フィジカルAI本格導入時代へ、ヒューマノイド年3万台量産
はじめに
CES 2026で、フィジカルAIの本格導入時代の幕開けを告げる発表が相次ぎました。韓国の現代自動車(ヒョンデ)は2028年までにヒューマノイドロボットを年3万台量産すると発表。NVIDIAはフィジカルAI向けの新たなオープンモデルとプラットフォームを公開しました。
この記事では、フィジカルAIとは何か、現代自動車とNVIDIAの発表内容、そして産業界への影響について詳しく解説します。
フィジカルAIとは
現実世界で動くAI
フィジカルAIとは、現実世界を理解し、推論し、行動を計画するAIのことです。チャットボットのようなデジタル空間で動作するAIとは異なり、ロボットや自動運転車など「体」を持つシステムを制御します。
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「ロボティクスにとってのChatGPTの瞬間が到来しました」と宣言しています。生成AIが言語や画像の分野で革命を起こしたように、フィジカルAIが現実世界の自動化に革命をもたらすとの期待が高まっています。
2025年から2026年への進化
2025年はフィジカルAIといえばヒューマノイド(ヒト型ロボット)という印象でしたが、2026年に入りその適用範囲が拡大しています。自動運転車向けのAIプラットフォームも発表され、フィジカルAIのフィールドが広がりを見せています。
現代自動車のヒューマノイド戦略
年3万台の量産計画
韓国の現代自動車は、CES 2026でヒューマノイドロボット「Atlas」を初公開し、2028年までに年3万台を量産する計画を発表しました。自動車メーカーがヒューマノイドの大量生産に乗り出すという点で、産業界に大きなインパクトを与えています。
ヒョンデが傘下に持つBoston Dynamics社の技術を活用し、産業工場分野から導入を開始する方針です。人手不足が深刻化する製造現場への投入が想定されています。
工場での活用を想定
最初の導入先として産業工場分野が選ばれた理由は、環境の予測可能性にあります。工場は構造化された環境であり、ロボットが動作するための条件が整いやすいためです。
量産台数の年3万台という数字は、従来の産業用ロボットとは桁違いのスケールです。ヒューマノイドが単なる研究対象から、実用的な産業ツールへと転換することを示しています。
NVIDIAの新プラットフォーム
フィジカルAI向けオープンモデル
NVIDIAは2026年1月5日、CES 2026でフィジカルAI向けの新たなオープンモデルを発表しました。具体的には以下の技術が公開されています。
- NVIDIA Cosmos Transfer 2.5およびCosmos Predict 2.5: 世界モデルの構築を支援
- NVIDIA Cosmos Reason 2: 推論能力を強化
- NVIDIA Isaac GR00T N1.6: ヒューマノイドロボット向けの視覚言語行動(VLA)モデル
これらはオープンソースとして公開され、開発者が自由に活用できます。
自動運転向けAlpamayo
NVIDIAは自動運転向けの新プラットフォーム「Alpamayo」も発表しました。自動運転車に「思考」を与えるもので、レベル4自動運転への道筋を示しています。
フィジカルAIの適用範囲がヒューマノイドだけでなく自動運転車にも広がることで、市場機会は一層拡大すると見られています。
パートナー企業との連携
Boston Dynamics、Caterpillar、Franka Robotics、LG Electronics、NEURA Roboticsなど世界的なリーダー企業が、NVIDIAのロボティクススタックを活用して新たなAI駆動ロボットを公開しています。エコシステムの広がりがフィジカルAIの普及を加速させる構図です。
市場規模と成長予測
巨大市場の出現
ヒューマノイドロボット市場は急成長が予測されています。2025年に約78億ドルと評価される市場は、2030年には270億ドルを超え、2035年には1819億ドルに達するとの予測があります。年平均成長率(CAGR)は37%という驚異的な水準です。
ゴールドマン・サックスは、人型ロボット市場が2035年までに380億ドル(約5.5兆円)に達する可能性を示唆しています。モルガン・スタンレーは、2050年に10億台以上のヒト型ロボットが使われると予想しています。
ヒューマノイドを含む多用途ロボット市場
より広い定義の多用途ロボット市場は、2040年までに約60兆円規模に達する見込みです。ただし、現状の動向が続くと市場規模の半分以上を中国が獲得すると想定されており、国際競争は激化しています。
日本企業の動向
IT企業とメーカーの協業
日本では、産業用ロボットで世界4強の一角を占めるファナックが米NVIDIAと、安川電機がソフトバンクとの提携を発表しました。IT企業とロボットメーカーの協業が進んでいます。
ソフトバンクグループは、スイスのABB社のロボティクス事業を約8187億円で買収し、フィジカルAI事業の開拓を目指しています。日立製作所もNVIDIAのシステムを採用したAI Factoryの構築を発表しました。
政府の支援策
高市早苗政権はAI分野に1兆円規模の投資を打ち出しており、フィジカルAIは特に注力する技術と位置づけられています。令和6年補正予算では220億円がフィジカルAI開発促進に計上されました。
ただし、米中のスタートアップが時価総額数千億円〜数兆円規模で資金調達も数千億円に達するのに対し、日本は数十〜数百億円に留まっており、規模の差は歴然としています。
注意点と今後の展望
技術的課題
フィジカルAIには依然として技術的課題が残っています。複雑な環境での動作、安全性の確保、コスト削減などが実用化に向けた障壁です。工場のような構造化された環境から導入が始まるのは、こうした課題を段階的にクリアするためでもあります。
雇用への影響
ヒューマノイドロボットの大量導入は、労働市場に大きな影響を与える可能性があります。人手不足の解消に貢献する一方で、一部の職種では雇用の置き換えが進む可能性もあり、社会的な議論が必要です。
国際競争の激化
フィジカルAI市場は米中を中心に競争が激化しています。日本企業がどのようにポジションを確保するかが、今後の産業競争力を左右する重要なテーマとなります。
まとめ
CES 2026は、フィジカルAI本格導入時代の幕開けを告げるイベントとなりました。現代自動車のヒューマノイド年3万台量産計画、NVIDIAのオープンプラットフォーム公開は、産業界に大きなインパクトを与えています。
AIが「体」を得ることで、製造業から物流、医療まで幅広い分野での自動化が加速すると期待されています。日本企業もこの波に乗り遅れないよう、技術開発と事業戦略の強化が求められています。
参考資料:
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