衆院選で減税競争が過熱、市場の警鐘は届くか
はじめに
2026年1月27日、第51回衆議院議員総選挙が公示されます。前日の26日には日本記者クラブ主催の党首討論会が開かれ、与野党7党首が激しい論戦を繰り広げました。
討論の中心は消費税減税でした。物価高に苦しむ国民の声を受け、与野党とも減税を競い合う展開となっています。しかし、その裏で長期金利は27年ぶりの高水準に上昇し、市場は財政拡張への警鐘を鳴らしています。
この記事では、党首討論の内容、各党の減税公約、そして市場が発するシグナルの意味について解説します。
党首討論会の概要
参加した7党首
1月26日の党首討論会には、自民党の高市早苗首相、日本維新の会の藤田文武共同代表、中道改革連合の野田佳彦共同代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の田村智子委員長、参政党の神谷宗幣代表、れいわ新選組の大石晃子共同代表が参加しました。
物価高を踏まえた消費税減税の対象や期間、財源の在り方が論戦の中心となりました。
高市首相の発言
高市首相は、飲食料品を2年間に限り消費税の対象外とすることについて、2026年度内の実現を目指す考えを表明しました。首相は1月19日の記者会見で「飲食料品は2年間に限り消費税の対象としないこと。これは私自身の悲願でもあった」と述べています。
また、与党で過半数を目標にすることを重ねて表明し、下回った場合は「即刻退陣する」と明言しました。
自民党内からの反発
高市首相の消費税ゼロ発言は波紋を広げています。自民と日本維新の会の連立合意を踏み越えかねない内容に、自民党内からいら立ちの声が漏れています。財源や実施スケジュールが明確でないまま踏み込んだ発言をしたことへの懸念が広がっています。
各党の消費税減税公約
与党側の主張
自民党は公約で飲食料品について「2年間に限り消費税の対象としないことについて、実現に向けた検討を加速する」と明記しました。財源やスケジュールは与野党で設置する「国民会議」で検討するとしています。
日本維新の会も「食料品の消費税2年間ゼロ」を掲げ、高市首相の方針と歩調を合わせています。副首都構想や現役世代の社会保険料引き下げなど、連立で合意した「12本の矢」を掲げて信を問うとしています。
野党側の主張
中道改革連合は「恒久的に食料品の消費税ゼロ」を掲げ、新しい財源をつくり今年秋から実施するとしています。2年限定の自民党案より踏み込んだ内容です。
国民民主党は、賃金上昇率が物価プラス2%に安定するまで「時限的に一律5%に引き下げ」を主張しています。食料品だけでなく全品目を対象としています。
共産党は「消費税廃止を目指してただちに5%へ」と主張。緊急で一律5%に引き下げ、その後廃止を目指す方針です。
れいわ新選組は消費税を速やかに廃止する方針、参政党は段階的廃止を掲げています。
減税競争の構図
与野党とも減税を競い合う構図となっており、財源論が乏しいまま「減税前のめり」の状態が続いています。専門家からは、消費税を下げても社会保障の赤字を埋めるために社会保険料が上がれば、現役世代の暮らしは楽にならないとの指摘もあります。
市場が発する警鐘
長期金利27年ぶり高水準
党首討論で減税論争が白熱する一方、金融市場は財政拡張への懸念を強めています。1月19日、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時2.275%まで上昇し、1999年2月以来27年ぶりの高水準をつけました。
特に超長期国債の金利上昇が顕著で、30年国債利回りは1999年の発行開始以来最高水準となる3.87%に達しました。1月20日には超長期金利が4%に上昇するなど、金利上昇が加速しています。
金利上昇の背景
金利上昇の主な要因は2つあります。
1つ目は、日銀が利上げや国債買入れの減額といった金融政策の正常化を進めていることです。日銀は2025年に2回の利上げを行い、短期金利は0.75%と1995年9月以来の高水準にあります。
2つ目は、日本の財政拡張に対する警戒感の高まりです。与野党各党が消費税減税を訴える中、選挙結果にかかわらず財政支出が拡大するとの懸念が市場で広がっています。
高市政権と日銀の軋轢
高市政権は利上げによる経済への悪影響を懸念しており、日銀の利上げに慎重な姿勢を示しています。一方、日銀の政策委員はほぼ追加利上げに前向きな姿勢に傾いており、政府と日銀の軋轢が続くことが予想されます。
日銀内からは「長期金利の水準と変動はリスクプレミアム要因も相応にあるとみている。グローバルにも財政やインフレが意識されており、丁寧にみていきたい」との意見が出ており、政府の積極財政が長期金利上昇の一因であることを示唆しています。
トラス・ショックの教訓
英国で起きた財政危機
市場の警鐘を軽視した場合、何が起きるのでしょうか。2022年にイギリスで起きた「トラス・ショック」が参考になります。
トラス首相(当時)は財源を明確に示さないまま、所得税引き下げや法人税増税の撤回など大規模な恒久減税策を発表しました。市場はこれを財政悪化のリスクと受け止め、ポンドは急落、10年債金利は14年ぶりに4.5%まで上昇し、株価も大幅に下落するトリプル安となりました。
危機の背景
危機の背景には、減税策の財源が不透明だったこと、独立機関による財政検証を省略したこと、そして中央銀行がインフレ抑制のために金融引き締めを進める中で政府が逆方向の財政拡張策を取ったことがありました。
イングランド銀行は国債の4割近くを保有する最大の買い手でしたが、量的引き締めを開始するタイミングで政府が財政拡張に舵を切ったため、国債需給の急激な悪化が意識されました。
日本への示唆
トラス・ショックは先進国であっても財政拡張策には限度があることを示しました。日本も「人気取り」を優先して財政規律の緩みが限度を超えると、市場の反乱を誘発するリスクがあります。
現在の日本は、日銀が金融引き締め方向にある中で与野党が減税を競い合うという、トラス・ショック前夜の英国と類似した状況にあるとの指摘があります。
注意点・今後の展望
選挙後の財政運営が焦点
2月8日の投開票後、どの政権が誕生しても財政規律と減税公約の両立という難題に直面します。高市首相は与党過半数割れで退陣を表明していますが、過半数を維持しても減税の財源確保は容易ではありません。
与野党で設置する「国民会議」での議論の行方が注目されますが、具体的な財源論を欠いたまま減税を実施すれば、市場の信認を損なうリスクがあります。
金利上昇の経済への影響
長期金利の上昇は住宅ローン金利の上昇を通じて家計を圧迫し、企業の設備投資にも影響を与えます。減税で家計を助けようとしても、金利上昇で相殺されてしまう可能性があります。
財政政策と金融政策の整合性をどう取るかが、次期政権の重要課題となります。
まとめ
2026年衆院選を前に、与野党は減税を競い合っています。高市首相は飲食料品の2年間消費税ゼロを掲げ、野党も恒久減税や5%への引き下げを主張しています。
一方、長期金利は27年ぶりの高水準に上昇し、市場は財政拡張への警鐘を鳴らしています。トラス・ショックの教訓を踏まえれば、財源を明確にしない減税は市場の反乱を招くリスクがあります。
選挙戦では減税の是非だけでなく、持続可能な財源と財政規律についての議論が求められています。
参考資料:
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