が採算割れを起こし、結果として中国依存が固定化してしまいます。最低価格制度は、この「投資が立ちにくい谷」を埋める狙いがあります。

差額契約による価格保証

検討されている仕組みは、再生可能エネルギー市場で使われている「差額契約(Contracts for Difference)」モデルに類似しています。政府または仲介機関が参照価格を設定し、市場価格がそれを下回った場合は生産者に差額を補填します。逆に市場価格が参照価格を上回った場合は、生産者が差額を返還します。

この仕組みにより、生産者は価格変動リスクを軽減でき、長期的な投資計画を立てやすくなります。ドイツのラルス・クリングバイル財務相は、議論が始まったばかりで未解決の課題が多いと述べつつも、最低価格制度とパートナーシップ強化が協議の中心だったことを明らかにしました。

中国を締め出す「新市場」構想

高い環境・労働基準による差別化

G7は最低価格制度に加え、中国産を事実上締め出す「新市場」の構築も検討しています。鉱物の採掘や加工現場は環境負荷や労働者への負担が大きくなりやすいため、これらの面で中国を上回る厳格な基準を設定し、基準を満たした鉱物のみを流通させる市場を作る構想です。

この「基準に基づく市場」は、人権配慮や環境保護を重視するG7の価値観を反映したものであり、単なる経済的な脱中国にとどまらない戦略的意図があります。

共同備蓄と投資審査

会合では他にも、参加国による共同備蓄の創設や、中国企業による鉱山権益取得に対する投資審査の強化も議題に上りました。これらは2025年のG7カナナスキス・サミットで立ち上げられた「重要鉱物行動計画」を発展させるものです。

2025年のサミットでは、カナダ主導の同盟を通じて26のプロジェクトに64億ドル以上の投資を動員することで合意していました。

日本の立場と取り組み

2010年の教訓を共有

片山財務相は会合で、日本の経験を各国と共有しました。2010年の尖閣諸島沖での漁船衝突事件以降、中国がレアアースの対日輸出を事実上停止した事例を紹介し、その後の対策について説明しました。

日本は調達先の多様化や代替素材の開発を進め、中国への依存度を90%から60%近くまで引き下げることに成功しています。この経験は他のG7諸国にとって重要な参考事例となっています。

直面する新たな課題

しかし、日本は再び厳しい状況に直面しています。2026年1月6日、中国商務部は軍民両用品目の対日輸出を即日禁止する措置を発表しました。この措置は、高市早苗首相による台湾有事への関与を示唆する発言に対する報復とみられています。

野村総合研究所の試算によれば、レアアース輸入の3カ月間停止による経済損失は約6,600億円、1年間では2.6兆円に達するとされています。

日本企業の対応

日本企業も中国依存軽減に向けて動いています。JX金属や大手商社は中国以外からの調達ルート確保を進め、プロテリアル(旧日立金属)などはレアアースを使わない代替技術の開発に注力しています。

また、南鳥島EEZ海底には国内需要の数百年分に相当するレアアースが埋蔵されており、1月11日からは探査船「ちきゅう」による深海レアアース泥の試掘も開始されています。

注意点と今後の展望

即座の解決は困難

専門家や当局者は、今回の会合で即座に包括的な合意が成立することへの期待は控えめであると指摘しています。重要なのは、価格支援メカニズムの協調枠組み、共同融資手段、能力開発のロードマップといった基盤を構築することです。

クリングバイル独財務相は、レアアースと重要鉱物の供給問題が2026年のフランスG7議長国体制でも中心的なテーマになると述べています。

中国との技術競争

中国依存からの脱却には、単なる供給先の多様化だけでなく、精錬・加工技術の獲得も不可欠です。現状では、採掘地がどこであっても、中間加工段階で中国を経由せざるを得ない構造が最大の脆弱性となっています。

この技術格差を埋めるには、G7各国による長期的な投資と技術開発が必要です。

日本の対抗カード

一方で、日本にも強力な交渉カードがあります。日本は世界シェアの約90%を握る先端半導体用フォトレジスト(感光材)や、半導体製造装置など、中国のハイテク発展に不可欠な技術を保有しています。これらの輸出管理は、日本側の重要な対抗手段となり得ます。

まとめ

G7と資源国による今回のワシントン会合は、レアアースを巡る国際協調の新たな一歩となりました。最低価格制度や新市場構想など、これまでにない踏み込んだ対策が議論されたことは、各国の危機感の表れです。

しかし、中国の圧倒的な市場支配を短期間で覆すことは困難であり、長期的な視点での取り組みが求められます。日本は過去の経験を活かしつつ、G7との連携を深め、サプライチェーンの強靭化を進める必要があります。

企業や投資家にとっては、レアアース調達リスクへの備えと、代替技術への投資機会の両面で注視すべきテーマとなっています。

参考資料:

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