Z世代8割が経験「ぬい活」で広がるクリーニング修繕ビジネス

by nicoxz

はじめに

「ぬい活」という言葉をご存知でしょうか。お気に入りのぬいぐるみを連れて外出したり、カフェで一緒に写真を撮ったりする文化のことです。Z世代を中心に広がるこのトレンドは、単なる一過性のブームではなく、新たなビジネス領域を生み出す原動力となっています。

特に注目されているのが、ぬいぐるみのクリーニングや修繕を手がける専門サービスです。外出や日常使いで汚れたぬいぐるみを、思い出を残しながらケアするこれらのサービスには、中小企業ならではの強みが活きています。本記事では、「ぬい活」市場の実態と、そこで成功を収める企業の戦略を詳しく解説します。

「ぬい活」とは何か:Z世代の8割が経験する新文化

ぬいぐるみを「家族」として扱う価値観

「ぬい活」は「ぬいぐるみ活動」の略称です。推し活の一環として始まったこのトレンドは、今やファッションやライフスタイルの一部として定着しています。SHIBUYA109 lab.が2025年に実施した調査によると、15〜24歳の女性の約8割が「ぬい活」を経験しており、その楽しみ方も多様化しています。

具体的には「バッグにつける」が59.4%、「日常的に持ち歩く」が39.4%、「景色やモノと一緒に写真を撮る」が37.9%という結果が出ています。ぬいぐるみは単なるグッズではなく、自己表現のツールやコミュニケーションのきっかけとして機能しているのです。

SNSが後押しする「ぬい撮り」文化

InstagramやTikTokでは、ぬいぐるみと一緒に旅行したり、カフェに連れて行ったりする様子を投稿する「ぬい撮り」が人気コンテンツとなっています。自撮りを避けたい人やプライバシーを守りたい人にとって、ぬいぐるみは自分の「分身」としての役割を担っています。

調査では、70.3%がぬいぐるみを持つことを「お守りを所持しているような感覚」と回答しています。癒しの存在であると同時に、精神的な支えとしての意味合いも強いことがわかります。

急成長するぬいぐるみケア市場

年間1万点を扱う専門クリーニング

「ぬい活」の広がりに伴い、ぬいぐるみのクリーニングや修繕を専門とする事業者が注目を集めています。山梨県の「ネットで洗濯.com」(運営:クリーニング403)は、その代表例です。1992年に創業したこの会社は、現在月に800点、年間約1万点のぬいぐるみクリーニングを手がけています。

2023年6月に公式Xに投稿した「しろたん」のクリーニング動画は、1,500万回以上表示され、約4万件のいいねを獲得しました。この投稿をきっかけに海外メディアにも取り上げられ、フォロワーは1週間で1万人増加。利用者数は約2倍に跳ね上がったといいます。

「思い出を残す」技術が差別化のカギ

成功企業に共通するのは、単純に新品のような見栄えに戻すのではなく、持ち主がぬいぐるみに触れてできた「個性」や「思い出」を残す工夫です。長年愛されてきたぬいぐるみには、抱きしめた跡や色褪せた部分など、持ち主との歴史が刻まれています。

アットデア株式会社では、30年以上の経歴を持つデザイナーと熟練職人が一体一体に最適な修理方法を検討しています。人にも環境にも優しい天然石けんで丁寧に手洗いし、縫製や整形などマニュアル化できない工程も多いため、職人の技術と判断力が問われます。

「病院」「診療所」という独自のアプローチ

ぬいぐるみを「患者」として扱う発想

横浜市の「ぬいぐるみのお医者さん」は、2018年の開院以来、1万件を超える治療実績を持つ専門店です。「病院」というコンセプトを掲げ、ぬいぐるみを「患者」、修理を「治療」と表現しています。この世界観づくりが、利用者の心理的ハードルを下げる効果を生んでいます。

入院中のぬいぐるみの状態は「チャットページ」で確認でき、治療の進捗報告や質問のやり取りが可能です。全国どこからでも宅配で依頼を受け付けており、海外からの問い合わせも増えているといいます。

「ダイアンぬいぐるみ診療所」の哲学

2022年に開業した横浜市緑区の「ダイアンぬいぐるみ診療所」は、スタッフ自身がぬいぐるみ愛好者であることを最大の強みとしています。ぬいぐるみやテディベアの製作・修理・お直し実績のある「医師」が治療を担当し、洋服のリフォームで培った技術を「直す」という発想に活かしています。

「ぬいぐるみをかけがえのない家族として愛しているからこそ、同じようにぬいぐるみを愛する方々が大好きな家族とずっと一緒に暮らせるようなお手伝いがしたい」という理念が、リピーターを生む原動力となっています。

市場拡大を支える複合要因

ぬいぐるみ市場全体の成長

国内のぬいぐるみ市場は着実に成長しており、2024年度は前年比115.3%増を記録しました。ぬいぐるみ本体だけでなく、洋服やアクセサリー、キャリーケース、撮影用小物など、「ぬい活」専用アイテムの市場も拡大しています。

キャラクターグッズ売場や雑貨店では「ぬい活コーナー」が設けられるなど、小売業界も積極的にこのトレンドを取り込んでいます。2025年のSHIBUYA109 lab.トレンド大賞では、「ぬい活」の広がりを受けて「キャラクター」部門が新設され、中国発のキャラクター「LABUBU(らぶぶ)」が1位に選ばれました。

中小企業に適したビジネスモデル

ぬいぐるみのケアサービスは、大量生産・大量消費とは対極にあるビジネスです。一体一体に向き合う丁寧な作業が求められるため、大企業よりも中小企業や個人事業主に適しています。職人技と顧客との密なコミュニケーションが差別化要因となり、価格競争に巻き込まれにくい構造があります。

修繕費用が4万円程度になるケースもありますが、リピート率は4割に達するという報告もあります。これは顧客満足度の高さと、「他では代えられない」サービスの価値を示しています。

今後の展望と注意点

海外需要の取り込み

SNSを通じて海外にも「ぬい活」文化が広がりつつあり、日本の専門サービスへの関心が高まっています。宅配クリーニングの仕組みを活かせば、国境を越えた顧客獲得も視野に入ります。ただし、輸送中の破損リスクや関税の問題など、クリアすべき課題もあります。

参入検討時の留意点

この市場への参入を検討する事業者は、技術力だけでなく「世界観づくり」の重要性を理解する必要があります。「病院」「診療所」といったコンセプトは、単なるマーケティング手法ではなく、ぬいぐるみを大切にする顧客の気持ちに寄り添う姿勢の表れです。

また、SNSでの情報発信力も成功の鍵となります。作業の様子を動画で公開することで、技術力のアピールと潜在顧客の開拓を同時に行えます。ただし、顧客のプライバシーへの配慮は欠かせません。

まとめ

「ぬい活」は一時的なブームではなく、Z世代の価値観を反映した持続的なトレンドです。ぬいぐるみを「家族」や「お守り」として大切にする文化が根付く中、クリーニングや修繕サービスへの需要は今後も拡大が見込まれます。

成功の鍵は、新品同様に戻すことではなく、思い出や個性を残しながらケアする技術力と姿勢にあります。大企業が参入しにくいニッチ市場だからこそ、中小企業や個人事業主にとって大きなチャンスが広がっています。

参考資料:

関連記事

最新ニュース