メガバンク店舗改革、夜間・休日営業と人材確保の両立戦略
はじめに
店舗統廃合を進めてきたメガバンクが、新規出店と営業時間延長に舵を切り始めています。三菱UFJ銀行は約20年ぶりに新型店舗を開業し、平日夜間や土日も営業を開始しました。一方で、「人員はそう簡単に増やせない」という現実があります。
育児休業や短時間勤務制度の取得者が絶えない中、銀行は働き方改革と顧客接点の拡大を両立させる必要に迫られています。本記事では、メガバンクの店舗改革と人材確保の新たな取り組みについて解説します。
メガバンクの新規出店戦略
三菱UFJ銀行「エムットスクエア」の挑戦
三菱UFJ銀行は2025年9月、約20年ぶりとなる新型店舗「エムットスクエア」1号店をJR高輪ゲートウェイ駅直結の商業施設内に開業しました。従来の銀行店舗が平日午後3時で終業するのに対し、エムットスクエアは営業時間を大幅に延長しています。
具体的には、平日と土曜日は午前11時から午後6時まで有人で口座開設や運用相談を受け付けます。有人受付終了後も午後8時まで無人端末でデジタル取引の案内を行い、日曜日も無人端末が利用可能です。法人向け取引は扱わず、個人顧客に特化した店舗となっています。
現役世代へのアプローチ
営業時間延長の狙いは、平日日中に来店が難しい現役世代や子育て世帯の取り込みです。スマートフォン普及により来店客が減少する中、あえてリアル店舗を強化し、対面相談のニーズに応える戦略です。
三菱UFJ銀行は全国に約320店の支店・出張所を構えており、将来的に80〜100店程度を新型店に転換または新規出店する方針です。2026年度後半にはデジタルバンクも新設予定で、デジタルとリアルの融合を進めています。
人材確保の課題と新たな取り組み
「人繰り」という共通課題
メガバンクの幹部は「育児休業や短時間勤務制度の取得者が絶えずいる。人繰りはどの銀行も共通の課題だ」と語っています。働き方改革で柔軟な勤務形態が広がる一方、夜間・休日営業のための人員確保は容易ではありません。
銀行業界は長年、新卒一括採用と終身雇用を前提としてきました。しかし人手不足が深刻化する中、従来の人材確保策だけでは限界があります。
みずほ銀行の内定者アルバイト
みずほフィナンシャルグループは、大手行で初めて支店窓口業務を担当する学生アルバイトの採用を始めました。2025年1月から、2025年4月入社予定の内定者13人を対象に首都圏9支店で試行を開始しています。
業務内容は、午前9時〜午後3時の営業時間中はロビー対応や口座開設受付、インターネットバンキングの照会対応です。午後3時以降は管理者の補助として資料作成や電話対応を行います。顧客情報を扱うため、2日間の事前研修を実施し、支店には指導役を配置しています。
時給は1,200円程度で、交通費と昼食費補助が支給されます。原則週3日、1日4〜6時間のシフト制で、入社までの約3カ月間働きます。
今後の展開
みずほは2025年度も内定者での試行を拡大し、みずほ信託銀行やみずほ証券にも広げて50人規模にする予定です。効果が認められれば、最短2026年度から一般学生の応募も受け付けます。
将来的には400弱ある拠点に各1人ずつ、計400人規模の学生アルバイトを採用する構想です。人手不足解消と入社前研修の一石二鳥を狙っています。
デジタル化による業務効率化
次世代型店舗への移行
三井住友銀行は2017年から「店舗改革」を推進し、店舗を「事務手続きの場」から「コンサルティングの場」へと再定義しました。約430店すべてで「次世代型店舗」への移行が完了しています。
店頭ではタブレットやATMで手続きが可能な場合、窓口で待たせることなくスマホアプリやATMでの手続きを案内します。タブレットを活用したペーパーレス・印鑑レスの取引も実現し、2026年度までにすべての事務手続きをゼロにすることを目標としています。
タブレット活用の具体例
地方銀行でもタブレット活用が進んでいます。肥後銀行では、フロア案内係がタブレットを持ち、重複する書類申請を一元化してカウンター窓口のやり取りをスムーズにしています。
口座開設、住所変更、インターネットバンキング申し込みなどがタブレットで完結し、運転免許証やマイナンバーカードからの自動読み取りも可能です。外国送金や住宅ローン契約もタブレット1台で手続きできる仕組みが広がっています。
三菱UFJ銀行のDX戦略
三菱UFJ銀行は2024〜2026年度の新中期経営計画でDX戦略を強化しています。「MUFG NEXT」ではセルフ型端末を設置し、デジタル完結で快適な体験を提供。対面相談が必要な顧客には「MUFG NEXT(コンサルティング・オフィス)」で対応する二層構造を展開しています。
働き方改革との両立
銀行における柔軟な働き方
三井住友銀行は在宅勤務制度やサテライトオフィスを導入し、2025年6月時点で行員専用オフィス13拠点と外部のシェアオフィス約200拠点が利用可能です。「業務効率化」を全従業員の人事評価に反映し、RPA活用による効率化も進めています。
京葉銀行は2021年4月からフレックスタイム制を導入し、行員が始業・終業時刻を自ら決定できるようにしました。水曜日を一斉定時退行日とし、「退行時間申告ツール」で労働時間への意識を高めています。
みずほ銀行の昼休業導入
みずほ銀行は2025年9月から一部店舗で窓口営業時間を変更し、昼休業を導入しました。これは店舗環境の変化に対応し、効率的な店舗運営を通じて持続可能な金融サービスを提供することが目的です。
営業時間の見直しにより、従業員の負担軽減と業務効率化を同時に実現する試みです。
注意点・今後の展望
DX投資の課題
経済産業省の「2025年の崖」問題では、DXを推進しなければ2025年から2030年まで毎年最大12兆円の経済損失が生じると警告されています。2018年の調査では金融機関のレガシーシステム利用率は100%とされ、銀行業界のDX対応は遅れていました。
IT人材が2025年に約43万人不足するとの予測もあり、DX推進には人材面の課題も大きいです。
地方銀行への影響
メガバンクの店舗改革は、地方銀行にも影響を与えます。人口減少が進む地方では、店舗維持のコスト負担が重くなっています。デジタル化による効率化は必須ですが、高齢顧客への対面サービス維持も求められます。
人材確保策の多様化
内定者アルバイトのような新たな人材確保策は、今後他行にも広がる可能性があります。正社員だけでなく、多様な雇用形態を組み合わせた店舗運営が標準となるかもしれません。
まとめ
メガバンクは店舗統廃合から一転し、新規出店と営業時間延長に踏み出しています。しかし、働き方改革の進展により「人繰り」は共通の課題となっており、従来の人材確保策だけでは対応できません。
みずほ銀行の内定者アルバイト、各行のタブレット活用やDX推進など、新たな取り組みが始まっています。デジタルとリアルを融合させ、限られた人員で効率的に顧客接点を拡大する戦略が、今後の銀行店舗運営の鍵となりそうです。
参考資料:
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