キオクシア株価急騰、メモリー需給逼迫が招く半導体市場の構造変化
はじめに
2026年1月21日、東京株式市場でキオクシアホールディングスの株価が一時10%超の急騰を見せました。前日の米国市場でメモリーを共同開発するサンディスクが急伸したことを受けた動きです。
背景にあるのは、AI(人工知能)需要の急拡大によるNANDフラッシュメモリの需給逼迫です。市場関係者の間では「メモリー祭り」と呼ばれる活況が続いており、半導体メモリ関連銘柄への注目が集まっています。
本記事では、キオクシア株急騰の背景、NANDフラッシュメモリ市場の現状、そして投資家が知っておくべき今後の展望について詳しく解説します。
キオクシア株価急騰の背景
上場1年足らずでテンバガー達成
キオクシアホールディングスは2024年12月に東証プライム市場に上場しました。公募価格1,455円に対し、初値は1,440円と公募割れでのスタートとなりましたが、その後の株価推移は市場の予想を大きく上回るものでした。
2025年末時点で株価は上場時から約7倍に上昇し、上場後1年足らずでテンバガー(株価10倍高)を達成しています。2026年1月21日には一時1万6,790円まで買われ、上場来高値を更新しました。
サンディスク急騰の波及効果
キオクシアの株価急騰に直接影響を与えたのは、米国市場でのサンディスク株の急伸です。サンディスクは2025年2月にウェスタン・デジタルから分離してナスダックに上場した企業で、キオクシアとは「Flash Ventures」という合弁事業を通じて密接な関係にあります。
両社は四日市と北上にある7カ所の製造施設でフラッシュメモリウェハを共同開発・製造しています。そのため、サンディスクの業績好調はキオクシアの収益にも直結するという市場の見方が、連動した株価上昇を招いています。
サンディスクは2026年最初の3営業日で47%以上上昇し、2025年4月の安値からの上昇率は実に1,080%に達しました。Benchmarkはサンディスクの目標株価を260ドルから450ドルに引き上げており、アナリストの評価も急速に改善しています。
NANDフラッシュメモリ需給逼迫の実態
AI需要が引き起こす供給不足
NANDフラッシュメモリの需給が逼迫している最大の要因は、AI技術の急速な普及です。クラウドサービスプロバイダー(CSP)がAIワークロードを支えるためにデータセンターの拡張を加速させており、ストレージ需要が急増しています。
特に注目すべきは、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが2026年1月のCES(Consumer Electronics Show)で言及した内容です。AIモデルのパラメータ数増加に伴うKVキャッシュのデータボトルネックを緩和するため、エヌビディアの各種システム全体でNANDストレージ需要が引き続き堅調であることが示唆されました。
OpenAIが大手メモリ企業と数カ月先の供給契約を締結する動きに象徴されるように、高密度なNAND製品は数カ月先まで予約済みという状況が続いています。
メーカーの生産戦略シフト
供給不足に拍車をかけているのが、メモリメーカーの生産戦略の変化です。サムスン電子は2025年11月、韓国の平澤工場と華城工場において、NANDフラッシュメモリの製造を中止し、より需要が高いDRAMの製造に注力すると発表しました。
また、サムスン、SKハイニックス、マイクロンといった競合他社がAI向けHBM(高帯域幅メモリ)に投資をシフトする中、NAND専業メーカーであるキオクシアはNANDにリソースを集中できるという独自のポジションを確立しています。
価格上昇の見通し
水戸証券の調査レポートによると、2026年第1四半期に予想される前四半期比37%以上の上昇に続き、2026年にはNAND価格がさらに70〜100%上昇する可能性があるとされています。
市場では「2026年生産分のすべての商品が言い値でソールドアウト」という状況が伝えられており、需給のタイトさがNAND価格の上昇モメンタムを下支えしています。キオクシアの決算説明会資料でも「当面需給はタイト」であり、「需要が供給を上回る状況のもと、売上拡大基調が継続する見込み」と説明されています。
消費者・企業への影響
SSD価格への波及
NANDフラッシュメモリの価格上昇は、SSD(ソリッドステートドライブ)の価格に直接影響します。2025年末から2026年末にかけて、SSDの供給不足が続く見通しです。
ADATAの会長は「DRAM、NAND SSD、HDD、すべてが同時に不足するのは業界史上初めて」とコメントしており、ストレージ市場全体が歴史的な転換点を迎えています。もはや「待てば安くなる」という従来の購買判断は通用しない状況です。
PC・スマートフォン市場への影響
メモリサプライヤー各社が利益率の高いエンタープライズおよびプレミアム製品の生産を増やし、パソコンや消費者向けメモリを減産したことで、一般消費者向け製品への影響も懸念されています。
レノボはDRAMとNANDフラッシュメモリを確保するため在庫を積み増しており、エイサーは工場から直接購入するために代表団を派遣したと報じられています。PC、スマートフォンなど消費者向けデバイスのメモリ調達が困難になる可能性があります。
注意点・今後の展望
シリコンサイクルのリスク
メモリ市場は歴史的に需給サイクルが繰り返される「シリコンサイクル」の影響を強く受ける産業です。現在の好況が永続する保証はなく、需要の減退や供給過剰による価格下落のリスクは常に存在します。
特にAI需要については、期待が先行している面もあり、実需の成長ペースが市場の予想を下回った場合、メモリ価格の調整局面が訪れる可能性があります。
キオクシアの技術優位性
一方で、キオクシアには技術的な強みがあります。2026年4月からはBiCS(3次元フラッシュメモリ)の第8世代が主力商品となり、収益への貢献が期待されています。
また、競合がHBMなど他の製品にリソースを分散させる中、NAND専業という立ち位置は、需給逼迫環境下でマージン拡大の好機をもたらしています。
長期的な市場見通し
マイクロンは「業界全体の供給は需要を大幅に下回ると見込まれる」とし、「DRAMとNANDの両分野で業界全体の逼迫状態は2026年以降も継続すると予想される」と述べています。
AIインフラへの投資が続く限り、NANDフラッシュメモリの需要は堅調に推移すると考えられますが、投資判断においては市況の変動リスクを十分に認識しておく必要があります。
まとめ
キオクシアの株価急騰は、AI需要の拡大によるNANDフラッシュメモリの需給逼迫という構造的な要因に支えられています。サンディスクとの協業関係、NAND専業メーカーとしてのポジション、次世代技術の量産開始など、同社には複数の成長ドライバーが存在します。
ただし、メモリ市場特有のシリコンサイクルによる価格変動リスクは常に念頭に置く必要があります。投資を検討する際は、短期的な株価の動きに一喜一憂するのではなく、中長期的な業界動向と同社の競争力を見極めることが重要です。
参考資料:
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