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by nicoxz

国交省が地域交通データ共有を義務化へ、路線再編を加速する法改正案

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はじめに

地方のバス路線の廃止や減便が相次ぐなか、国土交通省が地域の公共交通を立て直すための新たな一手を打ち出しました。国交省は、バスやタクシー、ローカル鉄道などの乗降データを官民で共有しやすくするための地域公共交通活性化再生法の改正案を国会に提出する方針です。この改正案では、自治体が交通事業者に対してデータ提供を要請した場合、事業者は原則として応じることが求められます。

2030年にはバス運転手が約3万6,000人不足するとの推計もあり、限られた人材と予算のなかで地域の足をどう維持するかは喫緊の課題です。利用実態を正確に把握し、エビデンスに基づいた路線再編や車両の小型化、デマンド交通への転換などを進めるうえで、データ共有の仕組みづくりは極めて重要な意味を持ちます。

法改正案の背景と概要

交通事業者と自治体の間にあった「データの壁」

これまで、バスや鉄道の乗降客数、利用者の乗降パターンといったデータは、各交通事業者がそれぞれ保有しているのが一般的でした。自治体が地域の公共交通計画を策定しようとしても、事業者からのデータ提供は任意であり、競合他社への情報流出を懸念して開示に消極的なケースも少なくありませんでした。交通政策審議会の取りまとめにおいても、「事業者と自治体による交通データの共有が十分に行われていない」ことが課題として明確に指摘されています。

こうした状況のもとでは、自治体が路線の再編や新たなモビリティサービスの導入を検討する際に、利用実態に基づいた合理的な判断を下すことが困難でした。結果として、利用者が極端に少ない路線がそのまま維持される一方で、潜在的な需要がある地域にサービスが行き届かないといったミスマッチが生じていたのです。

改正案の主なポイント

今回の地域公共交通活性化再生法の改正案では、以下のような仕組みが盛り込まれる見通しです。

まず、自治体がバス、タクシー、鉄道などの交通事業者に対して乗降客数や運行データの提供を要請できる法的根拠が明確化されます。事業者は原則としてこの要請に応じることが求められますが、他社との競争関係など正当な理由がある場合には例外的に拒否できる余地も残されています。

次に、提供されたデータの利用目的や管理方法についてもルールが整備される見込みです。事業者の営業秘密に配慮しつつ、地域公共交通計画の策定や路線再編の検討など、公益性の高い目的に限ってデータを活用する枠組みが構築されます。

これにより、自治体は地域全体の交通ネットワークを俯瞰的に把握できるようになり、バスとタクシー、鉄道と自転車シェアリングなど、異なる交通モード間の連携を含めた最適な交通体系の設計が可能になると期待されています。

データ活用で変わる地域交通のかたち

「リ・デザイン」の全面展開とデータ基盤

国土交通省は2023年に「地域公共交通のリ・デザイン」という政策コンセプトを打ち出しました。これは、官民共創・事業者間共創・他分野共創という「3つの共創」を柱として、地域公共交通の利便性・持続可能性・生産性を同時に向上させる取り組みです。

2025年3月には「地域公共交通計画のアップデートガイダンスVer1.0」が公表され、モビリティデータを活用した計画策定の具体的な方法論が示されました。このガイダンスでは、市町村がモビリティデータを利活用し、機動的かつ横断的な実行体制のもとで交通計画を策定することが推奨されています。

今回の法改正は、このリ・デザインを全国的に加速させるための制度的な裏付けとなるものです。データに基づいて路線の統廃合や運行頻度の見直し、車両の小型化による効率的な運行などを進めることが、より現実的になります。

デジタル技術との連携:MaaS 2.0とGTFS

データ共有を実効性あるものにするためには、データの形式を標準化することも重要です。国土交通省は「標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)」の普及を推進しており、バスの時刻表や運行ルートなどの静的情報と、遅延やリアルタイムの位置情報などの動的情報を、共通のフォーマットで管理できる仕組みが整備されつつあります。

また、2025年4月には「地域交通DX:MaaS 2.0プロジェクト」がスタートしました。初年度には全国19のプロジェクトが選定され、デジタル技術を活用した地域交通の利便性向上や産業構造の強靱化に取り組んでいます。「サービス」「データ」「マネジメント」「業務プロセス」の4つの観点からデジタル活用を進める構成となっており、データ標準化やビジネスモデルの共通化を通じた知見の横展開が目指されています。

さらに、2025年には公共交通オープンデータ協議会がGTFS-Flex形式を含むデマンド交通のデータを初めて公開するなど、予約型の乗り合い交通を含めたデータ整備も着実に進んでいます。法改正によるデータ共有の促進は、こうしたデジタル基盤のうえに成り立つことで、真の効果を発揮するといえるでしょう。

デジタル庁のモビリティ・ロードマップとの連携

2025年6月にはデジタル庁が「モビリティ・ロードマップ2025」を公表しました。このロードマップでは「交通商社機能の確立」「各種支援策の整備」「先行的事業化地域の選定」の3つを重点施策として掲げています。

交通商社機能とは、さまざまなモビリティサービスへの需要の配分や配車手配を一元的に管理するデジタルツールを共通基盤として整備する構想です。移動需要データを活用して最適な交通サービスを設計するためには、今回の法改正で促進されるデータ共有が不可欠な前提条件となります。国交省の法改正とデジタル庁のロードマップは、相互に補完し合う形で地域交通の変革を後押しすることになるでしょう。

注意点・今後の展望

今回の法改正案にはいくつかの注意すべき点もあります。

第一に、データ提供の「原則応諾」といっても、競合関係などの正当な理由があれば拒否できる例外規定が設けられています。この例外の範囲がどこまで広がるかによっては、実効性が限定的になる可能性もあります。

第二に、データを受け取る自治体側の分析・活用能力の問題があります。人口数万人規模の市町村では、交通データを分析して計画に反映できる専門人材が不足しているケースも多く、データ共有の仕組みだけでは問題は解決しません。国交省はガイダンスの提供や専門人材の確保・養成にも取り組む方針ですが、その実効性が問われることになるでしょう。

第三に、利用者の乗降データにはプライバシーの観点から慎重な取り扱いが求められます。個人を特定できない形への加工処理や、データの管理・廃棄に関するルールの整備も今後の重要な論点です。

一方で、ローカル鉄道については、輸送密度が1日1,000人未満の線区について国・自治体・事業者による存廃協議の仕組みがすでに動き出しています。JR各社が路線別の収支データを公開する流れも進んでおり、今回の法改正はこうした動きをさらに後押しするものとなりそうです。

まとめ

国土交通省が提出する地域公共交通活性化再生法の改正案は、バスやタクシー、ローカル鉄道の乗降データを官民で共有しやすくすることで、エビデンスに基づく路線再編や交通サービスの最適化を促進するものです。運転手不足や人口減少が進むなかで、限られたリソースを最大限に活用して地域の足を守るためには、データによる「見える化」が欠かせません。

MaaS 2.0やGTFS標準化、デジタル庁のモビリティ・ロードマップといった関連施策と連動することで、今回の法改正が地域公共交通の「リ・デザイン」を本格的に加速させることが期待されます。法改正が実現した後には、各地域でデータに基づく具体的な交通改善の成果が生まれるかどうかが、真の評価基準となるでしょう。

参考資料

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