ミネアポリス射殺事件で政府閉鎖危機が深刻化
はじめに
2026年1月、米国ミネソタ州ミネアポリスで発生した移民取り締まり中の連邦職員による射殺事件が、米国政治に大きな波紋を広げています。この事件をきっかけに、民主党上院議員らが政府歳出法案への反対を相次いで表明し、1月30日に期限を迎えるつなぎ予算の成立が危ぶまれる事態となっています。
本記事では、ミネアポリスで何が起きたのか、なぜこの事件が政府閉鎖という政治的危機に発展しているのかを詳しく解説します。移民政策をめぐる連邦政府と地方自治体の対立、そして米国の政治的分断の現状を理解する上で重要な出来事です。
ミネアポリスで相次ぐ射殺事件
1件目:レニー・グッドさん射殺事件(1月7日)
2026年1月7日午前9時30分頃、ミネアポリス南部のイースト34丁目とポートランドアベニュー付近で、米移民・税関捜査局(ICE)職員による発砲事件が発生しました。被害者は37歳のレニー・ニコル・グッドさんで、6歳の息子を学校に送り届けた帰りでした。
映像によると、グッドさんの車に複数のICE職員が接近し、1人の職員が車の前に立ちました。グッドさんが車をバックさせ、方向を変えて前進しようとしたところ、職員のジョナサン・ロス氏が複数発を発砲しました。グッドさんは3発の銃弾を受け、うち1発は頭部に命中し、搬送先の病院で死亡しました。重要なのは、グッドさんは米国市民であり、移民取り締まりの対象ではなかったという点です。
2件目:アレックス・プレッティさん射殺事件(1月24日)
1月24日午前9時頃、再びミネアポリス南部で連邦職員による射殺事件が発生しました。被害者のアレックス・ジェフリー・プレッティさん(37歳)は、退役軍人省の集中治療室で働く看護師でした。
国土安全保障省は「職員がプレッティさんから武器を取り上げようとした際の正当防衛」と説明しましたが、現場の映像ではプレッティさんが手にしていたのは銃ではなく携帯電話でした。ミネアポリス警察のオハラ本部長は、プレッティさんが銃を合法的に所持する許可を持つ「合法的な銃所有者」だったと述べています。
3件目の発砲事件
1月14日には、ベネズエラ国籍のフリオ・セサル・ソサ・セリアさんが移民当局との揉み合いの中で脚を撃たれる事件も発生しています。
連邦政府と地方自治体の激しい対立
トランプ政権の主張
国土安全保障省とトランプ大統領は、これらの事件について職員の正当防衛を主張しています。1件目の事件では「暴徒が車で職員をひき殺そうとした」と説明しました。トランプ大統領は、ミネソタ州のウォルズ知事やミネアポリスのフレイ市長との批判合戦を展開し、反乱法を発動して州に軍を派遣する可能性まで示唆しました。
地方自治体の猛反発
一方、地方自治体はこれに強く反発しています。フレイ市長は事件映像を確認した上で、正当防衛という主張を「でたらめ」と断言し、「ICEは今すぐミネアポリスから出て行け。あなたたちは街を安全にするどころか、正反対のことをしている」と激しく批判しました。
ウォルズ知事も「連邦政府がこの捜査を主導すると信頼することはできない」として、州当局による独自捜査を要求しています。オハラ警察本部長は「2026年に入ってからミネアポリスで起きた殺人3件のうち、2件は連邦移民当局の職員によるものだ」と指摘しました。
一定の進展
この対立の中、フレイ市長とトランプ大統領の電話会談が行われました。フレイ市長によると、大統領は「現状を続けることはできない」と同意し、一部の連邦職員がミネアポリスから離れることになったとのことです。国境警備隊のグレゴリー・ボヴィーノ司令官らは近くミネアポリスを離れる予定と報じられています。
政府閉鎖危機の深刻化
歳出法案の審議状況
米国の2026会計年度(2025年10月〜2026年9月)予算案は、全12の歳出法案で構成されています。このうち農務省関連など6法案は成立済みですが、国防総省、国土安全保障省、保健福祉省などに関する残り6法案は下院を通過したものの、上院での審議が控えています。
昨年秋には過去最長となる43日間(10月1日〜11月12日)の政府閉鎖があり、その後成立したつなぎ予算は2026年1月30日に期限を迎えます。
民主党の反対表明
ミネアポリスでの2件目の射殺事件を受け、民主党上院トップのシューマー院内総務は、共和党が国土安全保障省への予算削減に同意しない限り、歳出法案を阻止すると表明しました。複数の中道派民主党議員も反対を早々と表明しています。
定数100の上院で共和党は53議席を占めていますが、歳出法案の通過には60票が必要です。つまり民主党から少なくとも7票の賛成が必要となりますが、現状では確保の見通しが立っていません。
閉鎖の影響範囲
政府閉鎖となった場合、その影響は国土安全保障省にとどまりません。国防総省、労働省、教育省、国務省、財務省、厚生省など広範囲に及び、労働統計局による雇用統計などの経済指標の発表が遅れる可能性もあります。
全米に広がる抗議運動
ミネアポリスでの事件を受け、1月10日には同市で数万人が参加する大規模デモが実施されました。参加者は「ICEは出て行け」と叫び、トランプ政権の強硬な移民取り締まりに抗議しました。
抗議運動はニューヨーク、フィラデルフィアなど東部都市にも広がり、権利擁護団体によれば全米で1000以上のデモが予定されています。2020年に同じミネアポリスで発生したジョージ・フロイド事件を想起させる事態となっています。
今後の注意点と展望
1月30日の期限
最も注目すべきは1月30日のつなぎ予算期限です。それまでに新たな歳出法案が成立しなければ、再び政府閉鎖に陥ります。民主党が予算を人質に取る形で移民政策の変更を求める構図となっており、両党の駆け引きは熾烈を極めそうです。
移民政策の行方
トランプ政権が「オペレーション・メトロ・サージ」と呼ぶ都市部での移民取り締まり強化は、今回の事件で大きな逆風を受けています。一部職員の撤収で事態は一時的に沈静化する可能性がありますが、政権の移民政策の根本的な変更につながるかは不透明です。
司法判断の影響
射殺事件については司法省が捜査を行っていますが、州当局との管轄権をめぐる争いも続いています。捜査結果や今後の訴訟の行方が、移民政策の執行方法に影響を与える可能性があります。
まとめ
ミネアポリスでの移民取り締まり中の射殺事件は、単なる個別の事件にとどまらず、米国の移民政策、連邦と州の関係、そして政府予算という複合的な政治問題に発展しています。
1月30日の予算期限を前に、政府閉鎖という最悪のシナリオを回避できるかが焦点となっています。この問題の帰結は、トランプ政権の移民政策の今後を占う重要な指標となるでしょう。引き続き、歳出法案の審議状況と両党の交渉の行方に注目が必要です。
参考資料:
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