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by nicoxz

製薬協とAMEDが連携強化、バイオ創薬の挽回へ官民が本腰

by nicoxz
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はじめに

日本の製薬業界が、創薬力の回復に向けて大きな一歩を踏み出しています。日本製薬工業協会(製薬協)と日本医療研究開発機構(AMED)が、創薬力強化に向けた連携を発表しました。

この動きの背景には、日本のバイオ医薬品分野における深刻な競争力低下があります。かつて創薬先進国として世界をリードしていた日本ですが、バイオ医薬品へのシフトが遅れ、海外で開発された新薬が日本に届かない「ドラッグロス」問題が顕在化しています。高市政権が創薬を重点投資分野に掲げる中、官民一体となった巻き返しが始まりました。

この記事では、製薬協とAMEDの連携がどのような意味を持ち、日本の創薬エコシステムにどんな変化をもたらすのかを詳しく解説します。

日本の創薬力低下の現状

バイオ医薬品シフトの遅れ

日本の製薬業界が直面している最大の課題は、従来の低分子医薬品からバイオ医薬品への転換の遅れです。世界の医薬品売上高上位100品目のうち、バイオ医薬品は45品目を占めています。このうち米国企業が開発した製品は19品目に上りますが、日本企業はわずか2品目にとどまっています。

創薬イノベーションの担い手も大きく変化しています。2015年から2021年の間に米国で承認された医薬品の約65%は、小規模なバイオテクノロジーベンチャー企業から生まれました。主要製薬会社のパイプラインの72%がライセンス供与や買収を通じて外部から調達されている現状があります。

ドラッグロス問題の深刻化

海外で開発された革新的な新薬が日本市場に投入されない「ドラッグロス」問題が深刻化しています。人口減少と薬価引き下げ圧力により、海外製薬企業にとって日本市場の優先度が低下していることが主な要因です。

特に問題なのは、希少がんや難病の治療薬です。先端バイオ技術を使った新薬が米欧で相次いで開発されているにもかかわらず、日本の患者がそれらにアクセスできない状況が続いています。

ベンチャーエコシステムの脆弱さ

日本のバイオベンチャーの創薬基盤も課題です。過去3年間、米国での年間取引数(未上場の新規バイオベンチャーの資金調達ラウンド登録数)は約2,200件、欧州では約1,000件に達しています。一方、人口が英国の2倍ある日本では、年間取引数がわずか100件未満と、顕著なイノベーションギャップが存在します。

AMEDの役割と製薬協との連携

医療研究開発の「司令塔」AMED

AMEDは2015年に設立された国立研究開発法人で、医療分野の研究開発における「司令塔」としての役割を担っています。設立以前は、医療分野の研究開発を文部科学省、厚生労働省、経済産業省がバラバラに支援しており、基礎研究から実用化までの一貫した体制が存在していませんでした。

設立から10年を迎えたAMEDは、厚生労働省による薬事承認につながった支援事例が少なくとも40件に上るなど、一定の成果を上げています。しかし、日本発の創薬力の下落傾向は止まっておらず、さらなるてこ入れが必要とされていました。

製薬協との連携強化の意義

今回発表された製薬協とAMEDの連携は、人材派遣にまで踏み込んだ本格的なものです。製薬協は武田薬品工業や第一三共などが加盟する業界団体であり、業界の知見と人材をAMEDに提供することで、研究成果の実用化を加速させる狙いがあります。

AMEDは既に「アカデミア医薬品シーズ開発推進会議(AMED-FLuX)」を設置し、製薬企業15社から35名のアドバイザーが参加して、研究開発課題に対する助言を行っています。今回の連携強化により、この取り組みがさらに拡大されることが期待されます。

高市政権の創薬振興策

17の戦略分野と創薬の位置づけ

2025年10月に就任した高市早苗首相は、所信表明演説で「強い経済の基盤となるのは、優れた科学技術力であり、イノベーションを興すことのできる人材」と明言しました。同年11月には日本成長戦略本部が設置され、17の戦略分野が公表されました。その中に「バイオ」「創薬」が明確に位置づけられています。

高市政権は、バイオテクノロジーを医薬品やワクチン開発だけでなく、再生医療、食料生産、環境保全、素材開発にまで応用が広がる分野として捉えています。「生命科学を軸にした新しい産業基盤」を育てることが、政府の戦略的な狙いです。

3300億円規模の政策パッケージ

2025年12月、小野田紀美・健康・医療戦略担当大臣は、日本を「創薬の地」とするための政策パッケージを発表しました。事業規模は約3300億円で、このうち政府からの直接支出は約1800億円に上ります。

具体的な施策としては、創薬基盤の整備、スタートアップ・実用化支援、国際競争力のある治験環境の整備、ドラッグロスの解消、感染症危機管理、データ利活用促進、サプライチェーン強靱化などが挙げられています。

バイオファウンドリ整備への投資

2026年度予算では、微生物を使って有用物質を生産する「バイオファウンドリ」の拠点を全国に整備する予算が具体化します。これは石油由来の製品をバイオ素材に置き換える「バイオものづくり」を推進するもので、かつての「半導体工場誘致」に匹敵するインパクトを地域経済に与えるものと期待されています。

注意点と今後の展望

エコシステム構築には時間が必要

今回の施策の特徴は、特定の有望な企業を支援するスタイルではなく、ベンチャーが現れ、成功あるいは失敗してまた次のベンチャーが現れるというエコシステムを構築しようという意図にあります。しかし、このようなエコシステムの構築には相当の時間が必要です。

ドラッグラグ・ドラッグロス問題は数年で解決するほど単純ではないという指摘もあります。効果が現れるまでには時間を要することを認識した上で、継続的な取り組みが求められます。

薬価制度の課題

日本特有の課題として、薬価制度があります。画期的な新薬の実用化には10年以上の歳月と数千億円の費用がかかることがありますが、日本は特許期間中であっても薬価を引き下げる政策をとっています。

例えば、世界初の免疫チェックポイント阻害薬として承認されたニボルマブ(オプジーボ)100mgの薬価は、発売時の72.9万円から現在は13.2万円へと82%も値下がりしています。このような環境が、海外企業の日本市場への参入意欲を削いでいる面があります。

2026年度の成果目標

政府は「現在生じているドラッグロスの解消」を成果目標として掲げ、日本で当該疾患の既存薬がない薬剤等について2026年度までに開発に着手することを目指しています。国際共同治験での日本人第1相試験データを原則不要としたり、希少疾患認定要件を緩和したりする施策も進められています。

まとめ

製薬協とAMEDの連携強化は、日本のバイオ創薬力回復に向けた重要な一歩です。高市政権が掲げる3300億円規模の政策パッケージを背景に、官民一体となった取り組みが本格化しています。

しかし、長年にわたって積み重なった競争力低下を短期間で挽回することは容易ではありません。基礎研究から実用化までの一貫した支援体制の構築、ベンチャーエコシステムの育成、そして薬価制度の見直しなど、多面的なアプローチが必要です。2026年は日本の創薬エコシステム改善に向けた転換点として、注目される年になりそうです。

参考資料:

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