疲労感や集中力低下の原因は鉄不足かも?食事での改善法
はじめに
仕事中に頭が重い、午後になると集中力が続かない、疲れやすい――。こうした症状を「忙しいから」「年齢のせい」と片付けていませんか。実はその背景に、鉄分の不足が潜んでいる可能性があります。
鉄は血液中のヘモグロビンの材料となり、全身に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。脳や筋肉は酸素を使ってエネルギーを生み出すため、鉄が不足すると酸素供給の効率が低下し、体のだるさや思考力の低下を招きます。
特に日本人女性は鉄分の摂取量が推奨量を大きく下回っており、約半数が「隠れ貧血」の状態にあるとされています。本記事では、鉄不足のメカニズムと症状、そして食事による効果的な改善方法を解説します。
見過ごされやすい「隠れ貧血」の実態
貧血と隠れ貧血の違い
貧血は血液中のヘモグロビン濃度が基準値よりも低い状態を指します。一方、健康診断でヘモグロビン値が正常と診断されても、体内の貯蔵鉄が減少している状態が「潜在性鉄欠乏症」、いわゆる「隠れ貧血」です。
鉄欠乏は「貯蔵鉄の減少→血清鉄の減少→貧血」という順序で進行します。つまり、貧血と診断される前段階で、すでに体には鉄不足の影響が出ているのです。
日本人女性の約半数が該当
2009年度の厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、フェリチン(貯蔵鉄の指標)が15ng/mL未満の鉄欠乏状態にある日本人女性は約23%、約1,400万人に上ると推定されています。さらに衝撃的なのは、20〜40歳代の女性では実に約48%が隠れ貧血の状態にあるという点です。
最新の調査でも状況は改善していません。月経のある成人女性の1日の鉄分推奨量は10.5〜11mgですが、実際の摂取量は20代で6.2mg、30代で6.4mg、40代で6.7mgと、推奨量の6割程度にとどまっています。
フェリチン値で分かる鉄の貯蔵量
隠れ貧血を見つけるには、フェリチン値の測定が有効です。日本鉄バイオサイエンス学会では、フェリチンの基準値を男女とも25〜250ng/mLとしています。
12〜25ng/mLは貯蔵鉄の減少、12ng/mL以下は貯蔵鉄の枯渇を示します。通常の健康診断ではフェリチンを測定しないことが多いため、気になる症状がある場合は医療機関で相談することをお勧めします。
鉄不足が引き起こす症状
身体的な症状
鉄が不足すると、全身への酸素供給が不足し、さまざまな症状が現れます。主な症状には以下のものがあります。
- 慢性的な疲労感・体のだるさ
- 動悸・息切れ
- めまい・立ちくらみ
- 頭重感・頭痛
- 肩こり
- 爪の変形(スプーン状になる)
- 髪の毛が抜けやすくなる
これらの症状は徐々に進行するため、本人が気づかないまま長期間放置されることも少なくありません。
精神面への影響
鉄は脳内でセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質を作るのにも不可欠です。そのため、鉄不足は身体だけでなく精神面にも影響を及ぼします。
集中力の低下や思考の鈍化、睡眠の質の低下、慢性的な疲労感、イライラしやすくなるといった症状は、うつの初期症状と重なることも多く、鉄不足が心の不調の原因となっている可能性も十分に考えられます。
ストレスとの悪循環
ストレスと鉄不足は悪循環を形成することがあります。ストレスを感じると食欲が減退し、鉄分を多く含む肉や魚の摂取量が減りがちです。また、ストレスは自律神経のバランスを乱し、消化器系の機能を低下させることで、鉄分の吸収を阻害することもあります。
忙しいビジネスパーソンほど、この悪循環に陥りやすい環境にあると言えます。
ヘム鉄と非ヘム鉄の違いを理解する
吸収率が大きく異なる2種類の鉄
食品に含まれる鉄分は、大きく「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類に分けられます。この違いを理解することが、効率的な鉄分補給の第一歩です。
ヘム鉄は動物性食品に含まれる鉄で、吸収率が10〜30%と高いのが特徴です。レバー、赤身の肉、カツオやマグロなどの赤身魚、赤貝などに多く含まれています。他の食品と一緒に摂っても吸収を妨げられにくい点も利点です。
非ヘム鉄は植物性食品に含まれる鉄で、吸収率は5%以下と低めです。小松菜、ほうれん草、豆類、ひじき、青のりなどに含まれています。ただし、工夫次第で吸収率を高めることができます。
鉄分含有量の多い食品
鉄分を多く含む代表的な食品を見てみましょう。
動物性食品(ヘム鉄)
- 豚レバー:約13mg(100gあたり)
- 鶏レバー:約9mg
- 牛レバー:約4mg
- カツオ:約1.9mg
- マグロ赤身:約1.1mg
植物性食品(非ヘム鉄)
- ひじき(乾燥):約6.2mg(100gあたり)
- 小松菜:約2.8mg
- ほうれん草:約2.0mg
- 納豆:約3.3mg
- 木綿豆腐:約1.5mg
レバーは種類によって鉄分量が大きく異なります。豚レバーは鶏レバーの約1.5倍、牛レバーの約3.3倍の鉄分を含んでいます。
食事で鉄分吸収率を高める方法
ビタミンCとの組み合わせ
非ヘム鉄の吸収率を高める最も効果的な方法は、ビタミンCと一緒に摂取することです。ビタミンCは還元作用により、非ヘム鉄を吸収されやすい形に変換します。
具体的な組み合わせとしては、ほうれん草のおひたしにレモン汁をかける、小松菜とパプリカの炒め物、豆腐サラダにトマトを添えるなどがあります。
たんぱく質との組み合わせ
動物性たんぱく質も鉄の吸収を促進します。植物性食品の非ヘム鉄を摂る際は、肉や魚と組み合わせると効果的です。
例えば、ひじき入りハンバーグ、ほうれん草と豚肉の炒め物、小松菜と卵のスープなど、動物性と植物性の食材を組み合わせた料理がお勧めです。
おすすめの鉄分補給レシピ
レバニラ炒め:レバーの豊富な鉄分に、ニラのビタミンCが加わり、吸収効率が高まります。レバーにはビタミンB12や葉酸など、造血に必要な栄養素も含まれています。
牛すき煮:牛肉、豆腐、卵と鉄分を摂りやすい食材の組み合わせです。非ヘム鉄に動物性たんぱく質が加わることで吸収率も向上します。
かつおのカルパッチョ:鉄分の多いかつおに、玉ねぎや水菜のビタミンCが加わります。よく噛んで食べることで胃酸の分泌が促され、鉄分の吸収率アップにもつながります。
トマト牛丼:牛肉とほうれん草の鉄分を、トマトのビタミンCがサポートします。
鉄分吸収を妨げる要因と対策
タンニンを含む飲み物に注意
コーヒー、紅茶、緑茶に含まれるタンニンは、鉄の吸収を妨げることが知られています。特に非ヘム鉄への影響が大きいため、鉄分を意識した食事の際は水や麦茶を選ぶのがお勧めです。
食事と飲み物を1時間以上ずらすことで、タンニンの影響を軽減できます。
加工食品のリン酸塩
インスタント食品や加工食品に含まれるリン酸塩も、鉄分の吸収を阻害する要因となります。忙しい日々の中でこうした食品に頼りがちですが、鉄分補給を意識するなら、できるだけ新鮮な食材を使った料理を心がけましょう。
調理器具の活用
南部鉄器や鉄鍋を使って調理すると、食品に吸収されやすい形の鉄分が溶け出します。特にトマトや酢など酸性の食品を調理する際に効果的です。比較的手軽に鉄分摂取量を増やせる方法として、取り入れてみる価値があります。
注意点・今後の対策
症状が続く場合は医療機関へ
食事の改善で鉄分摂取量を増やしても症状が続く場合は、医療機関での検査をお勧めします。鉄欠乏の背景には、消化管からの出血や婦人科系の疾患など、治療が必要な病気が隠れている可能性もあります。
また、すでに貧血が進行している場合は、食事だけでは改善に時間がかかります。医師の判断により、鉄剤の処方が必要になることもあります。
サプリメントの注意点
鉄分サプリメントは手軽に摂取できる反面、過剰摂取のリスクもあります。鉄は体内に蓄積されやすく、過剰になると臓器に負担をかける可能性があります。サプリメントを利用する場合は、用量を守り、できれば医師や管理栄養士に相談することが望ましいです。
まとめ
日常的な疲労感や集中力の低下の背景には、鉄分不足が潜んでいる可能性があります。特に月経のある女性は、推奨摂取量に対して6割程度しか鉄分を摂れておらず、約半数が隠れ貧血の状態にあります。
鉄分を効率的に摂取するためには、ヘム鉄と非ヘム鉄の違いを理解し、ビタミンCやたんぱく質との組み合わせを意識することが大切です。レバーや赤身肉、魚介類を積極的に取り入れ、植物性食品からの鉄分摂取時には吸収を高める工夫をしましょう。
まずは自身の食生活を振り返り、鉄分を意識した食事メニューを取り入れることから始めてみてください。それでも改善しない場合は、医療機関でのフェリチン検査を検討することをお勧めします。
参考資料:
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