がん治療で医師に質問できない悩み、患者の意思決定を支援するには
はじめに
作家の落合恵子さんが、2023年7月に78歳でステージ3Aの肺がんと診断されたことを公表しました。最初の病院で生検が失敗し、2つ目の病院で進行が速く転移リスクが高い種類の小細胞肺がんだと判明。医師から「手術は無理なので、抗がん剤の点滴と放射線の照射の治療以外に選択肢はない」と言われたといいます。
他の病院で治療することを検討し、肺がんの専門書や闘病手記を読みあさったという落合さん。「多忙な医師に質問もできず」悩んだ経験は、多くのがん患者が共感する問題ではないでしょうか。
この記事では、がん治療における患者と医師のコミュニケーションの課題と、納得のいく治療を選ぶための方法について解説します。
医師に質問できない患者の現実
診察時間の制約
多くの病院で、一人の患者に割ける診察時間は限られています。特に大学病院や総合病院の外来では、数分の診察で次の患者に移らなければならない状況も珍しくありません。
患者からすると、「先生は忙しそうだから」「こんな質問をしたら迷惑かもしれない」という遠慮が生まれがちです。結果として、聞きたいことが聞けないまま診察が終わってしまうことも少なくありません。
専門用語の壁
医師の説明に専門用語が多く含まれると、患者は内容を十分に理解できないまま話が進んでしまうことがあります。「ステージ」「化学療法」「放射線療法」といった基本的な用語でさえ、初めて聞く患者にとっては馴染みがないものです。
理解できていないことを医師に伝えることに躊躇を感じる患者も多く、これがコミュニケーションギャップを生む一因となっています。
精神的な動揺
がんの告知を受けた直後は、精神的なショックで頭が真っ白になることがあります。医師の説明を聞いていても、内容が入ってこない、質問を思いつかないという状態は、多くの患者が経験することです。
落合恵子さんも「自分がどこへ向かうのかをしっかり見ていたい」と語っていますが、冷静に状況を把握するまでには時間がかかったのではないでしょうか。
セカンドオピニオンの活用
セカンドオピニオンとは
セカンドオピニオンとは、主治医以外の医師の意見を聞くことにより、患者自身が治療方法を自己決定するために役立てるものです。「第二の意見」を聞くことで、現在の治療内容や次の段階の治療選択について、別の視点からのアドバイスを得ることができます。
落合さんも「他の病院で治療することを検討し」たとのことで、実際にセカンドオピニオンを求める行動を取っています。
主治医に言い出しにくい場合
「セカンドオピニオンを受けたいけれど、担当医に言い出しにくい」と感じる方は少なくありません。日本では「先生の気に障るかもしれない」「主治医との人間関係を壊したくない」という遠慮や罪悪感を抱く方がいるようです。
しかし、セカンドオピニオンは社会的に認められた制度であり、本来は担当医に気を遣う必要はありません。伝え方に悩む場合は、がん相談支援センターや、担当医以外の医療スタッフ(看護師や受付スタッフなど)に相談することをお勧めします。
セカンドオピニオンを受ける際の準備
セカンドオピニオンを有効に活用するためには、事前の準備が重要です。
準備のポイント:
- これまでの検査結果や診断内容を整理する
- 主治医から「第一の意見」を理解しておく
- 「何に納得ができないのか」を明確にする
- 質問事項をメモしておく
- できれば信頼できる人に同行してもらう
何を質問すればよいか分からないときは、がん相談支援センターに相談して情報を整理してもらうこともできます。
費用と受診先
セカンドオピニオン外来は、公的医療保険が適用されない自由診療(自費診療)となるため、費用は病院によって異なります。
受診先を探す際は、がん診療連携拠点病院などに設置されている「がん相談支援センター」で相談することができます。お住まいの地域でセカンドオピニオンが受けられる病院や、各病院の専門領域などに関する情報が得られます。
また、移動が難しい場合は「オンライン・セカンドオピニオン」を実施している医療機関も増えています。
インフォームドコンセントの重要性
「説明と同意」の原則
インフォームドコンセント(informed consent)とは、「説明を受け納得したうえでの同意」という意味です。医師が病気や治療内容について十分な説明をし、患者はその内容をよく理解し、納得した上で同意して治療を受けるという原則です。
これは患者の権利として確立されており、医療者側には説明義務があります。患者側も、理解できない点があれば遠慮なく質問する権利があります。
患者の意思決定を支援する
がん治療は選択の連続です。「治療を受けるか受けないか」「どのような治療を受けるか」「療養場所はどうするか」など、患者自身がさまざまな意思決定をする必要があります。
医師や家族を含めた周囲の人々は、まず「患者本人の意思が尊重されること」を確認し、「本人が納得した」選択を支援することが求められます。
高齢者のがん治療における課題
意思決定能力への配慮
国立がん研究センター東病院の研究によると、進行肺がんと診断された患者114人のうち、24%に意思決定能力の低下がみられました。高齢者の場合、認知機能の問題が加わることもあり、より丁寧な説明と確認が必要になります。
しかし、「認知症だから決められない」と周囲が勝手に判断することは避けるべきです。治療方針は本人の生命に関わる重要な事柄であり、可能な限り本人自身が決めることが望ましいとされています。
家族との連携
高齢のがん患者の場合、家族の協力体制も重要な要素となります。医師は「体の状態」「患者本人の意向」「家族との関係」を確認した上で、治療の提案内容を検討します。
家族が診察に同席することで、医師の説明を一緒に聞き、後で本人と話し合うことができます。また、本人がうまく質問できない場合に、代わりに医師に確認することも可能です。
納得のいく治療を選ぶために
がん相談支援センターの活用
全国のがん診療連携拠点病院には「がん相談支援センター」が設置されています。がんに関する様々な相談に、専門の相談員が無料で対応してくれます。
- 治療法や副作用についての情報提供
- セカンドオピニオンの受診先探し
- 医療費や生活の相談
- 心のケアに関する支援
その病院に通院していなくても利用できるため、気軽に相談してみることをお勧めします。
情報収集の姿勢
落合恵子さんは「肺がんの専門書や闘病手記を読みあさった」とのことです。自分の病気について知識を持つことは、医師との対話をより実りあるものにします。
ただし、インターネット上には信頼性の低い情報も多いため、国立がん研究センターの「がん情報サービス」など、公的機関が発信する情報を参照することをお勧めします。
「聞く権利」を行使する
最も大切なのは、患者には「聞く権利」があるということです。医師は説明義務を負っており、患者の質問に答える責任があります。
「こんな質問をしていいのだろうか」と悩む必要はありません。わからないことがあれば遠慮せずに聞くことで、治療について前向きに話し合うことができるでしょう。
まとめ
がん治療において、多忙な医師に質問できないという悩みは多くの患者が抱えています。しかし、納得のいく治療を選ぶためには、患者自身が情報を得て、意思決定に参加することが重要です。
セカンドオピニオンの活用、がん相談支援センターへの相談、家族の同席など、様々な手段を活用して、医師とのコミュニケーションを深めていくことができます。
落合恵子さんが「自分がどこへ向かうのかをしっかり見ていたい」と語ったように、患者が主体的に治療に向き合う姿勢は、より良い医療を受けるための第一歩です。
参考資料:
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