NVIDIA H200の対中輸出、米中間で駆け引き激化
はじめに
AI開発の要となる高性能半導体を巡り、米中間で複雑な駆け引きが展開されています。米政府は2026年1月、NVIDIAのAI半導体「H200」の対中輸出を条件付きで解禁しました。一方の中国は、当初輸入に難色を示す場面もありましたが、最終的に受け入れ準備を開始したと報じられています。
この動きは、AI技術覇権を巡る米中対立の新たな局面を示すものです。本記事では、H200輸出を巡る経緯、両国の思惑、そして中国の国産半導体開発の現状について詳しく解説します。
H200とは何か
NVIDIAの高性能AI半導体
H200は、NVIDIAが開発したAI向け高性能GPU(画像処理装置)です。同社のHopper世代に属し、FP16(半精度浮動小数点演算)で989.5テラフロップスの処理能力を持ちます。また、141GBのHBM(高帯域幅メモリ)と4.8TB/秒の帯域幅を備えており、大規模言語モデル(LLM)の学習や推論に適しています。
中国向けH20との違い
これまで中国市場向けには、性能を抑えた「H20」が販売されていました。しかしH20は大規模AIモデルの学習には性能が不十分とされ、中国のテクノロジー企業からはより高性能なチップへの需要が高まっていました。H200はH20を大幅に上回る性能を持ち、中国企業のAI開発を加速させる可能性があります。
米国の輸出規制緩和
トランプ政権の方針転換
2025年12月8日、トランプ大統領はNVIDIAに対し、H200を中国の「承認された顧客」に販売することを許可しました。これにより、バイデン政権時代から続いていた対中輸出の全面禁止措置が解除されました。
米商務省は2026年1月13日、H200など一部のAI半導体について、従来の輸出禁止ルールを見直し、案件ごとの許認可制に移行する方針を示しました。
輸出条件の詳細
今回の輸出解禁には、いくつかの重要な条件が付されています。
- 販売量の上限:中国向け販売は、米国顧客向け販売量の50%を超えてはならない
- 収益の分配:売上高の25%を米政府に納める必要がある
- 第三者検査:出荷前に第三者機関による技術検査が必要
- セキュリティ要件:中国の購入者は適切なセキュリティ手続きを整備し、軍事目的での使用がないことを証明する必要がある
なお、NVIDIAの最新・最高性能チップ「Blackwell」については、引き続き中国への販売が禁止されています。
中国の複雑な反応
当初は輸入拒否の姿勢
興味深いことに、米国が輸出を解禁した直後、中国側は輸入を拒否する動きを見せました。ロイター通信によると、2026年1月14日、中国の税関当局が職員に対しH200の輸入を許可しないよう通達したとされています。
この背景には、中国政府による国産半導体育成への配慮があるとみられています。米国製チップに依存することで、国内半導体産業の成長が阻害されることへの警戒感が働いたと考えられます。
セキュリティ懸念の表明
中国の国家インターネット情報弁公室は、NVIDIA関係者を呼び出し、H200より旧型のH20チップについてセキュリティ上の脆弱性やバックドアのリスクに関する説明と資料提出を求めました。これは表向きのセキュリティ懸念であると同時に、交渉カードとしての側面もあると分析されています。
最終的には受け入れへ
しかし、中国の大手テクノロジー企業からの強い需要を背景に、中国当局は最終的にH200の受け入れ準備を開始したと報じられています。ByteDanceやAlibabaなどの中国テック大手は、すでに200万個を超えるH200チップを発注しており、2026年中の納入が予定されています。
NVIDIAは2026年2月中旬、春節前にも最初のH200出荷を開始する計画で、初回出荷規模は4万〜8万個程度になる見通しです。
中国の国産半導体開発
ファーウェイのAscendシリーズ
米国の輸出規制を受け、中国では国産AI半導体の開発が加速しています。その中心にいるのがファーウェイ(華為技術)です。
ファーウェイのAI半導体「Ascend 910C」は、NVIDIAの「H100」の約65%の性能を持ち、中国勢ではトップの性能を誇ります。同社は2026年に910Cを約60万個生産する計画で、これは2025年の約2倍の規模です。Ascendシリーズ全体では、最大160万個の生産を目指しています。
次世代チップの投入計画
ファーウェイは今後3年間で4種類の次世代AI半導体を投入する計画を発表しています。
- 2026年第1四半期:推論処理向け「Ascend 950 PR」
- 2026年第4四半期:AI学習向け「Ascend 950 DT」
- 2027年第4四半期:汎用AI処理向け「Ascend 960」
- 2028年第4四半期:「Ascend 970」
オープンソース戦略
ファーウェイはエコシステム構築のため、Ascendチップ、AIトレーニングツールキット「CANN」、開発環境「Mind」などのオープンソース化を進めています。今後5年間で毎年約21億ドルをエコシステム開発に投資する予定です。
注意点・今後の展望
米国内での反発
H200の対中輸出解禁に対しては、米国内でも批判の声が上がっています。民主党の複数の上院議員は「経済と国家安全保障における大きな失敗だ」と批判しており、今後の政策変更リスクは残っています。
中国の「チップ自立」への道
2026年1月、中国のAI企業Zhipu(知譜)が、ファーウェイ製チップのみで学習した画像生成AIモデル「GLM-Image」を発表しました。これは中国のチップ自立に向けた重要なマイルストーンであり、長期的にはNVIDIA製品への依存度が低下する可能性を示唆しています。
両国の思惑
米国にとっては、輸出解禁によりNVIDIAの収益確保と中国市場での競争力維持という経済的メリットがあります。一方で、中国のAI技術発展を助長するリスクも抱えています。
中国にとっては、短期的には高性能チップの入手により AI開発を加速できますが、長期的な国産化戦略との整合性が課題となります。
まとめ
NVIDIA H200を巡る米中の動きは、AI技術覇権を巡る両国の複雑な関係を象徴しています。米国は条件付きで輸出を解禁し、中国は一時的な拒否姿勢を経て受け入れへと転じました。
今後の注目点は、この輸出がどの程度の規模で実現するか、そして中国の国産半導体開発がどこまで進むかです。AI半導体市場は、技術競争と地政学的対立が交錯する複雑な領域であり、引き続き注視が必要です。
参考資料:
- Trump administration clears way for Nvidia H200 chip sales to China with a 25% surcharge - CNBC
- Nvidia prepares shipment of 82,000 AI GPUs to China - Tom’s Hardware
- US Clears Path for Nvidia to Sell H200s to China Via New Rule - Bloomberg
- 中国ファーウェイ、26年に最先端AI半導体生産を大幅に拡大 - Bloomberg
- ファーウェイ、NVIDIA対抗の新AI半導体「Ascend 910D」開発 - JBpress
- 米政府が「H200」の対中輸出容認 - EE Times Japan
関連記事
AI半導体の対中輸出は「核兵器販売と同等」アンソロピックCEOが警告
アンソロピックのダリオ・アモデイCEOがダボス会議で、AI半導体の中国輸出を「北朝鮮に核兵器を売るようなもの」と批判しました。トランプ政権による輸出規制緩和の背景と安全保障上の懸念を解説します。
MicrosoftがAI半導体Maia 200発表、NVIDIA依存低減へ
Microsoftが自社開発のAI半導体「Maia 200」を発表しました。TSMCの3nmプロセスで製造され、データセンターでの生成AI処理効率を高めつつ、NVIDIAへの依存度を下げる狙いです。
日東紡のガラスクロス争奪戦、AI需要で供給危機
iPhoneやAI半導体に不可欠な日東紡の特殊ガラスクロスが深刻な供給不足に。NVIDIA、Google、Amazon、Appleが争奪戦を展開し、2027年まで逼迫が続く見通しです。
NVIDIA H200の中国輸入禁止、米中ハイテク覇権争いの新局面
中国税関がNVIDIAの最新AI半導体H200の輸入を実質禁止し、部品生産が停止。米国が条件付き輸出を承認した直後の措置で、200万個以上の注文が宙に浮く。米中技術覇権の構造的対立が鮮明に。
米半導体株が急騰、マイクロンは過去最高値更新
TSMC好決算を受け半導体セクターに買い殺到。マイクロン株は353ドルで史上最高値を記録し、AI需要の持続性を裏付ける。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。