フジHDが村上氏側と和解、2350億円で株買取へ
はじめに
フジ・メディア・ホールディングス(FMH)は2026年2月3日、投資家の村上世彰氏が関係するグループとの間で大きな合意に達しました。村上氏側が保有するFMH株を2350億円を上限に買い取り、同時に不動産事業への外部資本受け入れを検討するという内容です。
この決定により、約2年にわたり続いてきた両者の対立は収束へ向かいます。村上氏側は大規模買い付け行為の提案を取り下げ、FMHは経営の安定を確保しました。本記事では、今回の合意に至った経緯、不動産事業をめぐる議論、そしてフジテレビを取り巻く経営環境について詳しく解説します。
2350億円の大規模自社株買い
取引の概要
FMHは7100万株を上限に自己株式を取得すると発表しました。発行済み株式総数(自己株式を除く)に対する割合は34.37%にあたり、取得総額の上限は2350億円です。
取引は東京証券取引所の自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)を通じて実施されます。これにより、野村絢氏(村上世彰氏の長女)や関連会社のレノなどが保有する株式が売却されます。
村上氏側の主張と譲歩
村上氏側は2025年12月、FMH株を追加取得する場合は1株あたり4000円でのTOB(株式公開買い付け)を想定していると公表していました。さらに、FMH株を3分の1まで買い増すという通告も行っていました。
投資グループは村上氏が関係する投資会社3社と野村絢氏個人で構成され、企業価値向上や株主還元を目的に自己資本利益率(ROE)改善を求めてきました。今回の合意で、村上氏側は大規模買い付け行為の提案を取り下げる方針となりました。
不動産事業をめぐる対立と決着
サンケイビル切り離し要求
今回の交渉の焦点となったのは、FMHの子会社であるサンケイビルを中心とする不動産事業です。村上氏側は「本業ではない不動産事業の切り離し」を一貫して要求してきました。
サンケイビルは、79社からなるフジサンケイグループの基幹社の一つです。「ビル事業」を基盤とし、2005年に「住宅事業」、2011年に「シニア事業」、2015年に「ホテルリゾート事業」に参入し、総合デベロッパーへと成長を遂げています。
FMHの営業利益の半分以上を不動産事業が占めており、その重要性は明らかです。しかし村上氏側は、メディア・コンテンツ事業との相乗効果が少ないと指摘し、切り離しによる資本効率の向上を訴えてきました。
外部資本受け入れという妥協点
今回の合意では、FMHが不動産事業への外部資本の受け入れに向けた検討を始めることになりました。完全な切り離しではなく、部分的な外部資本導入という形で、両者の妥協点が見出されました。
清水賢治社長は「立場の違いで視点が違ったが、一致しているのは企業価値向上だった」と述べています。経営陣としては、アクティビストの要求を全面的に受け入れるのではなく、自社の判断で事業再編を進める形を維持しました。
アクティビスト時代の日本企業
第3次アクティビストブームの到来
日本は現在、第3次アクティビストブームのさなかにあります。アイ・アール ジャパンによると、日本企業を対象にアクティビスト活動をしている国内外のファンド数は2024年に73社と、5年間で8割増えました。日本株への投資額は9兆7000億円に達し、同期間で2倍になっています。
2024年6月の株主総会で株主提案を受けた企業数は過去最多となりました。東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄の改善を促す方針を打ち出したことで、アクティビストの活動がさらに活発化しています。
不動産事業が標的に
FMHのケースと同様に、本業以外に不動産を保有する企業がアクティビストの標的となる事例が増えています。
米国のヘッジファンド、エリオット・マネジメントは東京ガスの株式を5%超取得し、都内の一等地に保有する不動産の売却を求めているとされています。大日本印刷に対しても、エリオットは大量保有を明らかにした後、同社はROE10%を目標に掲げる資本効率改善策を発表しました。
「アクティビスト地獄」への警鐘
みずほ証券の菊地正俊チーフ株式ストラテジストは「現在の日本は1980年代の米国に似ている」と指摘しています。当時の米国はPBRが1倍を下回る企業が多く、アクティビストなどが受け皿となって企業再編が進みました。
カタリスト投資顧問の平野太郎社長は「日本のアクティビスト活動はまだ欧米の2〜3割の水準であり、さらに増える」と予測しています。
フジテレビを取り巻く経営環境
広告収入の大幅減少
FMHにとって今回の合意は、広告収入が大幅に減少する中での決断でした。2025年3月期のフジテレビの広告収入は従来計画を233億円下回る1252億円となる見通しです。
元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルをめぐる対応に批判が高まり、CM出稿の見合わせが相次ぎました。2025年2月25日現在、取引のあるスポンサーは72社にとどまり、通常の400社以上から大幅に減少しています。
不動産事業の重要性
こうした状況下で、不動産事業がFMHの経営を下支えする構図がより鮮明になっています。売上面ではメディア事業が主力ですが、利益面では都市開発事業が主力となっています。
フジテレビの広告収入がゼロになっても、他の事業収益が現状を維持できる限り、短期的な経営危機を回避できるとの見方もあります。FMHとしては年間5664億円以上の売上、経常利益391億円を計上しており、財務基盤は依然として堅固です。
注意点・今後の展望
外部資本導入の具体化
今回の合意では「外部資本の受け入れに向けた検討を始める」とされていますが、具体的な内容はまだ明らかになっていません。どの程度の資本を、どのような形で受け入れるかは今後の検討課題です。
米投資ファンドのダルトン・インベストメンツも、FMHがメディア・コンテンツ事業、サンケイビルが不動産事業に集中することで企業価値が向上すると主張しており、他のアクティビストからの提案も続く可能性があります。
メディア事業の立て直し
不動産事業の議論が落ち着いた今、FMHの次の課題はメディア事業の立て直しです。スポンサーとの関係修復、視聴率向上策、組織改革など、複数の課題を乗り越える必要があります。
FMHの取引先は約1万社にのぼり、そのうち9割以上が未上場企業です。業績悪化が長引けば、制作会社や芸能事務所など幅広い業種に影響が及ぶ可能性があります。
まとめ
FMHと村上氏側の合意は、日本企業とアクティビストの関係を象徴する事例となりました。2350億円という大規模な自社株買いと、不動産事業への外部資本受け入れ検討という譲歩により、当面の対立は収束しました。
しかし、メディア事業の業績悪化という根本的な課題は残されています。不動産事業に支えられながら、本業の立て直しにどう取り組むかが、FMHの今後を左右することになります。アクティビスト時代の日本企業経営のあり方を問う一つのケーススタディとして、引き続き注目が集まります。
参考資料:
関連記事
フジHDが村上氏に譲歩、2350億円の自社株買いへ
フジ・メディア・ホールディングスが村上世彰氏側に大幅譲歩。2350億円の自社株買いと不動産事業の再編検討を決定。一連の不祥事後の経営再建の行方を解説します。
フジHDが2350億円の自社株買い決定、村上氏との攻防に終止符
フジ・メディア・ホールディングスが村上世彰氏側に大幅譲歩し、2350億円規模の自社株買いを発表。アクティビストとの対立は収束へ向かうが、放送事業の構造的課題は残されたままです。
フジHDが村上氏側と決着、2350億円の自社株買いで対立収束へ
フジ・メディア・ホールディングスが村上世彰氏側の株式を2350億円で買い取り、不動産事業への外部資本導入を検討。アクティビストとの長期対立が収束に向かいます。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。
経産省が企業買収指針の再検討へ、株主優先主義に歯止め
経産省がM&A行動指針の見直しに着手。価格重視で中長期成長が軽視される懸念からアクティビスト対策を強化。企業の説明責任も焦点に。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。