自民党衆院選公約に食料品消費税ゼロと安保強化、政策転換の狙いとは
はじめに
自民党の衆院選公約の原案が2026年1月20日に明らかになりました。公約には食料品の消費税減税や外交・安全保障の強化が盛り込まれ、石破茂前政権時の2024年衆院選、2025年参院選から大きく政策を転換する内容となっています。
高市早苗首相は1月23日に衆院解散を表明する見通しで、2月8日の投開票に向けて選挙戦が始まります。高市内閣が掲げる積極財政のもとで「強い経済」を追求する姿勢を打ち出す狙いがあります。
本記事では、自民党公約案の詳細な内容と、政策転換の背景、そして実現に向けた課題を解説します。
食料品消費税ゼロの公約内容
2年間限定の時限措置
自民党公約案の目玉は、食料品の消費税を2年間ゼロにする方針です。これは昨年10月に自民党と日本維新の会が交わした連立政権樹立の合意書に基づくもので、「飲食料品については2年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化の検討を行う」と明記されていました。
鈴木俊一幹事長は「連立合意に書かれたことを誠実に実現するのが基本的な立場だ」と述べ、公約への盛り込みに前向きな姿勢を示しています。高市首相自身も「私自身の悲願でもあった」と語っています。
財源は明示せず「国民会議」で検討
公約では具体的な財源は示されていません。選挙後に設置する超党派の「国民会議」で減税の時期を含めた財源や工程の検討を加速するとしています。
政府・与党は衆院選に勝利すれば、選挙後に召集される特別国会に消費税減税を盛り込んだ税制改正案の提出を検討しており、早ければ2027年1月から減税を実施する案が浮上しています。
年5兆円規模の税収減試算
飲食料品の消費税率をゼロにすれば、年5兆円規模の税収減になるとの試算があります。標準的な4人家族で年間約6.4万円の負担減となり、年収1500万円以上の世帯では約8.2万円程度の恩恵が見込まれます。
しかし、自民党内には財政規律がさらに緩むことへの反対論が根強くあります。高市首相も就任後は「残念ながら自民党内で賛同を得られなかった」と述べており、党内調整は容易ではありません。
外交・安全保障の強化方針
防衛費GDP比2%の前倒し達成
公約案には外交・安全保障の強化も盛り込まれています。高市首相は、本来2027年度に実現予定だった「防衛費のGDP比2%」目標を2025年度に前倒しで完成させる方針を示しています。
さらに2026年末までに「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保三文書を改定する計画です。宇宙・サイバー・電磁領域への対応力強化や、無人機・極超音速兵器の導入など先進技術への対応も打ち出しています。
日米同盟を軸とした多国間協力
外交面では、日米同盟を中心に日米韓、日米比、日米豪印などの多国間安全保障協力を深化させ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指します。
高市首相は2025年10〜11月のトランプ米大統領訪日時の首脳会談で、安倍晋三元首相の後継者としての姿勢をアピールし、日米関係の強化に取り組んできました。
対中関係の緊張
一方、中国との関係では緊張が続いています。2025年11月の衆議院予算委員会で高市首相が「中国が台湾に対して武力行使を伴うものであれば、日本の存立危機事態になりうる」と発言したことに中国が強く反発。日本への渡航自粛や経済的威圧、軍事的牽制にまで発展しています。
石破前政権からの政策転換
財政規律重視から積極財政へ
石破茂前政権は財政効率を重視し、物価高対策として「低所得世帯への給付金の支給など短期的な政策は実施するが、所得・住民税の定額減税については『今すぐとは考えていない』」という慎重な姿勢をとっていました。
これに対し高市内閣は積極財政路線を鮮明にしています。消費税減税という大型減税策を掲げることで、経済成長を優先する姿勢を打ち出しています。
政権交代の背景
石破政権は衆議院で少数与党にとどまり、政治運営に苦慮していました。2025年10月の自民党総裁選で高市氏が勝利し、政権が交代。高市内閣は比較的高い支持率を維持しており、この勢いで衆院選に臨む構えです。
野党各党の対応
各党の消費税政策
消費税減税は与野党を問わず共通のテーマとなっています。
- 日本維新の会: 食品の消費税を時限的にゼロにする方針。ただし「無制限な減税は論外」として期限を設ける必要性を強調
- 国民民主党: 恒久的に税率5%へ引き下げを主張し、積極財政と金融緩和による「高圧経済」を志向
- 立憲民主党: 食料品の軽減税率を一時的に0%にする時限減税案(1年間、延長最大2年)を公約に
- 公明党: 食料品の消費税をゼロにし、政府系ファンド(SWF)の運用益などを財源に充てる案を提示
- 共産党・れいわ新選組: 消費税廃止または大幅減税を主張
中道新党の動き
選挙を前に中道新党の結成も取りざたされており、消費税減税を主要政策に掲げる動きが活発化しています。
減税実現への課題と注意点
財源確保の難しさ
最大の課題は財源の確保です。年5兆円規模の税収減を補うには、他の税金を増やすか、国の支出を削るか、国の借金を増やすかの選択が迫られます。
消費税は日本の税収の約30%以上を占めており、これが失われると持続的な社会保障制度の運営が困難になる恐れがあります。一部の専門家は、標準税率を12%に引き上げれば消費税収はニュートラルになると試算していますが、増税は政治的に困難です。
経済効果への疑問
複数の経済研究所は、消費税減税の経済効果はその財政コストに比べて限定的だと指摘しています。野村総合研究所は5.1兆円規模の減税・給付金のGDP押し上げ効果を年間+0.19%程度と試算しています。
社会保障への不安などから、減税分が消費に回らず貯蓄されてしまう可能性も指摘されています。
価格転嫁の保証なし
消費税法には消費税分を価格に転嫁する規定がないため、食料品がゼロ税率になっても、企業が価格を引き下げる義務はありません。2018年にマレーシアが税率6%の付加価値税を廃止した際、物価は6%下がらず1%程度の下落にとどまった事例もあります。
システム改修の負担
消費税率の変更は、全国のすべての商品やサービスの価格表示を変更し、企業の会計システムやレジシステムを改修する必要があります。特に時限措置の場合、2年後に再び元の税率に戻す作業も発生します。
まとめ
自民党の2026年衆院選公約案は、食料品消費税2年間ゼロと外交・安全保障強化を二本柱とし、石破前政権からの政策転換を鮮明にする内容となっています。
高市内閣は積極財政路線のもとで「強い経済」を追求する姿勢を打ち出していますが、年5兆円規模の税収減をどう補うかという財源問題は未解決のままです。選挙後に設置される「国民会議」での議論が注目されます。
2月8日の衆院選投開票に向けて、与野党の政策論争が本格化します。有権者は各党の公約の実現可能性を冷静に見極める必要があるでしょう。
参考資料:
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