大手証券5社が13%増益、株高とM&A活況で好調な4〜12月期決算
はじめに
大手対面証券5社の2025年4〜12月期決算が3日に出そろいました。合計の純利益は前年同期比13%増の7294億円となり、好調な業績を示しました。売上高にあたる純営業収益の合計も9%増の3兆6408億円に達し、大和証券やSMBC日興証券、みずほ証券は比較可能な範囲で過去最高を記録しています。
好調な業績の背景には、日経平均株価が5万円前後で推移した株高環境と、活発化する企業のM&A(合併・買収)があります。「貯蓄から投資」の流れが加速する中、証券各社のビジネスモデル転換も着実に進んでいます。
この記事では、大手証券5社の決算内容を詳しく分析し、好調の要因と今後の見通しについて解説します。
大手証券5社の決算概要
5社全社が増収増益
大手対面証券5社とは、野村ホールディングス(HD)、大和証券グループ本社、SMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJ証券HDを指します。5社はいずれも増収増益となり、堅調な業績を示しました。
純営業収益は大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券が比較可能な範囲で過去最高を更新しました。証券業界全体が好調な収益環境にあることがうかがえます。
野村ホールディングスの業績
野村HDの2025年4〜12月期(第3四半期累計)の連結税引き前利益は、前年同期比15.5%増の4321億円となりました。2025年3月期通期では、純利益が前の期比2.1倍の3407億円に達し、2006年3月期以来19年ぶりの過去最高益を更新しています。
通期の収益は1兆8925億円(前年比21%増)、税前利益は4720億円(同72%増)と、個人、投資運用、法人の主要3部門すべてが増益に貢献しました。
個人向け部門の税引き前利益は39%増の1708億円で、投資信託などの資産残高の積み上げによる収入が過去最高となりました。投資運用部門も49%増の896億円と好調で、投資信託や投資顧問に2.6兆円の資金流入がありました。
大和証券グループの業績
大和証券グループ本社は、2025年3月期に過去2番目となる好業績を記録しました。新規の預入資産が1兆円を超え、預かり資産に応じた収益は898億円と過去最高に達しています。
大和証券は資産管理型ビジネスモデルへの転換を進めており、2024年5月にはあおぞら銀行との資本業務提携を締結しました。発行株式の約15.4%を取得する第三者割当増資に応じ、ウェルスマネジメントやM&A、成長企業支援での協業を進めています。
好調の要因分析
株高による預かり資産収益の増加
2025年10月に高市早苗首相が就任して以降、同年末にかけて日経平均株価は5万円前後で推移しました。2025年春はトランプ米政権の関税政策で市場が混乱しましたが、夏以降は株高と金利上昇を受けて顧客の投資意欲が旺盛でした。
各社は投資信託やファンドラップ(投資方針を決めた上で運用を一任するサービス)など、預かり資産に応じた収益を重視するビジネスモデルへの転換を進めています。非開示の三菱UFJ証券を除く4社合計で、この収益は1割以上増加しました。
ファンドラップ市場の急成長
日本投資顧問業協会によると、ラップ業務の投資一任契約残高は2024年12月末に過去最高の21兆5323億円となりました。前年比26.1%増で、契約件数も176万4822件と過去最高を更新しています。2025年6月末には約22.3兆円に達しました。
契約残高の首位はSMBC日興証券の4兆8117億円、2位は大和証券の4兆5188億円、3位は野村証券の4兆1632億円と、大手証券が上位を占めています。SMBC日興の後藤歩常務執行役員は「資産管理型ビジネスへの変革が着実に進んでいる」と述べています。
M&A市場の活況
世界のM&A市場は力強い回復基調にあります。ベイン・アンド・カンパニーによると、2025年の年間取引総額は4.8兆ドルと過去2番目の高水準となる見込みで、前年比36%増に相当します。
野村HDの投資銀行事業を含む法人向け部門は、活発なM&Aを背景に税引き前利益が3.1倍の1663億円に急増しました。規制緩和、資本コストの低下、売り手・買い手間のバリュエーションギャップの縮小がM&A回復を後押ししています。
個人株主数の増加
日本証券業協会の調査によると、個人株主数(名寄せ人数)は1599万人と過去最高を更新しました。特に「20歳以上40歳未満」が初めて200万人を超え、若年層の投資参加が進んでいます。
個人金融資産残高は2194兆円に達し、現金・預金が全体の51.0%を占めています。「貯蓄から投資」への流れが加速する中、証券会社には大きな成長機会が広がっています。
各社の「勝ち方」の違い
野村HD:グローバル展開と3部門バランス
野村HDは個人、投資運用、法人の3部門がバランスよく成長しています。ROE(自己資本利益率)は8.2%を4四半期連続で達成し、2030年の経営目標「ROE 8%〜10%+」の下限をクリアしています。
グローバルな投資銀行業務でも存在感を示しており、海外収益の拡大が今後の成長ドライバーとなります。
大和証券:資産管理型への転換加速
大和証券は預かり資産に応じた収益で過去最高を記録しました。あおぞら銀行との資本業務提携により、銀行・証券の垣根を超えた協業モデルを構築しています。
ウェルスマネジメントや不動産ファイナンス、成長企業支援など、手数料ビジネスの多角化を進めています。
SMBC日興証券:ファンドラップで首位
SMBC日興証券はファンドラップの契約残高で首位を維持しています。2023年9月末から首位の座を守り、資産管理型ビジネスへの転換で先行しています。
メガバンクグループの強みを活かし、銀行との連携による顧客基盤の拡大も進めています。
注意点・展望
債券市場の波乱リスク
証券各社は株高に沸く一方、国債利回りの急上昇(価格は急落)など債券市場の波乱に身構えています。債券のトレーディング業務などで損失が生じるリスクがあるためです。
三菱UFJ証券の本城史朗CFOは「現状はうまく対応できているが、今後大きな損が出ないよう気をつけなければならない」と述べています。2026年1月には超長期国債の利回りが急上昇しており、警戒が必要です。
今後の見通し
2026年の証券業界は、引き続き好調な収益環境が続くと見られます。ただし、トランプ米政権の政策動向や金利環境の変化など、不確実要因も多く存在します。
大手証券会社を中心に、資産管理型中心のストック型ビジネスモデルへの転換が戦略的に進んでおり、市場環境に左右されにくい収益基盤の構築が進んでいます。投資一任契約の金額は2021年3月末の112兆円から2024年9月末には203兆円と約2倍に成長しており、この流れは今後も続くと見られます。
まとめ
大手証券5社の2025年4〜12月期決算は、純利益が前年同期比13%増の7294億円と好調でした。日経平均5万円前後の株高環境と、活発なM&A市場が追い風となりました。
各社は投資信託やファンドラップなど預かり資産に応じた収益を重視するビジネスモデルへの転換を進めており、野村HDは19年ぶりの最高益、大和証券は過去2番目の好業績を記録しています。
今後は債券市場の波乱リスクに注意が必要ですが、「貯蓄から投資」の流れは着実に進んでおり、証券業界には引き続き成長機会が広がっています。個人株主数が過去最高を更新し、若年層の投資参加も進む中、資産形成をサポートする証券会社の役割はますます重要になりそうです。
参考資料:
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