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by nicoxz

メタウォーターがAIで水道点検を自動化、業務時間6割削減へ

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はじめに

日本の水道インフラは深刻な課題を抱えています。全国の水道管のうち約2割が法定耐用年数の40年を超え、水道事業に携わる技術者は減少の一途をたどっています。こうした中、水処理最大手のメタウォーターがNTTグループと手を組み、AIとIoTを活用した上下水道施設の自動点検に本格的に乗り出しました。将来的には点検業務の時間を約6割削減できる見通しで、老朽化と人手不足という二重の課題に対するブレークスルーとして注目されています。

メタウォーターとNTTグループによる実証実験の全容

実証実験の概要と目的

メタウォーター、NTT、NTT東日本、NTT-MEの4社は、2025年10月から共同で上下水道施設における保守点検業務の自動化に向けた実証実験を開始しています。実施場所は宇都宮市上下水道局の清原水再生センターで、実験期間は2027年3月までの約1年半です。メタウォーターグループは同センターの包括的維持管理業務を2024年4月から2029年3月まで受託しており、この業務の品質向上と効率化を目的として実証に取り組んでいます。

活用する技術とその仕組み

本実証実験では、大きく2つの技術領域が柱となっています。1つ目は通信基盤の整備です。IEEE 802.11ah(Wi-Fi HaLow)と呼ばれる通信規格を活用し、施設内のネットワーク環境を最適化します。Wi-Fi HaLowは900MHz帯の周波数を使用するため、従来のWi-Fiと比べて通信距離が長く、コンクリート構造物の内部にも電波が届きやすいという特長があります。水道施設のように広い敷地に分散した設備を監視するのに適した技術です。

2つ目はAIとIoTセンサーによる異常検知です。施設内に設置したネットワークカメラやIoTセンサーが画像・音声・振動などのデータを常時収集します。これらのデータを生成AIが分析・監視し、設備の異常を検知した場合は現場作業員に警報を通知します。同時にメタウォーターのオペレーションサポートセンター(OSC)にも情報が送られ、ベテランスタッフが必要な助言や指示を行うことで、プラントの安定運転を実現する仕組みです。

期待される効果と今後の展開

この取り組みが本格実装されれば、点検業務の時間を約6割削減できると見込まれています。従来は熟練の技術者が現場を巡回し、目視や聴覚で設備の状態を確認していました。これをAIが24時間自動で監視することにより、人的リソースをより高度な判断業務に集中させることが可能になります。2027年3月の実証終了後は本格実装に向けた検討を進める予定で、他の自治体への展開も視野に入れています。

水道インフラを取り巻く深刻な課題

老朽化する設備と進まない更新

日本の水道インフラの老朽化は年々深刻さを増しています。2025年時点で、全国の水道管のうち約17.6万kmが法定耐用年数の40年を超えています。一方で、管路の更新率は年間わずか約0.65%にとどまっており、単純計算では全ての管路を更新するのに150年以上かかる計算です。水道管の破裂や漏水などの事故は年間2万件以上発生しており、インフラの維持管理は喫緊の課題となっています。

上下水道の処理施設も同様に老朽化が進んでいます。浄水場や下水処理場に設置されたポンプ、配管、電気設備などは経年劣化が避けられず、計画的な点検と修繕が不可欠です。しかし、限られた予算と人員の中で全ての設備を適切に管理することは、多くの自治体にとって大きな負担となっています。

技術者の減少と高齢化

設備の老朽化と並行して、水道事業を支える人材の不足も深刻化しています。水道事業に携わる職員数はピーク時から約3割減少しており、特に技術系職員の約40%が50歳以上という偏った年齢構成になっています。20歳代の職員は10%前後にとどまり、ベテラン技術者の退職に伴うノウハウの喪失が懸念されています。下水道分野では過去15年間で職員数が25%以上減少しました。

人口減少が進む地方の小規模自治体では、専門知識を持つ技術者の確保がとりわけ困難です。こうした状況を踏まえると、AIやIoTを活用した点検業務の自動化・効率化は、もはや選択肢ではなく必須の取り組みといえるでしょう。

広がるAI活用の動き

業界全体で加速するDX

水道インフラへのAI活用はメタウォーターだけにとどまりません。日立システムズは2025年5月に、AIを活用した水道設備の異常検知サービス「AI異常検知サービス」の提供を開始しました。配水管に設置したセンサーから水圧や流量のリアルタイムデータを取得し、AIが生成した正常時の基準値と比較することで、管路の異常を早期に検知する仕組みです。神戸市水道局との共同研究をもとに実用化されたもので、水道管破裂などの大きな被害を未然に防ぐ効果が期待されています。

また、クボタはディープラーニングを用いた水道管路の老朽度診断技術を開発し、将来の漏水事故率を予測する取り組みを進めています。6,000件の腐食調査データを学習させたAIモデルにより、従来手法と比較して診断精度が大幅に向上したと報告されています。

国の支援策と政策的後押し

国土交通省も上下水道のDX推進を重要施策と位置付けています。2025年3月には「上下水道DX技術カタログ」を公開し、AI、ドローン、非破壊の地盤探査技術など45件の先端技術を掲載しました。さらに「上下水道DX推進事業」として、先端技術の導入に取り組む自治体への財政支援も実施しています。下水道分野では「AIによる下水処理場運転操作DX検討会」を開催し、AIの本格的な活用に向けた制度面の整備も進めています。

注意点と今後の展望

AIによる自動点検は大きな可能性を秘めていますが、いくつかの課題も残されています。まず、AIの判断精度の問題です。水道施設は設備ごとに特性が異なるため、汎用的なモデルだけでは対応が難しい場面も想定されます。施設固有のデータを蓄積し、モデルを継続的に改良していく運用体制が求められるでしょう。

また、導入コストの問題もあります。センサーやカメラの設置、通信インフラの構築、AIシステムの導入には相応の初期投資が必要です。特に財政基盤の弱い小規模自治体にとっては、費用対効果の見極めが重要になります。国の財政支援策や、複数自治体での共同導入といった工夫が鍵を握るでしょう。

さらに、AIはあくまで点検を補助するツールであり、最終的な判断は人間が行う必要があります。技術者の育成とAI活用のバランスをいかに取るかが、今後の大きな論点となりそうです。

まとめ

メタウォーターとNTTグループの取り組みは、老朽化と人手不足という日本の水道インフラが直面する二重の課題に対し、AIとIoTの力で解決策を示すものです。点検業務時間の6割削減という目標が実現すれば、限られた人材をより効果的に配置し、水道サービスの品質を維持・向上させることが可能になります。2027年3月までの実証実験の成果が、全国の水道事業者にとって重要な指針となることが期待されます。

参考資料

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