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by nicoxz

パナソニックがドイツで暖房販売倍増、tado提携の全貌

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はじめに

欧州の暖房市場が大きな転換期を迎えています。EUの脱炭素政策を背景に、従来のガスボイラーからヒートポンプ式暖房への切り替えが加速するなか、パナソニックホールディングス傘下の空質空調社がドイツ市場で存在感を高めています。

同社が手掛けるヒートポンプ式温水暖房機「Aquarea」の販売台数が、ドイツにおいて直近で倍増しました。その原動力となっているのが、ドイツ・ミュンヘン発のスタートアップ企業tado(タド)との資本業務提携です。

本記事では、パナソニックとtadoの提携の詳細、ヒートポンプ暖房の仕組みと利点、そして欧州市場における今後の展望について解説します。

パナソニックのヒートポンプ暖房事業

Aquareaブランドの歩み

パナソニックは2008年から欧州全域でA2W(エア・トゥー・ウオーター)型ヒートポンプ式温水暖房機を「Aquarea」ブランドで展開してきました。A2Wとは、電気を使って大気中の熱を取り込み、温水をつくる暖房方式です。ガスや灯油を燃焼させる従来のボイラーに比べ、CO2排出量を大幅に削減できます。

同社はチェコとマレーシアに生産拠点を持ち、2020年代後半までにグローバルの生産能力を現状比約7倍の100万台体制にする計画を掲げています。この目標に向けて、今後3年間で500億円規模の投資を実施する方針です。

欧州事業への大規模投資

パナソニックは欧州の空質空調事業に総額約800億円を投じています。内訳はA2W事業強化に500億円、チェコ工場の増強に150億円、スウェーデンの大手空調機器メーカーであるシステムエア社の空調事業部門買収に150億円です。

さらに、日系メーカーとして初めて自然冷媒「R290」を採用した住宅用A2Wを2023年5月に発売しました。2024年11月には業務用ヒートポンプ式温水暖房機「Aquarea T-CAP Mシリーズ」を投入し、非住宅分野への展開も進めています。

tado提携が生んだ販売倍増の仕組み

tadoとは何か

tado(タド)は2011年にドイツ・ミュンヘンで創業したエネルギー制御ソリューション企業です。スマートサーモスタットの製造・販売を主力とし、モバイルアプリによる遠隔操作やエネルギー消費の最適化サービスを提供しています。欧州を中心に約100万世帯の顧客を持ち、将来のユニコーン企業候補として「Tech Tour Growth 50」にもノミネートされた注目のスタートアップです。

段階的に深化した提携関係

パナソニックとtadoの提携は、段階的に深化してきました。

2024年3月に業務提携を締結し、A2W専用ソフトウェアの共同開発と、製品・サービスの提案・販売における協力を開始しました。2024年11月には、Aquareaとtadoのルームコントロールをセットにしたバンドル製品を欧州の一部市場で発売しています。

そして2025年3月には、暖房機器メーカーとしては初となる資本業務提携に踏み切り、第三者割当増資を引き受ける形で3,000万ユーロ(約48億円)を出資しました。パナソニックはtadoの取締役会に席を得ています。

IoTとスマート制御が差別化のカギ

tadoのスマートサーモスタットとパナソニックのAquareaを組み合わせることで、暖房システムの効率が大幅に向上します。具体的には、室内の温度データや在宅状況をリアルタイムで把握し、ヒートポンプの運転を最適化します。これにより、エネルギー消費量を最大約20%削減できるとされています。

さらに、ドイツやオーストリアで提供されているtadoの「HOURLYタリフ」では、電力料金が安い時間帯を自動で特定し、その時間にヒートポンプを稼働させることでランニングコストを低減します。2025年9月には共同開発の第一弾として「AQUAREA Sync」と「油圧バランシング」機能をリリースし、工事なしで補助金申請の要件を満たせる仕組みも整えました。

こうしたソフトウェアとハードウェアの融合が、単なる暖房機器メーカーとの差別化につながり、ドイツでの販売倍増を支えています。

欧州ヒートポンプ市場の現状と課題

市場は一時的な減速局面

欧州のヒートポンプ市場は、2022年に販売台数が過去最高を記録しました。しかし、2023年から2024年にかけてはガス価格の下落や各国の補助金縮小・終了の影響で減速しています。住宅着工件数の減少も逆風となりました。

一方で、英国は最大7,500ポンド(約8,600ユーロ)の補助金制度を維持し、アイルランドも2024年に前年比19%増の販売を達成するなど、国によって明暗が分かれています。

中長期的な成長は確実

短期的な減速にもかかわらず、中長期的には市場拡大が確実視されています。EUの「欧州グリーンディール」や「Fit for 55」政策がヒートポンプの普及を後押ししており、2027年からはEU排出量取引制度の拡張版(EU ETS2)が暖房分野にも炭素価格を導入する予定です。これにより、化石燃料ボイラーのコスト競争力がさらに低下し、ヒートポンプへの切り替えが加速する見通しです。

欧州の大規模ヒートポンプ市場は2024年の約5億ドルから2032年には約14億ドルに成長すると予測されています。

日系メーカー間の競争も激化

欧州ヒートポンプ市場では、日系メーカー同士の競争も激しさを増しています。ダイキンは400億円超を投じてポーランドに新工場を建設し、2025年に年間40万台の生産能力を確保する見込みです。三菱電機もトルコの生産拠点を増強し、年間30万台の製造体制を整えています。

注意点・展望

パナソニックのドイツでの成功は、単にハードウェアの品質だけでなく、IoTプラットフォームとの融合という戦略が奏功した結果です。ただし、いくつかの留意点があります。

まず、欧州のヒートポンプ市場は政策依存度が高い点です。補助金の変更や電力・ガス価格の変動により、需要が大きく左右されます。ドイツでも過去に補助金制度の変更で市場が冷え込んだ経験があります。

次に、施工人材の不足が成長のボトルネックになる可能性があります。ヒートポンプの設置には専門技術が必要で、人材育成が普及速度を左右する要因の一つです。

一方で、2027年のEU ETS2導入は大きな追い風となります。暖房分野への炭素価格導入は、ガスボイラーからヒートポンプへの切り替えを経済合理性の面からも後押しするため、パナソニックを含む日系メーカーにとって大きな事業機会が見込まれます。

まとめ

パナソニックがドイツでヒートポンプ式温水暖房機の販売を倍増させた背景には、独スタートアップtadoとの戦略的提携がありました。スマート制御技術とハードウェアの融合により、エネルギー効率の向上とコスト削減を実現したことが、市場での差別化につながっています。

欧州ヒートポンプ市場は短期的な調整局面にありますが、脱炭素政策の強化を背景に中長期的な成長は確実視されています。パナソニックが800億円規模の投資と100万台の生産体制構築を進めるなか、tadoとのIoT連携がどこまで他の欧州市場に展開されるかが、今後の成長を左右する重要なポイントです。

参考資料:

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