ぬい活が観光を変える、東横インの専用ベッドやJRの記念品
はじめに
お気に入りのぬいぐるみをお供に外出やSNS投稿を楽しむ「ぬい活」が、観光業界に新たな需要を生み出しています。インスタグラム上で「ぬい活」のハッシュタグがついた投稿は34万件以上、「ぬい撮り」は420万件以上に及び、もはや一過性のブームではなく定着したトレンドとなっています。
この動きを捉え、ホテル事業者の中にはぬいぐるみ専用の布団を提供するプランを打ち出すところも現れました。鉄道会社も撮影用の記念品を展開するなど、「ぬいと一緒の旅」を支援するサービスが広がっています。本記事では、ぬい活が観光産業にもたらす変化と、企業の対応策について詳しく解説します。
「ぬい活」とは何か
推しぬいと過ごす日常
「ぬい活」とは、推しのぬいぐるみ(通称「推しぬい」)を愛でて、日常のさまざまなシーンで共に過ごす活動のことです。カフェに連れていく、旅行に同行させる、写真を撮ってSNSに投稿するなど、楽しみ方は多岐にわたります。
2025年には新語・流行語大賞にもノミネートされ、社会現象として認知されるまでになりました。推し活人口1400万人のうち、ぬい活層が4割を占めるとも言われています。
市場規模の拡大
日本玩具協会が発表した2024年度の国内玩具市場規模によると、ぬいぐるみの市場規模は約450億円で、前年比115.3%と成長を続けています。ぬいぐるみの楽しみ方も多様化しており、複数のぬいぐるみを所有する人ほど「一緒にお出かけする」「一緒に旅行する」傾向が強いとされています。
かつては子ども向けのイメージが強かったぬいぐるみですが、現在ではZ世代から大人、さらにはシニア層まで幅広い世代が楽しむようになっています。癒し需要の高まりも市場を押し上げる要因となっています。
東横インの「推し活応援プラン」
ぬいぐるみ専用のお泊りセット
東横INNは、ぬい活ファンに向けた「推し活応援!〜ぬいと一緒にお泊り会プラン〜」を展開しています。通常の宿泊料金にプラス300円を支払うことで、ぬいぐるみやアクリルスタンドを寝かせるための専用セットをレンタルできます。
セット内容は、ミニベッド、掛け布団、枕、ガウン(SサイズとMサイズ)。実際に東横INNで使用しているものと同じ素材で製作されており、ぬいぐるみとの一体感を感じられるよう細部までこだわられています。
全国56店舗に拡大
このプランは大きな反響を呼び、東横INNは導入店舗を56店舗まで拡大しました。2026年2月には高知店のオープンにより、業界初となる全国47都道府県への進出を予定しています。
SNS上では「オタクに優しい」「推しと一緒に泊まれる」と好意的な反応が広がり、若年層を中心に支持を集めています。
企画誕生の背景
このプランは、東横INN社内の若手が集まる「Z世代プロジェクト」から生まれました。担当者自身もアクリルスタンドやぬいぐるみを旅先に連れていく推し活をしていたことがきっかけとなり、「自分が欲しいサービス」として企画されたといいます。
ユーザー視点に立った商品開発が、SNSでの共感を呼び、話題の拡散につながった好例といえます。
鉄道会社の取り組み
JRの「ぬい撮り旅」キャンペーン
JR各社も「ぬい活」需要の取り込みに動いています。「tabiwa」では「ぬいぐるみだって旅がしたい」というコンセプトのキャンペーンを実施しており、JRで行く旅の特典グッズと撮影した写真を「#tabiwa」「#ぬい撮り旅」のハッシュタグをつけて投稿できる仕組みを整えています。
鉄道グッズとキャラクターコラボ
JR西日本は「DISCOVER WEST mall」や「トレインボックス」で、車両モデルのオリジナルグッズやマスコットキャラクター「カモノハシのイコちゃん」関連商品を展開しています。ぬいぐるみやクッションチャームなど、旅先で撮影しやすいアイテムが人気を集めています。
また、「ハローキティ新幹線」のように、人気キャラクターとコラボした車両も話題となっており、ぬいぐるみと一緒に乗車して撮影を楽しむファンも多いとされています。
SNSマーケティングとの親和性
Instagram重視のZ世代
株式会社Utakataの調査によれば、Z世代が旅行プラン作成時に最も使用する媒体は、Google検索を抜いてInstagramが1位(33.12%)となっています。写真映えを重視する傾向が強く、「ぬい撮り」はまさにこのニーズに合致したコンテンツです。
ぬいぐるみと一緒に撮影した写真は、単なる風景写真よりも個性が出やすく、フォロワーの目を引きやすいという特徴があります。旅行先の選定においても「ぬい撮りに適したスポットかどうか」が判断基準の一つになっているケースもあります。
UGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用
観光施設や宿泊施設にとって、ぬい活ユーザーによる投稿は貴重なUGC(ユーザー生成コンテンツ)となります。オリジナルハッシュタグを設定することで、投稿を見た他のユーザーが実際にスポットを訪れ、さらに口コミを投稿するという好循環が生まれます。
広告費をかけずに認知度を高められる点で、ぬい活ユーザーは観光マーケティングにおいて重要なターゲット層となっています。
注意点・今後の展望
「ぬい旅代行」サービスも登場
ぬいぐるみを旅行先に送り、現地で撮影してもらう「ぬい旅代行」サービスも登場しています。人間が移動しなくても「ぬいが旅をする」需要があり、撮影付きプランは記念品にもなることからギフト需要も強いとされています。
2026年以降の展望
SHIBUYA109 lab.のトレンド予測2026では、「エコぬい活」がモノ・コト部門で注目されています。環境に配慮したエコ素材のぬいぐるみへの関心が高まっており、サステナビリティを意識した商品開発が求められる可能性があります。
全国の観光ホテルでも類似サービスが相次いでおり、「ぬいぐるみ旅行」という新ジャンルが確立しつつあります。推し活層が4割を占めるとされる中、この市場は今後さらに拡大することが予想されます。
企業にとっての機会
ぬい活ユーザーは、SNSでの情報発信に積極的で、お気に入りの場所やサービスを自発的に宣伝してくれる傾向があります。比較的低コストで対応できる「ぬい活向けプラン」を用意することで、口コミによる集客効果が期待できます。
一方で、単なる便乗ではなく、ユーザーの気持ちに寄り添った細やかな配慮が求められます。東横INNのように、担当者自身がぬい活を楽しんでいることが、本当に喜ばれるサービス設計につながっています。
まとめ
「ぬい活」は単なる趣味の域を超え、観光産業に新たな市場を創出しています。東横INNの専用ベッドプランやJR各社の撮影キャンペーンは、ニッチな需要を的確に捉えた成功事例といえます。
Instagram投稿34万件超という数字が示す通り、ぬい活は確実に定着したトレンドです。Z世代を中心としたSNSネイティブ層が旅行の意思決定においてInstagramを重視する中、「ぬい撮りに適した観光地・宿泊施設」というポジショニングは、今後の集客において重要な差別化要因となりそうです。
参考資料:
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