キオクシア時価総額10兆円突破、上場1年で異例の急成長
はじめに
半導体メモリ大手のキオクシアホールディングスが、2026年1月27日の東京株式市場で時価総額10兆円の大台を突破しました。2024年12月の新規株式公開(IPO)から約1年で、株価は公開価格の11倍にまで上昇しています。
この急成長の背景には、NANDフラッシュメモリ価格の高騰があります。生成AIの普及に伴うデータセンター需要の急拡大と、メーカー各社の生産調整が重なり、メモリ価格は過去に例を見ない上昇局面を迎えています。
この記事では、キオクシアの株価急騰の要因、NANDフラッシュメモリ市場の動向、そして今後の展望について解説します。
キオクシアの株価推移と時価総額
IPOから1年でテンバガー達成
キオクシアホールディングスは2024年12月18日、東証プライム市場に上場しました。公開価格は1,455円で、時価総額は約7,840億円でした。初値は公開価格を1%下回る1,440円となり、当初は控えめなスタートでした。
しかし2025年9月以降、状況が大きく変化します。NANDフラッシュメモリ価格の高騰を受けて株価は上昇トレンドに入り、2025年11月14日には1万4,405円に到達。わずか1年足らずでテンバガー(株価10倍高)を達成しました。
2026年1月27日には終値で1万8,450円を記録し、時価総額が初めて10兆円の大台に乗せました。公開価格と比較すると約11倍という、大型株としては異例の上昇率です。
機関投資家と個人投資家が買い集める
キオクシア株の上昇は「全員参加型」の相場展開といわれています。半導体メモリ価格の高騰による業績拡大期待が高まり、機関投資家が積極的に買いを入れる中、個人投資家も追随する形で買いが集まっています。
また、日経225への採用可能性も投資家の間で意識されており、将来的なインデックス買いを見越した先回り投資も株価を押し上げている要因とみられます。
NANDフラッシュメモリ価格高騰の実態
前例のない価格上昇
2025年後半から、NANDフラッシュメモリの価格は急激に上昇しています。半導体市場調査会社TrendForceの2025年12月のレポートによると、NANDフラッシュウェハーの契約価格は前月比で60%を超える上昇を記録しました。サムスン電子もDRAMやNAND型フラッシュメモリの卸売価格を最大60%引き上げたと報じられています。
市場関係者の一部予測では、サーバー向けメモリで最大190%、PC向けでも150%前後の値上げが現実味を帯びているとの見方もあります。
価格高騰の3つの要因
NANDフラッシュメモリ価格が急騰している背景には、主に3つの要因があります。
1. AI需要の爆発的拡大
生成AIの普及に伴い、AIサーバー向けのメモリ需要が急増しています。NVIDIA製GPUを中核とするAIサーバーでは、従来型サーバーの数倍から十数倍のメモリ容量が必要とされます。OpenAIがDRAMウェハの大型契約を締結するなど、大手AI企業によるメモリ確保の動きが活発化しています。
2. メーカーの生産戦略転換
サムスン電子は2025年11月、NANDフラッシュメモリの製造を縮小し、より需要が高いDRAMの製造に注力する方針を明らかにしました。米マイクロンも2026年2月以降、消費者向け製品から撤退する計画を発表しています。主要メーカーが収益性の高いエンタープライズ向け製品にシフトすることで、汎用NANDの供給は逼迫しています。
3. HDD供給不足による代替需要
ニアラインHDD(大容量ハードディスク)の供給が需要に追いつかず、データセンター事業者はHDDの代替として高容量SSDの採用を余儀なくされています。これがNANDフラッシュメモリへの追加需要を生み出しています。
主要メーカーによる協調減産
韓国メディアの報道によると、サムスン電子は2025年のNANDウェハー生産目標を前年比約7%減に下方修正しました。SK hynixも約10%の減産に踏み切り、キオクシアも減産基調にあるとされています。
需要増と供給制限が同時に進行することで、価格上昇圧力は一層強まっています。
NAND市場におけるキオクシアのポジション
世界シェア3位の大手メーカー
キオクシアはNAND型フラッシュメモリ市場で世界3位のシェアを持つ大手メーカーです。2025年4〜6月期の売上ベースでは、サムスン電子が32.9%でトップ、SKグループが21.1%で2位、キオクシアは13.5%で3位につけています。
もともとは東芝のメモリ事業部門であり、2017年の東芝経営危機を機に分社化されました。2019年に「東芝メモリ」から「キオクシア」に社名変更し、2024年12月に念願の上場を果たしました。
業界最高の成長率を記録
直近の四半期では、キオクシアは主要サプライヤーの中で最も高い成長率を記録しています。売上高は前期比30%以上伸び、9億7,800万ドルに達しました。
キオクシアの強みは、自社でSSDを開発するクラウドサービスプロバイダー(CSP)に対し、エンタープライズグレードのNANDフラッシュダイを柔軟に提供するビジネスモデルにあります。AI需要の恩恵を直接受けやすいポジションにいるといえます。
設備投資の拡大
キオクシアは岩手県北上市の北上工場に新棟を建設しており、2025年秋の稼働を予定しています。IPOで調達した資金を設備投資に充て、生産能力の増強を進めています。
メモリ価格が高騰している現在のタイミングは、設備投資を回収するには好条件といえます。
今後の展望と注意点
メモリ価格高騰は2028年まで続く可能性
米国格付け会社S&Pグローバル・レーティングは、メモリの供給逼迫は2026年まで続く可能性が高く、正常化は2027〜2028年頃と予測しています。AI需要の成長が続く限り、メモリ価格の高止まりは中期的に継続する見通しです。
TrendForceも2026年のNANDフラッシュ市場は供給不足が続くと予想しており、業界全体が構造的変革期を迎えるとしています。
消費者への影響
メモリ価格の高騰は、スマートフォンやPCなど消費者向け製品の価格にも波及します。TrendForceは2026年のスマートフォンとノートPCの出荷予測を下方修正しており、メモリコスト上昇が需要を押し下げる要因になると分析しています。
企業にとっても、DX投資やクラウド利用料の上昇を通じて「見えない増税」として作用するとの指摘があります。
投資家が注意すべきリスク
キオクシア株は急騰しているものの、半導体メモリ市場は本来シクリカル(景気循環型)な性質を持ちます。AI需要が想定を下回った場合や、メーカー各社が増産に転じた場合には、価格が急落するリスクがあります。
また、米中対立の影響でサプライチェーンが混乱する可能性や、中国メーカーの台頭による競争激化といった地政学リスクも存在します。
まとめ
キオクシアホールディングスの時価総額10兆円突破は、NANDフラッシュメモリ市場の構造変化を象徴する出来事です。生成AIの普及がデータセンター需要を押し上げ、メモリ価格は前例のない上昇局面を迎えています。
IPOから1年で株価が11倍になるという異例の急成長は、AI時代における半導体メモリの重要性を市場が評価した結果といえます。ただし、シクリカルな市場特性や地政学リスクには引き続き注意が必要です。
メモリ価格の高騰は消費者や企業にとってはコスト増要因となりますが、キオクシアをはじめとするメモリメーカーにとっては追い風となっています。今後の市場動向から目が離せない状況が続きそうです。
参考資料:
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