NVIDIA一強時代の終焉か?AI半導体市場の勢力図が激変
はじめに
AI半導体市場において、NVIDIAの圧倒的な優位性に変化の兆しが見え始めています。データセンター向けAIチップ市場で約80〜95%のシェアを誇るNVIDIAですが、AMD、Google、そして新興スタートアップが猛追を開始しました。
一方、日本政府はAI・半導体分野に10兆円規模の支援を打ち出していますが、市場の変化スピードに追いついていないとの指摘もあります。「NVIDIAの次」を見据えた投資判断において、政府主導の成長戦略は本当に有効なのでしょうか。
本記事では、AI半導体市場の最新動向と、日本の半導体戦略が抱える課題について詳しく解説します。
NVIDIAの現在地と次世代戦略
圧倒的な市場支配力
NVIDIAは現在、AIアクセラレーター市場で80〜95%、ディスクリートGPU市場で92%(2025年度第1四半期時点)という圧倒的なシェアを握っています。2026年度第3四半期のデータセンター売上高は512億ドル(前年比66%増)に達し、総売上高570億ドルの90%を占めるまでに成長しました。
MLPerf v4.0ベンチマークでは、NVIDIAのHopper/BlackwellアーキテクチャがAMD MI300XおよびIntel Gaudiに対して、学習・推論の両方で優位性を実証しています。ソフトウェアエコシステムの面でも、CUDAプラットフォームは競合他社が容易に追いつけない堅牢な基盤を築いています。
次世代アーキテクチャ「Vera Rubin」
2026年1月のCESで、NVIDIAは次世代プラットフォーム「Vera Rubin」を発表しました。このプラットフォームは、CPU、DPU、GPU、ネットワークアクセラレータ、スイッチの6つのチップファミリーで構成されています。
注目すべきは「Vera CPU」と「Rubin GPU」です。Vera CPUは88コア176スレッドの自社設計ARM CPUで、電力効率は前世代の2倍に向上しています。Rubin GPUは初のHBM4メモリを統合し、FP4推論性能はBlackwellの5倍に達する見込みです。
ただし、増大する電力需要と熱問題への対応が課題となっており、NVIDIAはマイクロチャネル・コールドプレートなどの代替冷却ソリューションについて、Asia Vital Componentsと協議を進めています。
競合勢力の急速な台頭
AMDの反撃
AMDは現在、市場シェア15〜20%で推移していますが、着実に存在感を高めています。MI350シリーズ(2025年発売)はAMD史上最速の立ち上がりを記録し、MI450シリーズ(コードネーム「Helios」)は2026年第3四半期に発売予定で、ラックスケールでの性能リーダーシップを目指しています。
特筆すべきは、OpenAIとAMDの大型契約です。OpenAIにAMDの株式最大10%の取得を認める複数年契約が締結され、OpenAIは2026年に1ギガワットの導入を皮切りに、6ギガワットのAMD GPUを導入する予定です。これはAI分野における最大規模のハードウェア契約の一つとなります。
また、OracleもAMDのGPUとCPUを使用した初の一般公開AIスーパークラスターを2026年第3四半期に展開予定であり、AMDのエンタープライズ市場での存在感が急速に高まっています。
Googleの戦略的転換
Googleはこれまで、自社開発のTPU(Tensor Processing Unit)を「Google Cloud」の差別化要因として囲い込んできました。しかし、大きな戦略転換として、TPUの外部提供を検討し始めています。
GoogleとMetaの接近は、AIインフラが「NVIDIA一強」の時代から、GPU、TPU、各社独自チップ(ASIC)が適材適所で組み合わされる「ヘテロジニアスコンピューティング」時代への移行を象徴しています。
TrendForceの予測によると、2026年にはクラウドプロバイダーのカスタムASIC出荷が44.6%成長する一方、GPU出荷は16.1%成長にとどまる見込みです。ハイパースケーラーが独自シリコンへの投資を加速させている証左といえます。
スタートアップの躍進と再編
AI半導体スタートアップも市場を賑わせています。Cerebras、Groq、SambaNova の3社は、それぞれ独自のアプローチでNVIDIAに挑戦してきました。
しかし、2025年末から2026年にかけて、市場は大きな再編期を迎えています。NVIDIAは2025年12月、200億ドルでGroqとの戦略的買収を発表しました。GroqのLPU(Language Processing Unit)技術は、2026年後半のVera Rubinアーキテクチャで本格統合される見込みです。
一方、Cerebras Systemsは2026年第2四半期に大規模IPOを実施する意向を表明しており、評価額は220億ドルに達する可能性があります。ウェハースケールプロセッサという独自技術で、NVIDIAへの最初の真剣な脅威として注目されています。
日本政府の成長戦略と課題
10兆円規模の公的支援
日本政府は「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づき、2030年度までの7年間に10兆円以上の公的支援を行う方針を打ち出しています。これにより、10年間で50兆円を超える官民投資を促し、約160兆円の経済波及効果を目指しています。
2026年度予算案では、経済産業省の総額が前年度比約5割増の3兆693億円となり、最先端半導体やAI関連に計1兆2390億円(前年度比3.7倍)を計上しました。ラピダスへの支援には約7800億円が充てられ、累計支援額は約1兆8000億円に達します。
また、国産AI開発には2026年度から5年間で約1兆円を投じ、ソフトバンクやプリファードネットワークスなど10社以上が新会社を設立して1兆パラメーター級の大規模AIモデルを開発する計画も進んでいます。
「周回遅れ」との批判
しかし、こうした政府主導の戦略には批判的な見方もあります。東京大学の江崎浩教授は、YouTubeの番組「アカデミアクロス」(2024年7月収録)で、NVIDIAについて「マーケットの詐欺」「今のエヌビディアは昔のアメ車」と歯切れよく語り、2〜3年後を見据えた投資判断の重要性を指摘しています。
問題は、政府の戦略が市場の変化スピードに追いついていない点です。AI半導体市場では、NVIDIAによるGroq買収やCerebrasのIPOなど、数カ月単位で大きな再編が起きています。政府が策定する「官民投資ロードマップ」が完成する2026年6月頃には、市場の勢力図がさらに変わっている可能性があります。
また、2025年の世界半導体市場が急成長する中、日本市場だけがマイナス成長という現実もあります。日本の半導体市場シェアは5%台まで下落し、2032年の先端ロジック半導体のウエハー生産能力予測では、台湾47%、米国28%、韓国9%、欧州6%に対し、日本は5%にとどまる見込みです。
時間との戦い
専門家からは、2025〜30年の間に先端ロジックの国内拠点を築かないと、日本に対する期待は薄れ手遅れになるとの警告も出ています。優秀なエンジニアの多くは中国、韓国、台湾で活躍しており、高齢化も相まって人材確保の時間的猶予は限られています。
経産省の半導体戦略については、「先端ロジックや超先端ロジックにリソースを集中してきたが、日本が競争力を維持してきたメモリ、センサ、マイコン、アナログパワー、製造装置や材料の強化も重要」との指摘もあります。
注意点・今後の展望
投資判断における注意点
「NVIDIAの次」を予測することは容易ではありません。市場のコンセンサスが形成される頃には、すでに株価に織り込まれている可能性が高いからです。
また、AI半導体市場は技術革新のスピードが速く、数年前の「有望株」が買収されたり、市場から撤退したりするケースも珍しくありません。Groqの例が示すように、競合と見られていた企業がNVIDIAに取り込まれることもあります。
市場構造の変化
Deloitteの予測によると、2026年までに推論がAIコンピューティング全体の3分の2を占めるようになります。これは、学習中心だったこれまでの市場構造が大きく変わることを意味し、推論に強みを持つ企業にとって追い風となる可能性があります。
また、中国市場の動向も無視できません。米国による輸出規制を受け、中国は国内でのAI半導体製造能力を急速に強化しており、一部の工場では2025年末までに生産能力を3倍に増強する計画が進行しています。
日本の勝ち筋
日本政府が掲げる「フィジカルAI」(ロボットや機械をAIが自律制御する技術)は、日本の製造業が持つ豊富な産業データを活用できる分野であり、一定の競争力が期待されます。ただし、これも市場主導で進めるのか、政府主導で進めるのかによって成果は大きく異なるでしょう。
まとめ
AI半導体市場は、NVIDIA一強時代から多極化の時代へと移行しつつあります。AMD、Google、新興スタートアップの台頭により、競争環境は急速に変化しています。
日本政府は10兆円規模の支援策を打ち出していますが、市場の変化スピードに政策決定が追いついていないとの批判があります。「NVIDIAの次」を見極める上で重要なのは、政府の成長戦略ではなく、市場の声に耳を傾けることかもしれません。
投資家や企業にとっては、特定の技術や企業に過度に依存せず、市場構造の変化を注視しながら柔軟に対応していくことが求められます。
参考資料:
- 2025年のAI半導体を読む 王者NVIDIAと競合の現在地 | Ledge.ai
- Top 20+ AI Chip Makers: NVIDIA & Its Competitors in 2026
- AI・半導体産業基盤強化フレーム | 経済産業省
- 経産関連、総額3兆693億円へ | 時事通信
- ラピダス支援に7800億円 | 北海道新聞
- 2025年を振り返る:世界半導体市場が急成長するも日本市場だけマイナス成長 | セミコンポータル
- GoogleとMetaが「反NVIDIA連合」結成か? | XenoSpectrum
- CES2026 NVIDIA CEO Jensen Huang氏の基調講演レポート | GDEP
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