メガバンク夜間営業、人員確保の壁に直面
はじめに
2025年から2026年にかけて、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行といったメガバンクが、約20年ぶりとなる新規店舗の出店や営業時間の延長に踏み切っています。夜間や休日も営業する店舗を増やし、働く世代の顧客接点を強化する狙いです。
しかし、メガバンク各行が直面しているのは、サービス拡大と人員確保のジレンマです。大手行の幹部は「育児休業や短時間勤務制度の取得者が絶えずいる。人繰りはどの銀行も共通の課題だ」と明かしています。
働き方改革が進む中、銀行はどのようにして夜間・休日営業の人員を確保しているのか。デジタル化や新たな雇用形態の導入など、各行の取り組みを詳しく見ていきます。
メガバンクの店舗戦略転換
新規出店と営業時間延長
長年にわたり店舗削減を進めてきたメガバンクが、ここにきて方針を大きく転換しています。背景にあるのは「金利ある世界」の到来です。日本銀行の金融政策正常化により、預金金利が上昇し、資産運用ニーズが高まっています。対面での相談価値が再評価され、リアル店舗の重要性が見直されているのです。
三菱UFJ銀行は2025年秋、約20年ぶりとなる新規店舗を大阪府箕面市の商業施設「みのおキューズモール」と都内で出店しました。窓口の営業時間を平日と土曜・祝日の11-18時とし、従来の平日9-15時という枠組みを大きく変更しています。
三井住友銀行は東京・大阪の一部店舗で平日の窓口営業を19時まで延長しました。さらに、カルチュア・コンビニエンス・クラブと組み、カフェやコワーキングスペースと組み合わせた「Olive LOUNGE(オリーブラウンジ)」を2024年から展開し、2025年4月には計6店舗となっています。
みずほ銀行は2025年3月から平日夕方や土日も営業する「みずほのアトリエ」の出店を開始しました。首都圏では営業時間を3時間延長する夕方営業も導入しています。
店舗改革の規模
この店舗戦略転換は、大規模な投資を伴うものです。三菱UFJ銀行は2024-26年度の3年間で計100億円以上を投じ、毎年約80店舗ずつ改装する計画を進めています。
三井住友銀行は現在約380カ所ある有人店舗のうち250カ所程度を、2025年度末までに個人向けの窓口業務や運用、アプリ利用相談などに機能を絞った軽量店舗へ転換する方針です。
人員確保の課題
働き方改革との両立
営業時間を延長し、土日も営業する店舗を増やすには、それに見合った人員配置が必要です。しかし、メガバンクは簡単に人員を増やせない状況にあります。
働き方改革の進展により、育児休業や短時間勤務制度の利用者が増加しています。これ自体は従業員のワークライフバランス向上という観点から歓迎すべきことですが、営業店の人員配置には大きな影響を及ぼしています。
2025年10月には育児・介護休業法の改正が施行され、企業は柔軟な働き方の選択肢をさらに拡大する必要があります。時差出勤やテレワークへの対応も求められており、銀行業界でも対応が急務となっています。
既存の人員配置の限界
従来の銀行店舗は、平日9-15時の営業時間に合わせた人員配置が基本でした。この時間帯に集中的に人員を配置し、16時以降は事務処理や翌日の準備に充てるという運営モデルです。
しかし、夜間や休日も営業するとなると、このモデルは通用しません。シフト制を導入し、早番・遅番を組み合わせる必要がありますが、フルタイムで働ける従業員が限られている中で、複雑なシフト管理は大きな負担となります。
人事部だけでなく、現場の支店長クラスも人員配置に頭を悩ませている状況です。特に、顧客対応の質を落とさずに効率化を図ることが求められており、単なる人員削減ではない工夫が必要とされています。
各行の解決策
みずほ銀行:内定者アルバイトの活用
みずほフィナンシャルグループは、大手銀行として初めて支店窓口業務を担当する学生アルバイトの採用を開始しました。これは人員確保における画期的な取り組みです。
2025年1月から4月入社予定の内定者13人を、首都圏9支店(町田支店、池袋支店など)で試行採用しました。週3日、1日4~6時間のシフトで、時給は1200円程度です。業務内容は、ロビー対応や口座開設の受付業務、インターネットバンキングの照会対応などです。
2025年12月には、都内のある支店で内定者の岡遥花さんが窓口業務で顧客にタブレットを見せながら、個人情報の取り扱いについて説明する姿が見られました。入行前から実務経験を積むことで、入社後のスムーズな立ち上がりも期待できます。
みずほ銀行は2025年度に地方支店のほか、みずほ信託銀行やみずほ証券にも拡大し50人規模にする方針です。最短2026年度には内定者以外の一般学生からも応募を受け付け、将来的には400人規模の採用を目指しています。
デジタル化による効率化
「みずほのアトリエ」では、印鑑や通帳を利用しない手続き方法が導入されています。これにより待ち時間が短縮され、店舗内の混雑が緩和されることで、少ない人員でも運営が可能になります。
新型店は7~10人で運営し、既存の個人専用店と比べ運営人員を半数にしています。店舗面積も半分以下とすることで、店舗運営にかかる費用も削減しています。
三菱UFJ銀行も、店頭での口座開設や住所変更について、来店客がタブレットで手続きし、行員がサポートする体制に切り替えています。これにより、行員一人あたりの対応件数を増やすことが可能になりました。
機能特化型店舗
三井住友銀行の「Olive LOUNGE」のように、資産運用相談に特化した店舗では、必要な人員配置が従来型店舗とは異なります。預金の入出金や振込などの定型業務は、ATMやデジタルチャネルに誘導し、店舗では高付加価値なコンサルティング業務に人員を集中させています。
この機能特化により、少数精鋭での運営が可能になり、夜間・休日営業でも人員配置の負担を軽減できます。
働き方改革との両立への模索
柔軟な勤務形態の導入
各メガバンクは、働き方改革を推進しながら営業時間を拡大するという難題に取り組んでいます。その解決策として注目されているのが、柔軟な勤務形態の導入です。
時差出勤制度を活用し、夜間営業の店舗では遅めの出勤時間を設定する行員を配置します。逆に、早朝から営業する店舗では早番の行員が担当します。これにより、従業員の生活リズムを維持しながら、長時間営業を実現できます。
短時間勤務者の活用も進んでいます。育児や介護で短時間勤務を選択している従業員を、特定の時間帯に集中的に配置することで、人員の効率的な活用が可能になります。
テレワークとの組み合わせ
事務処理や相談準備などのバックオフィス業務については、テレワークを活用する動きも広がっています。これにより、店舗に常駐する人員を最小限に抑えながら、必要なサポート体制を維持できます。
オンライン相談とリアル店舗の組み合わせも、人員配置の柔軟性を高めています。専門性の高い相談については、別の拠点にいる専門家とオンラインでつなぎ、顧客対応を行うハイブリッド型の運営も試行されています。
課題と今後の展望
質の維持
人員配置の効率化を進める上で最も重要なのは、サービスの質を維持することです。特に、金融商品の販売や資産運用相談では、高度な専門知識と経験が求められます。
内定者アルバイトは、基本的な窓口業務には対応できますが、複雑な相談には対応できません。デジタル化によって効率化できる業務と、人間による対応が必要な業務を明確に区別し、適切な人員配置を行う必要があります。
教育訓練の充実
学生アルバイトや短時間勤務者を活用するには、効率的な教育訓練プログラムが不可欠です。限られた時間で必要なスキルを身につけてもらうには、動画教材やeラーニングの活用、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の体系化が求められます。
みずほ銀行の内定者アルバイト制度は、入社前教育という側面もあります。実務を通じて銀行業務を理解することで、入社後の早期戦力化につながります。この取り組みが成功すれば、他行も追随する可能性があります。
地方展開の難しさ
都市部では学生アルバイトの確保も比較的容易ですが、地方ではそう簡単ではありません。人口減少が進む地域では、そもそも働き手の確保自体が困難です。
地方店舗では、より高度なデジタル化や、複数店舗の人員を柔軟に融通し合う仕組みが必要になるでしょう。「リアル店舗再起動」というニュースでは、近隣店から人員を融通したり、アバターで接客したりする取り組みも紹介されています。
規制との関係
銀行業務は、厳格な規制の下で運営されています。2016年の銀行法施行規則の改正で銀行が柔軟に営業時間を変えられるようになり、金融庁は2018年に銀行の平日休業も可能にしました。
しかし、セキュリティや顧客保護の観点から、すべての業務を学生アルバイトに任せることはできません。今後、どこまで業務を委託できるのか、規制当局との対話も重要になってきます。
まとめ
メガバンクの夜間・休日営業拡大は、「金利ある世界」における対面チャネルの価値再評価を背景としています。しかし、働き方改革の進展により、人員確保は各行共通の課題となっています。
みずほ銀行の内定者アルバイト活用、デジタル化による省力化、機能特化型店舗の展開など、各行は様々な工夫を凝らして、この難題に取り組んでいます。柔軟な勤務形態の導入やテレワークとの組み合わせも、解決策の一つとして注目されています。
今後の焦点は、サービスの質を維持しながら、いかに効率的な人員配置を実現するかです。地方展開や教育訓練の充実など、克服すべき課題は多く残されています。
銀行業界の人員配置改革は、他のサービス業にとっても参考になる取り組みです。働き方改革と顧客接点強化の両立という課題は、多くの業界に共通するテーマであり、メガバンクの挑戦から学べることは多いでしょう。
参考資料:
関連記事
メガバンク店舗改革、夜間・休日営業と人材確保の両立戦略
メガバンクが新規出店と営業時間延長に舵を切る中、働き方改革と人繰りの課題に直面。内定者アルバイトやDX活用など、新たな人材確保策を解説。
決算上振れ期待ランキング、ホンダ首位の理由を解説
2026年3月期の純利益上振れ期待が高い企業ランキングでホンダが首位に。アジアの二輪事業好調と金利上昇で恩恵を受けるメガバンクの強さ、日経平均最高値圏の背景にある企業業績を分析します。
「働きたい人は働く」で日本経済は再生するのか
人手不足が深刻化するなか、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度の拡大が議論されています。労働時間規制の緩和は経済成長の処方箋となるのか、論点を整理して解説します。
りそな銀行社長に千田氏昇格、グループ経営の行方
りそなホールディングスがグループ3行の社長交代人事を発表。りそな銀行は千田一弘氏が新社長に。人事の背景、グループの経営戦略、金利上昇環境での課題を解説します。
純利益上振れ期待ランキング、ホンダ首位の理由とメガバンクの好調
2026年3月期の純利益上振れ期待でホンダが首位に。アジア二輪事業の好調が背景です。金利上昇でメガバンクも上位にランクイン。日経平均最高値圏で注目すべき業績上方修正候補を詳しく解説します。
最新ニュース
中国全人代を前に習近平の軍粛清が止まらない理由
3月の全人代開催を控え、習近平政権による軍高官の粛清が加速しています。張又侠の失脚、100人超の将校排除の背景と、人民解放軍への深刻な影響を解説します。
「ECの死」到来か、AIショッピングエージェントの破壊力
「SaaSの死」に続き「ECの死」が叫ばれています。AIショッピングエージェントがECビジネスをどう変えるのか、AmazonとWalmartの異なる戦略から読み解きます。
ハイアット東京を1260億円で取得、REIT最大規模
ジャパン・ホテル・リートがハイアットリージェンシー東京を国内REIT史上最大の1260億円で取得。好調なインバウンド需要を背景に、ホテル投資市場が過去最高を更新する中での大型案件を解説します。
メキシコが週40時間労働へ憲法改正、残業超過で3倍賃金の衝撃
メキシコが週40時間労働への憲法改正を承認。残業超過で3倍賃金の義務化が日本企業の製造拠点に与える影響と対応策を、段階的スケジュールとともに解説します。
楽天グループが金融3社統合へ、10月めど再編の全容
楽天グループが楽天銀行・楽天カード・楽天証券の金融3社を2026年10月をめどに統合する再編計画を発表。金利上昇時代の競争激化を背景に、エコシステム強化とコスト削減を狙う大型再編の詳細と課題を解説します。