「日本売り」が加速、長期金利は27年ぶり高水準へ
はじめに
2026年1月、日本の金融市場に激震が走った。2月8日の衆議院議員選挙を前に、与野党が相次いで消費税減税を公約に掲げたことをきっかけに、日本国債と円が同時に売られる「日本売り」が加速。10年物国債利回りは一時2.38%まで上昇し、1999年以来約27年ぶりの高水準を記録した。40年物国債の利回りは4%を突破し、2007年の発行開始以来の最高値を更新。超長期債の一部は額面の50%を割り込むなど、債券市場は危機的状況に陥っている。
財政健全化への懸念が高まる中、かつて財務省が保有していた予算上の「へそくり」(隠れ余力)も消失。長期金利が2.44%を超えれば、国債費が税収を圧迫し、財政運営が一層困難になるという重要な閾値が目前に迫っている。高市早苗首相率いる政権は、この「日本売り」に対する処方箋の提示を迫られている。
衆院選公約が引き金となった市場の動揺
2026年1月、高市首相が2月8日の衆議院解散・総選挙を発表した際、自民党は食料品に対する消費税8%の2年間免除を公約として掲げた。これに対し、野党の「中道刷新会」は食料品の消費税恒久ゼロを主張するなど、与野党が消費税減税で競い合う構図が鮮明となった。
消費税収は年間約5兆円規模であり、仮に2年間の食料品減税を実施すれば、数兆円規模の税収減が見込まれる。さらに高市政権は約21.5兆円(約1,150億ユーロ)規模の経済対策を発表しており、2026年度予算は120兆円を超える見通しだ。日本の政府債務残高は対GDP比で約240%と先進国で最悪の水準にある中、財源の裏付けなき減税政策は市場に強い警戒感を与えた。
債券市場の反応は迅速だった。1月19日には10年物国債利回りが2.275%まで上昇し、翌20日には2.38%に達した。20年物国債利回りは3.35%から3.47%へ、30年物は3.585%へと跳ね上がった。最も衝撃的だったのは40年物国債で、利回りが4%を突破し、発行開始以来の最高値を更新。これは30年以上ぶりに全ての満期でこの水準に達した出来事となった。
アルジャジーラの報道によれば、この債券急落は「日本発の世界的金融危機」への懸念を呼び起こし、国際的な注目を集めている。日本は米国債の最大保有国であり、2025年11月時点で約1.2兆ドルの米国債を保有している。日本の債券市場の混乱が、グローバル市場に波及するリスクも指摘されている。
消失した財政余力と2.44%の臨界点
財務省がかつて保有していた予算上の「へそくり」、すなわち不測の事態に備えた財政余力は、長年の財政出動により既に底をついている。プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標は達成の見通しが立たず、消費税減税が実現すれば、財政健全化への道筋はさらに遠のくことになる。
市場が特に注視しているのが、長期金利の2.44%という水準だ。この閾値を超えると、国債の利払い費が急増し、税収を圧迫して財政運営の自由度が大幅に低下する。2026年1月末時点で10年物国債利回りは2.24%から2.27%で推移しており、2.44%のラインまで余裕はわずか0.2ポイント程度しかない。
日本銀行は2025年12月に政策金利を0.75%へと引き上げ、30年ぶりの高水準とした。しかし、急速な円安進行により、さらなる利上げ加速観測が浮上している。1月時点で円は1ドル=160円近辺まで下落しており、輸入物価の上昇を通じてインフレ圧力が高まっている。
日銀の金融政策正常化と財政拡張のミスマッチが、市場に混乱を招いている。日銀が国債購入を削減する中、2026年度の国債の市中純発行額は約65兆円と、前年度比8%増加し、10年以上ぶりの高水準となる見込みだ。需給の悪化が利回り上昇に拍車をかけている。
第一生命経済研究所の試算によれば、食料品の消費税率をゼロにした場合、実質GDP押し上げ効果は0.22%程度に留まる一方、財政への打撃は甚大だ。さらに、海外格付け機関による日本国債の格下げリスクも高まっている。モーニングスターのアナリストは「今後の財政制約リスクを懸念する」としながらも、「株式市場への影響は限定的」との見方を示している。
注意点と今後の展望
高市政権は「責任ある積極財政」を掲げているが、市場はその実効性に疑問を呈している。選挙公約の消費税減税が実現すれば、さらなる財政悪化と国債利回り上昇、円安の悪循環に陥る可能性がある。
ただし、一部のエコノミストは過度な悲観論を戒めている。キャピタル・エコノミクスは「英国のトラス政権との比較は不適切」とし、「日本国債利回りの上昇は金融政策正常化という新たな局面を反映したもので、財政破綻を意味しない」と指摘する。日本は経常収支黒字国であり、国内貯蓄で国債を消化できる構造は維持されているためだ。
それでも、市場との対話不足は深刻だ。高市政権は選挙戦を優先し、財政健全化への具体的なロードマップを示していない。野党も消費税減税で対抗するばかりで、財源確保策は曖昧だ。東京新聞の社説は「消費税減税・廃止の財源確保も見極めたい」と訴えており、有権者は政策の実現可能性を冷静に判断する必要がある。
2月8日の衆院選の結果次第では、政治的混乱がさらなる市場の動揺を招く可能性もある。日銀の追加利上げタイミングも焦点となる。1月23日の金融政策決定会合では現状維持が決定されたが、市場は次回3月の会合での利上げ可能性を織り込み始めている。
まとめ
2026年初頭の「日本売り」は、長年の財政拡張と人口減少による構造的課題が、選挙を契機に一気に表面化した現象といえる。10年物国債利回りが27年ぶりの高水準に達し、財政余力が失われた今、政治指導者には短期的な人気取り政策ではなく、中長期的な財政健全化への真摯な取り組みが求められている。
2.44%という長期金利の臨界点が目前に迫る中、市場との建設的な対話を通じて、持続可能な財政運営への道筋を示すことが急務だ。与野党は選挙戦においても、財源の裏付けある政策論争を展開し、有権者の信頼を回復する必要がある。日本経済の信認が問われる重要な局面を迎えている。
参考資料
- 日本の財政破綻、国債急落、円安…衆院選公約で浮上したおなじみの「日本売り」悲観論を正す
- 長期金利急騰、一時2.380% 「消費減税ショック」、27年ぶり水準
- Japan’s 40-year bond yield hits 4% record on fiscal jitters following election call
- Why Japan’s economic plans are sending jitters through global markets
- Japanese Bond Selloff: We See Risk of Future Fiscal Constraint but Limited Impact on Equities
- Ignore the ‘Truss’ comparisons – rising JGB yields reflect Japan’s new normal
- 消費減税、与野党が照準 財源焦点に
- 衆議院選挙で問われる経済政策の中身
- 消費税減税の是非論 ~財源に大穴が開いて大丈夫か?~
- 高市政権が食料品の消費税率ゼロを選挙公約に掲げる方針
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