三井物産が航空機・船舶のデジタル証券を国内初発売へ
はじめに
三井物産が2026年度にも、航空機や船舶の所有権を小口化したデジタル証券(セキュリティトークン)を発売する方針を明らかにしました。不動産分野ではすでに実績のあるデジタル証券ですが、航空機や船舶を対象とした商品は日本初となります。
航空機や船舶は数十億円から数百億円規模の資産であり、これまで個人投資家が直接投資することは困難でした。しかし、ブロックチェーン技術を活用した小口化により、少額から投資できる新たな選択肢が生まれます。
本記事では、デジタル証券の仕組みと航空機・船舶市場への応用、そして個人投資家にとっての意義について詳しく解説します。
デジタル証券(セキュリティトークン)とは
基本的な仕組み
デジタル証券とは、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を用いて権利の移転・記録が行われる証券です。従来の株式や債券が証券保管振替機構(ほふり)を通じて管理されるのに対し、デジタル証券はブロックチェーン上で取引が完結します。
2020年5月に施行された改正金融商品取引法では、デジタル証券は「電子記録移転有価証券表示権利等」として法的位置付けが明確化されました。これにより、日本でも本格的なデジタル証券の発行・流通が可能になりました。
ブロックチェーンの特性を活かすことで、取引の透明性が向上し、中間コストの削減も実現できます。投資商品をどれだけ小口化してもコストがほぼ変わらないため、これまで機関投資家や富裕層にしか開かれていなかった投資機会を、一般の個人投資家にも提供できるようになります。
日本市場の発展状況
日本のデジタル証券市場は急速に成長しています。2023年12月には、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が運営するセキュリティトークン取引所「START」が稼働を開始し、二次流通市場も整備されました。
三井物産グループの三井物産デジタル・アセットマネジメント(MDM)は、日本初のデジタルネイティブなアセットマネジメント会社として「ALTERNA(オルタナ)」サービスを展開しています。すでに14のデジタル証券公募ファンドを運用しており、不動産分野を中心に実績を積み上げてきました。
2025年7月には、MDMと三井住友信託銀行が共同で「オルタナ信託株式会社」を設立。初年度に1,000億円規模のセキュリティトークン組成を想定し、5年後には累計受託残高1兆円を目標に掲げています。
航空機・船舶リース市場の拡大
航空機リース市場の現状
世界の航空機リース市場は大きく成長しています。市場規模は2023年に約1,729億ドルと評価され、2032年には約4,017億ドルに達すると予測されています。
現在、世界で運航している約2.7万機の航空機のうち、約半数がリース会社や投資家の保有となっています。1970年代には航空機のリース比率はわずか3%程度でしたが、2020年には45%まで拡大しました。
日本企業も航空機リース市場で存在感を高めています。三井住友ファイナンス&リース(SMFL)はアイルランドのGoshawk Management Limitedを買収し、世界第2位の地位を確立。オリックスも2024年11月に1,500億円以上の投資を発表し、保有機数の倍増を目指しています。
船舶リース市場の動向
船舶リース市場も堅調な成長が見込まれています。2023年に約128.5億ドルと評価された市場規模は、2028年までに約259.9億ドルに成長すると予測されており、年平均成長率は15.12%に達します。
国際貿易の拡大やサプライチェーンの多様化により、海上輸送の需要は増加傾向にあります。船舶建造は中国、韓国、日本の3カ国で市場の94%を占めており、特にアジア地域での需要が高まっています。
デジタル証券との親和性
航空機や船舶は、デジタル証券化に適した資産特性を持っています。長期にわたる安定したリース収入が期待でき、実物資産としての担保価値も明確です。一方で、1機あたり数十億円から数百億円という高額な資産であるため、従来は機関投資家向けの投資商品に限られていました。
デジタル証券化により、こうした大型資産を小口化することで、個人投資家にも投資機会が開かれます。航空機や船舶の所有権の一部を数万円から購入できるようになれば、分散投資の選択肢が大きく広がります。
三井物産グループのデジタル証券戦略
これまでの実績
三井物産デジタル・アセットマネジメントは、不動産分野で着実に実績を積み上げてきました。第1弾ファンドでは7億6,600万円を調達し、物流施設裏付け型STOでは7億9,100万円を集めました。2025年3月には「学芸大学・中野・浅草橋・大塚」の共同住宅4物件を投資対象とするデジタル証券も発行しています。
NTTデータとSecuritize Japanによるデジタル証券プラットフォームサービスの提供開始や、東京都によるデジタル証券市場拡大促進事業補助金の創設など、業界全体でのインフラ整備も進んでいます。
航空機・船舶への展開
三井物産が航空機・船舶のデジタル証券に参入する背景には、同社グループの強みがあります。三井物産は総合商社として、航空機リースや船舶事業に長年の実績を持っています。機材の目利き力やリース先との関係構築など、事業運営のノウハウを持つ点が競合優位性となります。
航空機・船舶のデジタル証券は日本初となるため、制度面での課題解決や投資家への認知度向上など、市場開拓のコストは必要です。しかし、先行者利益を獲得できれば、今後拡大が見込まれる市場で主導的な地位を確立できる可能性があります。
個人投資家にとってのメリットと注意点
投資家にとってのメリット
航空機・船舶のデジタル証券は、個人投資家にいくつかのメリットをもたらします。
まず、分散投資の選択肢が広がります。株式や債券、不動産に加えて、航空機や船舶という新たな資産クラスへの投資が可能になります。これらの資産は株式市場との相関が比較的低いため、ポートフォリオ全体のリスク分散効果が期待できます。
また、少額から投資できる点も魅力です。従来の航空機リース投資は最低投資額が数千万円から数億円でしたが、デジタル証券化により数万円程度から参入できるようになる見込みです。
さらに、ブロックチェーン技術により取引の透明性が確保され、所有権の履歴がすべて記録されるため、権利関係が明確になります。
投資に際しての注意点
一方で、投資にはリスクも伴います。航空機・船舶のリース収入は、航空需要や海運市況に左右されます。新型感染症の流行や地政学リスクにより、需要が急減する可能性もあります。
また、デジタル証券市場自体がまだ発展途上であり、二次流通市場の流動性が十分でない可能性があります。投資期間中に売却したくても、買い手が見つからないリスクを考慮する必要があります。
さらに、航空機・船舶のデジタル証券は日本初の取り組みであり、運用実績がありません。商品性やリスクについて十分な理解を深めてから投資判断を行うことが重要です。
まとめ
三井物産による航空機・船舶のデジタル証券発売は、日本の資産運用市場にとって画期的な動きです。これまで機関投資家や富裕層にしか開かれていなかった航空機・船舶投資への扉が、個人投資家にも開かれることになります。
航空機リース市場は2032年までに4,000億ドル超へ、船舶リース市場は2028年までに約260億ドルへの成長が見込まれています。こうした成長市場に個人投資家がアクセスできるようになることは、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させる可能性を秘めています。
投資を検討する際は、デジタル証券の仕組みや航空機・船舶市場の動向、そしてリスク要因について十分に理解した上で判断することが大切です。三井物産グループの不動産デジタル証券での実績や、業界全体でのインフラ整備の進展を踏まえると、航空機・船舶のデジタル証券は新たな投資選択肢として注目に値する商品となるでしょう。
参考資料:
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