新宿駅60年ぶり大再開発、上空デッキで東西統合へ
はじめに
1日あたり約350万人が利用し、ギネス世界記録にも認定されている世界最大のターミナル駅・新宿駅で、約60年ぶりとなる大規模再開発が本格化しています。計画の中核となるのが、線路上空に架けられる長さ約120メートルの東西デッキです。
長年、歌舞伎町をはじめとする東口の繁華街と、都庁が立ち並ぶ西新宿のオフィス街は、JRの線路によって分断されてきました。この東西デッキの完成により、新宿の東西が一体化し、「大新宿」とも呼ばれる新たな都市像が生まれようとしています。本記事では、新宿グランドターミナル構想の全体像と、各再開発プロジェクトの進捗を詳しく解説します。
新宿グランドターミナル構想の全体像
約60年ぶりの駅大改造
新宿駅は、JR東日本、小田急電鉄、京王電鉄、東京メトロ、都営地下鉄など合わせて14路線が乗り入れる巨大ターミナルです。1日の乗降客数は約270万人(2022年ギネス認定値)から約350万人に達し、横浜市の人口に匹敵する規模です。
しかし、駅施設の多くは1960年代の西口副都心開発時に整備されたもので、老朽化が進んでいました。東京都は2021年7月に「新宿グランドターミナル」の再構成に着手することを発表。事業期間は2047年3月までの約25年間に及ぶ壮大なプロジェクトです。
東西を分断してきた構造的課題
新宿駅の最大の課題は、JRの線路が東西を物理的に分断していることでした。東口側には歌舞伎町や伊勢丹などの商業・繁華街エリアが広がり、西口側には都庁をはじめとする超高層オフィスビル群が林立しています。しかし、この2つのエリアの間を行き来するには、地下通路を迂回するか、限られた改札口を経由する必要がありました。
2020年には地下の東西自由通路が開通し、改札を通らずに東西を行き来できるようになりましたが、地下通路のみでは回遊性に限界がありました。この課題を根本的に解決するのが、線路上空に架けられる東西デッキです。
線路上空120mの東西デッキ
2035年度に一部完成予定
新宿グランドターミナル構想の目玉となる東西デッキは、JR線路の上空に架けられる歩行者専用のデッキです。地上2階レベルに設置され、長さ約120メートルにわたって東口と西口を直接つなぎます。
このデッキは単なる通路ではなく、人々が滞在できる広場的な空間「セントラルプラザ」として整備される計画です。東西デッキと南北デッキにより全方位への移動が可能となり、歩行者が道路を横断することなくスムーズに駅周辺を回遊できるようになります。
2035年度には東西デッキと東西駅前広場が一部完成する予定で、線路上空からの新たな東西往来が確保されます。これにより、新宿の東西エリアが初めて地上レベルで一体化することになります。
「人中心」の駅前空間へ
東京都は駅前広場の再整備にあたり、「人中心の都市空間」というコンセプトを掲げています。現在の西口駅前広場は、バスやタクシーの乗降場が中心で、歩行者にとって快適な空間とは言い難い状態です。
再整備後は、地上1階に交通広場(バス・タクシー)を集約し、地上2階を歩行者専用の広場空間とすることで、車と歩行者を立体的に分離します。広場内の車道を南北方向への通り抜け不可とすることで、歩行者の安全性と快適性を大幅に向上させる計画です。
西口エリアの大規模再開発
小田急百貨店跡地:260m超高層ビル
西口再開発の先行プロジェクトとして、小田急百貨店新宿店本館の跡地に48階建て・高さ約260メートルの超高層複合ビルが建設中です。小田急電鉄、東京メトロ、東急不動産の3社が共同で進める「新宿駅西口地区開発計画」で、2024年3月に新築着工しました。
ビルの規模は地上48階・地下5階、延べ床面積は約25万1,000平方メートルです。地下2階から地上10階には新宿エリア最大規模の商業施設が入り、14階から46階はオフィスフロアとなります。2029年度の竣工を目指しており、完成すれば都庁第一本庁舎(243メートル)を超える新宿エリアの新たなランドマークとなります。
京王百貨店周辺:南北2棟の複合ビル
京王百貨店を含む「新宿駅西南口地区」でも大規模再開発が進行中です。京王電鉄とJR東日本が中心となり、約1.9ヘクタールの区域で2棟の複合ビルが建設されます。
北街区は現在の京王百貨店とルミネ1がある場所で、地上19階・高さ約110メートルのビルが計画されています。南街区は新宿サザンテラスに面した場所で、地上37階・高さ約225メートルのビルが建設予定です。南北400メートルにわたる「スカイコリドー」と呼ばれる歩行者デッキも整備され、北街区と小田急の新ビルを2階・5階・9階で接続する「新宿テラス」も設けられます。
南街区は2028年度までの完成を目指しており、北街区は2040年代の完成予定です。
注意点・展望
副都心としての復権なるか
新宿は1960年代に副都心として開発が始まり、1991年の東京都庁移転で全盛期を迎えました。しかし、その後は六本木ヒルズ(2003年)、東京ミッドタウン(2007年)、渋谷スクランブルスクエア(2019年)など、周辺エリアの再開発に押され、相対的な地位が低下していました。
今回の再開発は、新宿が失いかけていた求心力を取り戻す契機になると期待されています。東西統合による回遊性の向上は、エリア全体の商業価値を高める効果が見込まれます。一方で、全体の完成は2047年と20年以上先であり、その間に他エリアの開発がさらに進む可能性もあります。
工事期間中の影響
約25年にわたる大規模工事は、駅利用者や周辺の商業施設に少なからず影響を与えます。小田急百貨店はすでに2022年10月に本館の営業を終了しており、京王百貨店も今後解体に入る予定です。工事期間中は仮設通路や動線の変更が頻繁に発生するため、利用者は最新の案内情報を確認する必要があります。
また、完成後の新宿がオフィス需要の変化(リモートワークの定着など)にどう対応するかも注目されます。オフィスと商業の複合利用を前提とした設計が、将来のワークスタイルの変化に対応できるかが問われます。
まとめ
新宿駅の約60年ぶりとなる大規模再開発「新宿グランドターミナル構想」は、線路上空の東西デッキを核として、世界一の巨大ターミナルを根本から生まれ変わらせるプロジェクトです。小田急百貨店跡地の260メートル超高層ビル(2029年度竣工予定)、京王百貨店周辺の2棟のビル、そして2035年度の東西デッキ完成と、段階的に新宿の景色が変わっていきます。
東西の分断を解消し、歩行者中心の都市空間を実現することで、新宿は副都心としての存在感を再び高めることができるでしょうか。2047年の全体完成に向けて、東京を代表する巨大プロジェクトの行方に注目が集まります。
参考資料:
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